第26話 新しい聖女と別れの朝
第26話をお届けします。
新しい聖女の登場と、アリアの教会預かりを描きました。
二人の別れの予感と、上層部の冷たい決定が物語をさらに暗く進めています。
これからディオン一人での苦闘が始まります。
シリアスな心理描写をお楽しみください。
王都セルフィア、大聖堂の控室。
アリアが教会に預けられることが正式に決まった朝だった。
ディオンは黒い長衣のまま部屋の隅に立ち、灰色の瞳で窓の外を見つめていた。表情は固く、感情を殺したままだ。英雄の力が強まった代償で、胸の疼きは日増しに激しくなっていた。
アリアはベッドの端に座り、銀髪を丁寧に梳かされていた。白い聖女衣装はすでに教会のものに替えられ、青みがかった金色の瞳には静かな諦めと、強い未練が混じっていた。
高位司教ガルドが部屋に入り、穏やかな声で告げた。
「アリアよ。新しい聖女が選ばれた。彼女の名はセレナ。君より二歳年上で、浄化の力が非常に強いと期待されている。今日から英雄卿の補佐を務めることになる」
アリアの指が小さく震えた。
「セレナ……様……ですか」
ガルドは優しく頷いた。
「君は今日から教会の療養施設に移る。英雄卿の呪いは強まり続けている。新しい聖女の浄化で抑えなければならない。君の献身は教会も感謝しているよ」
その言葉に、アリアは静かに頭を下げた。
「ありがとうございます……司教様。私にできることは……もう、ほとんどありませんでした……」
ディオンは低く、抑揚のない声で言った。
「……ガルド。お前たちはとうとうアリアを切り捨てたのか。光が消えた途端に、新しい道具を用意して。俺の呪いを抑えるためだけに」
ガルドは微笑みを崩さず、静かに答えた。
「英雄卿。現実を見なさい。聖女アリアの力はもう役に立たない。新しい聖女セレナが来れば、君の負担も軽くなるはずだ。民衆はまだ二人を『希望の光』と呼んでいる。その期待を裏切らないためにも……」
ディオンは灰色の瞳でガルドを冷たく見つめ、淡々と告げた。
「期待……その言葉が、どれほど残酷か。お前たちはアリアを消耗させて、俺の力を引き出そうとした。光が消えた今、用済みか」
その時、部屋の扉が開き、新しい聖女セレナが入ってきた。
セレナは二十歳前後の女性で、明るい金髪と澄んだ青い瞳を持っていた。白い聖女衣装を着ており、掌から柔らかな黄金の光を軽く灯してみせた。その光は、アリアの最盛期に近い強さがあった。
セレナは控えめに頭を下げ、ディオンに向かって言った。
「英雄ディオン・ヴァルデン卿、はじめまして。新しい聖女セレナと申します。これから、貴方様の呪いを抑えるお手伝いをさせていただきます」
ディオンはセレナを一瞥し、淡々と言った。
「……必要ない。お前も、結局は道具だ。アリアのように、使い捨てにされるだけだ」
セレナは少し驚いた表情をしたが、すぐに微笑んだ。
「私は、精一杯努めます。聖女アリア様の分も……」
アリアはベッドから立ち上がり、弱々しくセレナに近づいた。
「セレナ様……ディオン様を、お願いします。貴方様の浄化の力で……ディオン様を、少しでも……守ってあげてください」
セレナは優しく頷いたが、その目はアリアを「過去の聖女」として見ていた。
午後、アリアは教会の馬車で療養施設へ移されることになった。
ディオンは大聖堂の門前で、アリアと最後の短い時間を過ごしていた。
アリアはディオンのマントの端を弱々しく握り、震える声で言った。
「ディオン様……私、教会で療養します。でも……貴方様のことを、ずっと想っています。一人で苦しまないでください……」
ディオンは彼女の手をそっと握り、灰色の瞳を伏せて答えた。
「……アリア。お前は本当に優しすぎる。俺の側にいれば、必ず不幸が訪れる。お前を守りたいのに……それが一番残酷な呪いだ」
アリアは涙を堪え、弱々しく微笑んだ。
「私は……貴方様と出会えて、幸せでした。たとえ光が消えても……私の心は、貴方様の側にあります」
馬車が動き出した。
アリアは窓からディオンを見つめ続け、銀髪が風に揺れた。
ディオンは馬車が見えなくなるまで、灰色の瞳でその背中を見送っていた。
新しい聖女セレナがディオンの横に立ち、明るい声で言った。
「英雄卿、これからよろしくお願いします。私が、貴方様の呪いをしっかり抑えますから」
ディオンはセレナを一瞥し、淡々と答えた。
「……お前も、いつか同じ道を歩むことになる。アリアのように」
王都の空は晴れていたが、二人の胸には、すでに深い絶望の影が落ち始めていた。
聖女アリアが教会に預けられた今、
英雄ディオンは、再び一人で戦う道を歩み始めていた。
しかし、それは最大の裏切りと、必然の絶望への序曲に過ぎなかった。
第26話、いかがでしたでしょうか。
アリアが教会に預けられ、新しい聖女セレナが登場しました。
ディオンとアリアの別れのシーンを、切なく描けたかと思います。
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次回もどうぞよろしくお願いいたします。




