表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われた英雄と裏切りの聖女  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/24

第19話 失われた光と変わらぬ決意

第19話をお届けします。


灰の山脈での任務継続と、アリアの浄化喪失後の決意を描きました。

ディオンの葛藤と二人の絆が、より脆く切ないものになっています。


これから物語は大きな山場を迎えます。

シリアスな心理描写をお楽しみください。

灰の山脈の遺跡を抜けた後の野営地は、冷たい風が吹き荒れていた。


魔獣の中核体を倒した翌朝。一行はさらに山脈の奥を目指して進んでいたが、空気は重く、誰もが疲労を隠せない様子だった。


ディオンは先頭を歩き、黒いマントを風に翻しながら無言で道を切り開いていた。灰色の瞳は前方だけを捉え、表情はより固く、感情を殺したままだ。英雄の力が強まった代償で、胸の疼きが絶えなかった。


アリアはディオンの少し後ろを、ゆっくりと歩いていた。銀髪は乱れ、青みがかった金色の瞳はほとんど輝きを失っていた。浄化の力が完全に枯渇した今、彼女はただの少女として一行に加わっていた。


レオン騎士団長が馬を進めながら、ため息をついた。


「聖女殿の浄化が使えないとなると、今後の戦いは厳しくなるな……英雄卿、単独で前衛を任せることになりそうだ」


ディオンは短く答えた。


「……問題ない。俺一人で十分だ。アリアは後方で休ませろ」


アリアは弱々しく首を横に振った。


「ディオン様……私も、行きます。浄化の力はもう使えませんが……せめて、貴方様の側にいたいんです」


ディオンは振り返り、灰色の瞳で彼女を見つめた。声は淡々としており、しかし抑えきれない苦しみが混じっていた。


「アリア。お前はもう限界を超えている。光が消えた今、俺の呪いはさらに強まっている。お前をこれ以上巻き込むわけにはいかない」


アリアはディオンのマントの端を弱々しく掴み、震える声で言った。


「離れたくありません……ディオン様。私が浄化の力を使えなくなっても……私の気持ちは変わりません。貴方様が一人で苦しむ姿を見ているのが、一番辛いんです」


一行が灰の山脈のさらに奥にある小さな谷に到着した時、再び魔獣の群れが襲ってきた。


今回は中規模の眷属だったが、黒い霧を纏い、動きが素早い。


ディオンは剣を抜き、一人で前線に立った。


「俺が相手をする。お前たちは後ろで待機しろ」


英雄の力が再び目覚め、ディオンの剣が風を切る。一撃で二体の魔獣を倒し、次の敵へ飛び込む。しかし、力が強まるたびに呪いの代償が激しく襲い、視界がわずかに揺れた。


アリアは後方で、ただディオンの背中を見つめていた。掌を何度も開閉するが、黄金の光は一切出ない。彼女の指が震え、唇を強く噛んでいた。


レオンが剣を振るいながら叫んだ。


「英雄卿、押さえろ! 聖女殿は後方で回復に専念してくれ……いや、もう浄化は使えないのか……」


ミリアが魔法を放ちながら、不安げに言った。


「聖女様……本当に大丈夫ですか? 顔色が……」


アリアは小さく頷いたが、声はほとんど出なかった。


「私は……平気です……ディオン様が……無事なら……」


戦いは短時間で終わった。ディオン一人で魔獣の群れをほぼ殲滅した。


戦闘終了後、ディオンは剣を地面に突き立て、膝をついた。黒髪が汗で乱れ、灰色の瞳に深い疲労と自己嫌悪が浮かんでいる。


アリアはよろよろと彼のもとに近づき、膝をついてディオンの腕に触れた。


「ディオン様……お疲れ様です……私の力が……もう何も……助けられなくて……ごめんなさい……」


ディオンは彼女を抱き起こし、淡々とした声で言った。


「……お前は十分にやった。アリア。光が消えた今、俺の呪いは止められない。お前を王都に帰すべきだ。これ以上、お前を危険に晒すわけにはいかない」


アリアはディオンの胸に顔を埋め、弱々しく、しかし強い意志を込めて言った。


「嫌です……ディオン様。私が浄化の力を使えなくなっても……貴方様の側にいたいんです。教会ではただの道具でした。でも、貴方様と出会ってから……初めて、本当に誰かのために生きている気がしたんです。どうか……一人にしないでください」


ディオンは灰色の瞳を伏せ、彼女の銀髪をそっと撫でた。声にわずかな揺らぎが生まれた。


「お前は本当に優しすぎる。アリア。俺の呪いは、愛する者を失わせる。お前が俺の側にいれば……いつか、必ず不幸が訪れる。それでも……まだ、離れないと言うのか?」


アリアはディオンのマントを弱々しく握り、静かに答えた。


「はい……離れません。貴方様が苦しんでいるのに、見て見ぬふりはできません。私にとって、貴方様は……ただの英雄様じゃありません」


夜の野営地で、焚き火の炎が小さく揺れていた。


他のメンバーたちは少し離れた場所で休んでいたが、時折こちらを気にする視線を送っていた。


ディオンはアリアの傍らに座り、静かに言った。


「アリア……お前の光が消えた今、俺の力はさらに強まっている。この任務が終われば……王都に戻って、お前は教会に預けるべきだ。俺一人で戦う」


アリアは首を横に振り、弱々しく微笑んだ。


「私は……貴方様と一緒にいたいんです。光がなくても……私の心は、貴方様の側にあります」


ディオンは灰色の瞳を閉じ、苦い思いを胸に押し込んだ。


(お前の決意が、いつか最大の裏切りを生むことを……俺は知っている。それでも、お前を離したくないという気持ちが……俺の最大の弱さだ)


灰の山脈の夜は冷たく、二人の影は長く伸びていた。


聖女の浄化の光が完全に失われた今、

英雄の呪いはさらに深く牙を剥き始めていた。


救世主として期待される二人は、

これから訪れる必然の絶望と裏切りを、静かに受け止めようとしていた。

第19話、いかがでしたでしょうか。


アリアの光が失われた後も変わらない決意と、ディオンの深い葛藤を中心に書きました。

灰の山脈での任務は、まだ続きます。


感想や応援をいただけるととても励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ