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自分を陥れようとする妹を利用したら、何故か王弟殿下に溺愛されました  作者: 葵 すみれ


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26.偏屈爺と馬鹿爺

「どうかしたのか? 顔色が悪いぞ」


 オウムト公爵が心配そうに見つめてくる。

 レイチェルは動揺を隠すために、笑顔で取り繕う。


「いえ……隣国からの留学生に、ジェシカ商会の子息がいましたので、少し驚いてしまいました」


 レイチェルが答えると、オウムト公爵は驚嘆の表情を浮かべた。


「なんと……そのようなことが……いや、もしかして……」


 オウムト公爵は一人で考え込み始めた。

 レイチェルが呆然としていると、教室の扉が開いた。


「……おや、先客がいたか」


 そう言って教室に現れたのは、壮年の男性だった。銀色の髪で、鋭い目をしている。漂う雰囲気は威厳に溢れており、高位の人物だと一目でわかった。

 だが、レイチェルには見覚えのない人物だ。


「これは驚いた。隠居の爺が王都に姿を現すとは。しかも、王立学園の学園祭に来るとは……まさか、天変地異の前触れか?」


 オウムト公爵は愉快そうに笑う。


「ふん、私が爺ならそなたも爺だろうが。同い年だぞ。それに、私は隠居したつもりはない。まだ現役だ」


 オウムト公爵の言葉に、男性は眉根を寄せる。


「そなたが現役? 馬鹿を言うな。建国祭にすら姿を現さないではないか。そんな者が現役とは笑わせてくれる」


「はっ、その価値がないのだ。建国祭など」


 嘲笑するように男性は言う。


「なるほどな。では、今回の学園祭はやって来る価値があったというわけか」


 面白がるようなオウムト公爵の言葉に、男性は口の端を吊り上げる。


「……ああ、そうだな」


 そう答えると、男性はレイチェルへと視線を向ける。


「そなたがレイチェル嬢か?」


「は、はい……」


 レイチェルは緊張した面持ちで返事をした。男性にじっと見下ろされて、身体が強ばる。


「そうか……そなたが……」


 男性はふっと笑みを浮かべた。だが、その目は笑っていない。まるで値踏みをされているような気持ちになって居心地が悪かった。


「……あ、あの……?」


 不安になって声をかけると、男性は我に返ったようだ。


「ああ、失礼。私はスーノン公爵。スーノン公爵家の現当主だ」


 男性は鷹揚に名乗った。


「えっ……スーノン公爵閣下……!?」


 レイチェルは驚きのあまり硬直する。

 カーティスの祖父であるスーノン公爵が、目の前にいるのだ。

 反王家派であり、カーティスのことも疎んじていると聞いている。そんな人物が、なぜ学園祭に来ているのだろうか。


「ああ、そうだ。私はそなたに会いたかったのだ」


 スーノン公爵はそう言うと、レイチェルの目の前までやって来た。


「な……なぜですか……?」


 震える声で尋ねると、スーノン公爵は目を細めた。


「孫がそなたに執心なのでな。一度会ってみたいと思った」


 スーノン公爵の言葉に、レイチェルは目を見張る。

 まさか、カーティスからレイチェルの話を聞いたというのか。二人は不仲ではなかったのか。


「そ、そうですか……。光栄です」


 戸惑いながらも、レイチェルは頭を下げた。

 スーノン公爵は教室をぐるりと見回す。


「ふむ……なかなか興味深い展示物ではないか」


 スーノン公爵の口調は淡々としているが、どこか満足そうに見える。


「結界を修復する血族魔法の仕組み……一見、王家を礼賛するような内容でありながら、その実、現在の王家に対する皮肉が感じられる。面白い発想だ」


 一人で納得しながら、スーノン公爵は頷いている。


「だが、これは……そなたが考えたのか?」


 スーノン公爵はレイチェルに視線を向けた。鋭い視線だ。まるで見定められているような気持ちになる。


「はい……カーティスさまからお話を伺いながら、考えました」


 レイチェルが答えると、スーノン公爵は目を細めた。


「そうか……そなたは物事の本質を見極めることに長けているようだ。カーティスと似ているな」


 スーノン公爵の言葉に、レイチェルはどきりとした。

 カーティスと似ている。その言葉が嬉しいと同時に、少し怖くもあった。


「あの……カーティスさまとは、あまり仲がよろしくないと伺いましたが……」


 レイチェルはおずおずと尋ねる。


「……そうせねば、スーノン家がカーティスを次期国王に推していると、周囲に勘繰られてしまうだろう。まったく、厄介極まりない。誰が好き好んで、あのような孫を推すものか」


 スーノン公爵は忌々しそうに舌打ちをした。

 その態度に、レイチェルは唖然としてしまう。


「はっ、偏屈爺が。可愛い孫が健やかに成長して、できる限りの自由を得ることを望んでいるくせに」


 オウムト公爵がからかうように言った。


「……おい、馬鹿爺。余計なことを言うな」


 スーノン公爵は鋭い眼光でオウムト公爵を睨む。だが、オウムト公爵は平然としている。


「なんだ? 私は事実を述べたまでだが」


「……ちっ、相変わらず食えない爺だ」


 スーノン公爵は大きくため息をつくと、レイチェルに向き直った。


「まあ……そういうことだ。カーティスには自由に生きてほしいと思っているが……あやつはそれを望まなかった。自ら茨の道に踏み込もうとしている。それが心配なのだ。だから、そなたに会いたかった」


 スーノン公爵はレイチェルを真っ直ぐ見つめる。


「そなたは……カーティスの味方になってくれるか?」


 真剣なスーノン公爵の言葉に、レイチェルは息をのんだ。

 まさか、そんなことを言われるとは思いもしなかった。


「はい、私はカーティスさまの味方です。カーティスさまが望む限り、ずっとお側におります」


 レイチェルははっきりと答えた。


「そうか……それを聞いて安心した」


 スーノン公爵は満足そうに微笑む。その笑みは優しげで、孫を思う祖父のものだった。

 笑った顔が少しカーティスに似ていると、レイチェルは感じた。


「……おい、馬鹿爺。そなたもここにいるということは、決心したということだな?」


 それからスーノン公爵は、オウムト公爵に鋭い視線を向けて言った。


「ああ、そうだ。偏屈爺。我がオウムト家は、結界の重要性が身に染みてわかっている。正統な王を戴くべきだとな」


 オウムト公爵は腕を組んで、頷く。

 二人のやり取りを眺めながら、レイチェルは呆然としていた。

 四大公爵家を引き込むよう、カーティスが動いているとは聞いていた。

 しかし、まさかこんなにあっさりと話がまとまるとは思っていなかったのだ。

 もしかしたら、彼らも兄ジェイクのように、結界の状況を肌で感じていたのかもしれない。


 これで、四大公爵家の半分が味方になったことになる。最低条件を満たしたのだ。

 もしジェイクがリグスーン家を掌握することができれば、完全に傾くことになる。


「さて、次はリグスーン家の若者を手伝ってやるとするか」


「そうだな」


 スーノン公爵とオウムト公爵は互いに頷き合うと、レイチェルに視線を向ける。


「では、レイチェル嬢。私たちと一緒に学園祭を回ろうではないか」


「そうだな。案内してくれ」


 スーノン公爵とオウムト公爵に誘われ、レイチェルは困惑する。

 しかし、四大公爵の二人に言われて、断れるはずもない。


「……わかりました」


 レイチェルはそう答えると、二人と共に教室を出たのだった。

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