ニンニクチョモランマヤサイマシマシアブラカラメオオメ
夕方になり、マリちゃんと歩きながらラーメン屋に向かう。
道中、ぼくのお腹がぐーっと鳴る。スマホで道を調べていたマリちゃんとクスクスと笑い合った。
学校から歩いて十分ほどでラーメン屋さんに着いた。
「ここにしようか」
マリちゃんが連れてきてくれたラーメン屋さんは、綺麗とは言い難い小汚い店だった。
二人で中へと入っていくと、「いらっしゃいませー」と野太い声で迎えられた。
店に入るとともに強烈な匂いが鼻につく。マリちゃんはその中をズカズカと進んで行く。
ここで食券を買うんだよ、とマリちゃんは自販機のようなものを指さした。ぼくはラーメンという券を買って、マリちゃんは小ラーメンという券を買って席に着いた。
「ニンニクチョモランマヤサイマシマシアブラカラメオオメ」
ぼくの隣に座っている人が、謎の呪文を唱えていながら食券を渡している。食券を受け取ったお兄さんは、そのままこちらへ水を持ってぼくたちの食券も受け取りに来た。
汗まみれのお兄さんに券を渡す。
「ニンニクチョモランマヤサイマシマシアブラカラメオオメ」
よくわからないけれど、ぼくも謎の呪文を言っておいた。隣のマリちゃんは「ヤサイスクナメ」と言っていた。
ラーメンが来るまで、店内を見渡す。
店内にいるお客さんは、ぼくたちの前に並んでいたメガネをかけた男の人が一人と、汗を大量に流しながらすでにラーメンを完食しかけている小太りの男二人組がいた。
なぜかマリちゃんがその人たちにジロジロと見られている。
「楽しみだね」
そうマリちゃんに言うと、マリちゃんは満面の笑みで頷いた。よかった。マリちゃんもラーメンが好きみたいだ。
お待たせという店員さんの声とともに、ぼくのもとに今にも崩れ落ちそうなほど野菜とお肉が盛られたラーメンが運ばれてくる。
「うわぁ」
思わず目が光る。写真で見たやつだ。ぼくはすぐさまお箸を取って、そのお箸をペロリと舐めた。そして、いただきますと手を合わせ、ラーメンを口に運ぶ。
何だこれ。食べたことのない味がする。
油。油。油。
油でスープがテカテカと光っている。なるほど、これは病院では食べられないわけだ。不健康そのものの味がする。でもその背徳感がおいしい。自分の健康を害しているとわかるラーメンだ。
野菜に口を付ける。これで不健康さをチャラにしているつもりかもしれないが、全くもってアンバランスだ。こんな量の野菜では、肉やスープの油には太刀打ちできない。この油と戦うには、キャベツ一玉は必要だろう。
一言も話さず一目散に麺を啜っていき、熱くなった口に冷水をぶちこむ。その繰り返し。
「マリちゃん。おいしいね」
湯気によって出てきた鼻水を一気に啜る。マリちゃんは苦しそうな顔をしながら苦笑した。
「どうしたの? あんまりおいしくない?」
それともマリちゃんも野菜とお肉がたくさん入ったラーメンの方がよかったのか。マリちゃんのラーメンは、小だからぼくよりボリュームが少ない。
ぼくの質問に、マリちゃんはすぐ首を横に振った。
「いや、おいしいよ。でも、こんなすごいラーメン、私初めて食べた」
マリちゃんも初めてで衝撃を受けているのか、と納得していると、さっき食券を取りに来たお兄さんが水を汲みに来た。
「兄ちゃん。デートならもっとかわいらしいとこ連れて行ってやれや」
お兄さんはぼくに向かって大笑いしてくる。冷やかしを受けているとすぐにわかった。でも、どうして冷やかされているのかはわからなかった。
ぼくは何かおかしなことをしてしまったのだろうか。
マリちゃんは笑っているお兄さんに向かって、「おいしいですよ」と首を横に振った。
「それにしてもデートでこれはなー。俺ならこんな綺麗なお姉さん連れてこんなとこ来られへんわ」
お兄さんはそう言い残して厨房へと戻っていく。入れてもらった水に口を付けてから、ぼくは残っている麺を食べきった。
ぼくは何か悪いことをしたのだろうか。
マリちゃんが隣でまだ食べているので、スマホで『二郎系ラーメン 恋人』と調べることにした。
『デートで彼女を二郎系ラーメンに連れて行くのはありですか?』という質問をタップする。すると、『ありえません。もし連れていかれたら別れます』というベストアンサーが表示された。
えっ?
ポカンと口を開いた口が閉まらない。開けたままの口から、さっき食べたラーメンのスープの匂いがする。
えっ。駄目だったの?
店内に溢れる煙でぼくの視界が滲んでくる。首筋に汗をかきながらラーメンを啜っているマリちゃんが、まるで昼休みになっても給食を食べている子に見えてきた。
「マリちゃん。別れないで」
もうすぐで食べ終わるであろうマリちゃんに、縋るように訴える。すると、クエスチョンマークが頭の上についていそうな顔で、マリちゃんに見られた。




