壊れ物にはご注意を
誰もが一瞬言葉を失う。そんな中、妹だけが笑顔で話し続けた。
「お姉ちゃんはあたしに降りかかる全てから守ってくれるの。お姉ちゃんがいるだけであたしは全てから守られる。お姉ちゃんがいるおかげで自由なの。でもお姉ちゃんは完璧だから、あたしには越えられない。だからテストの時はあんなこと言っちゃってごめんなさい。嫉妬しちゃっただけなの。でも完璧なお姉ちゃんなら許してくれるでしょう?あたしが殺しちゃった時のお姉ちゃんは完璧じゃなかった。だからやり直さなきゃいけなかったの。そしてこうしてまた出会えた!またあたしを守ってくれるでしょう?」
脳が理解することを拒否している。私の妹はいつからこんなに壊れてしまったのだろう。誰がこんなになるまで追い詰めたのだろう。きっと責任は私にもある。どうして、何故という言葉だけが頭の中を埋め尽くす。
「──逃げてるだけだ」
「え?」
誰も口を挟めないと思っていたのに、螢だけは動いた。
「お前が耐えられなかったものを、舞雪は何年耐え続けた?舞雪はお前の盾じゃない。お前がやってることは責任の押し付けだ。お前の逃げの理由に舞雪を使わないで」
今度は妹が口を噤む番だった。俯き、表情は伺えない。
「どうして?どうしてそんなこと言うの?お姉ちゃんは私のお姉ちゃんでしょう?」
「姉さん!」
ずっと話を聞いているだけだった廉士が動く。妹を抱きしめ、落ち着かせるように背中をさする。
「姉さんは恋叶だ。陽子でも、喬都目さんの妹でもない、ボクの唯一の姉なんだ。今度はボクが姉さんの盾になるよ」
「……っ!」
恐らく全員が息を飲んだだろう。妹も流石に驚いたのか、顔を上げ廉士を見ている。
「……廉士が守ってくれるの?」
「あぁ、ボクが守るよ、全てから」
「そっかぁ。なら、もうお姉ちゃんはいらないや」
たったそれだけの言葉。それだけでこのお話の幕は降りた。たった一人が犠牲となることで、このお話は終わってしまったのだ。
妹と廉士がどうなるかは分からない。妹が変われるかも、二度目の過ちを犯すかも。でも私は決めた。恋叶に友達として会いに行く。もう私と恋叶は舞雪と陽子じゃない。姉妹ではないけれど、友達にはなれるはずだ。これから、ずっと向き合うことができなかった彼女を知っていこうと思う。
あとになって知ったが、廉士が恋叶として学校に通っていたのは、恋叶の姉、私を見つけるためだったらしい。幼い頃から繰り返しお姉ちゃんの話をする姉に、廉士はどうにかして会わせてあげようと考えた結果、姉に代わり学校に通うことにしたと言っていた。
恋叶がいなくなった今、ゲームは破綻したと言えるだろう。攻略キャラクター達はそれぞれの選択肢を選び、人生を進んでいる。私は──。




