犬は尾を振る
染野家に着いたのはお昼過ぎになった。アポイントをとり、大丈夫と返事をいただけたのですぐにお邪魔させていただいた。
「大丈夫?」
「すっごく緊張してるし怖いけど大丈夫」
「そっか」
螢は優しく頭を撫でてくれた。
応接間で待つこと数分。扉が開き、見慣れた姿が部屋に入ってきた。ヒロインだ。
「喬都目さん、早麻さん、お越しくださりありがとうございます。今日はなんの御用でしょうか?」
「染野君」
私の呼びかけに肩がビクッと上がった。こちらを見る目に怯えが混じる。
「染野、廉士君」
「なっ、なんで……!」
「私も貴方のお姉さんと同じ、って言えば分かるかな?」
椅子から勢いよく立ち上がった廉士の動きが止まる。
「姉さんと同じって……まさかっ」
「多分そのまさかであってるよ。だからお姉さんに──」
「もういるよ、お姉ちゃん」
聞こえてきた声に今度は私の体が固まった。そんな私に気づいた螢が、優しく手を重ねてくれる。
「……陽子」
「その名前嫌い。恋叶って呼んで。お姉ちゃん、こうして会えたんだもん。また私のお姉ちゃんになってくれるでしょう?」
妹の言っている意味が分からず困惑する。
「あたし気づいたんだぁ。お姉ちゃんがいたおかげで自由にしていられたんだって。だからお姉ちゃんがいればまた私は自由になれる。私のためにお姉ちゃんになって?」
「何……言って」
本当に理解できない。私は今日謝りに来たんだ。全てを投げ出してしまったことに。全てを妹に任せ、自分の世界に篭ってしまったことに。なのに妹は訳の分からないことを繰り返すだけ。
「姉さん!姉さんは陽子じゃない!喬都目さんは姉さんのお姉ちゃんじゃないんだ!」
妹の肩を掴み止めに入る廉士。まったく同じ顔。そう、廉士はヒロイン恋叶の弟で攻略キャラクター。全員を攻略した後で開放される隠しキャラクターである。
私が教室で見たヒロインに違和感を覚えたのは、座っていたのが彼だったからだ。顔は同じでも男。体格が違っていて当然だった。
「……お前に言いたいことがある」
突然、ずっと黙っていた螢が声を出す。その声には怒りが滲んでいて、眼鏡の奥の瞳も鋭い。
「あなただぁれ?」
「俺は早麻螢。舞雪の下僕だ」
「そんな人がなんでここにいるの?ここには私とお姉ちゃんだけでいいの」
「お前は舞雪をなんだと思ってる?」
螢は妹の言葉を無視し、質問を投げかける。妹は螢の質問に少し考えると、にこにこと笑顔で答えた。
「お姉ちゃんは私の──盾」




