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「なんか、凄い所だね」
アリアは感嘆の声を上げる。
それを聞いていたユースティスが訝しげな表情でアリアを見て言った。
「この場所が?」
「うん……」
アリアの目が微かに揺れる。
「なんて言うのだろうね。この街にいると、何か込み上げてくるものがある感じがする」
彼女はそう綴る。
すると、その話を聞いていたのか。
アリアの隣に現れたリースが口を開いた。
「それは何。私達のこの場所がみすぼらしいって言いたいわけ?」
「そ、そうじゃないよ‼︎」
怒りを露にしたリースを慌てたアリアが宥めるように否定する。
「じゃあ、なんだって言うのよ」
否定してきたアリアに対して、キッと鋭い瞳を向けて問うてくる。
その気迫にアリアは思わず蹴落とされそうになる。
「そ、それは……なんて言うか、生きているって凄いなと思って」
「生きていることが凄い?」
アリアの発した言葉にリースは眉をひそめる。
「うん。人類の英知の記録がここにあると思うと、こう胸が締め付けられるなぁ〜って思ったの」
それは純真なアリアだから感じたもの。
ここにはそれだけのものが詰まっていると。
唐突に褒められ、それまで怒っていたリースの顔に動揺が走る。
「なっ、何突然言っているのよ‼︎」
頬を赤らめて反応を示す。
「明らかに褒められて動揺しておりますね。この野蛮人」
「このメイドは殺していいのよね?」
「ダ、駄目だよ‼︎」
弓矢を取り出してアルマリアに標準を合わせ構えるリースを慌ててアリアがやめるように言う。
矢を向けられたアルマリアは涼しい顔をしていた。
「とにかく‼︎体を休めたらとっとと出て行ってよね‼︎」
アリアを指差してそう言い放つと、満足したのかその場から立ち去っていく。
そんなリースの後ろ姿を全員が見つめる。
やがて彼女の姿が見えなくなると、ロンドがポツリと呟いた。
「また難儀な性格だな。あいつも……」
「そうだな……アルマリア。突っかかるのはいいが、鎮火させるのがお嬢様の役目にならないよう気をつけろ」
「そう……ですね。お嬢様のご迷惑にならないよう気をつけます」
ユースティスの射を突く意見に多少なり反省したのか。
アルマリアがアリアに向かって腰を折り謝る。
「いいよいいよ。それに……リースちゃんは私も気になるし……」
アリアの空気感の漂う発言に、
「気になる?」
ロンドが興味をそそられ彼女を見る。
「うん。リースちゃん。なんか……常に張り詰めた空気を持っているような感じがするっていうか―――」
上手く表現出来ないのか。
困り顔で必死に何かを伝えようとしている。
そんな彼女の意図を汲んだロンドが言った。
「常に張り詰めた空気?何じゃそりゃ。俺にはそんな風には見えなかったが……」
自分には感じなかったというロンドに、アリアは困り果てた様子で悶えていた。
「あれか?俗に言う女の勘ってやつか?」
ロンドが逃げるような解答を言うが、アリアはリースが去った方向を見つめて無言になった。
「……」
「まぁ、何にせよ。食べ物食べてそそくさ退場すりゃ、あのツンツン態度の嬢ちゃんも怒りはしないだろうし、大丈夫だろ」
「そうですね。彼の意見は正しいと思います。多少体を休めたら早く目的の街に行きましょう」
「そうだな。それが何よりだろう。互いに」
三人はおもてなしの料理が出来るまでしばしの間、待機することにした。
それぞれが個人的行動に移り、集まっていた輪がバラバラになる。
ロンドは岩陰に体を預けて目を瞑り、体を休息させるための仮眠を取り始め、ユースティスは周辺に異常が無いかの散策へと向かった。
アルマリアは銃の手入れをするため誰にも見られないよう一人になりたいと言ってアリアの元から離れていく。
各自が行動する中、孤立したアリアは特に何もする事が無く、近くにあった座り心地が良さそうな平坦な地面に座り込んで皆の様子を見守ることにした。
丸めた膝を両手で抱えて料理が出来上がるその瞬間をじっと待つ。
視線の先には楽しそうに笑顔を溢しながら話している母と子の姿が見えた。
二人だけの空間を楽しんでいるようだ。
こうして外から見ていると、何とも和気藹々とした空気感がそこら中に漂っていた。
強く生きているという証が根強く見える気がした。
なんだかとても微笑ましい情景が見えてきて、アリアはふと笑った。
その時―――
「何か面白い事でもありましたかな?」
急な声に思わず体が反応する。
自分の横から声を掛けられて首をそちら側に向けると―――そこには一仕事終え休憩しようとしていたカルーラがこちらを覗き込むようにして立っていた。
少し口角を上げ、アリアの反応を楽しんでいたカルーラが自分が座る場所の地面を少し手で払って腰を掛けた。
「よっと、すみませんな。年なもので体が年々不自由になってくるんですよ。ふぇふぇ……あいたた」
「い、いえ……」
突然の来訪者に驚くアリア。
だが、それ以上に笑っている姿を見られたことに内心恥ずかしい気持ちがこみ上げてくる。
「そう構える必要はないですよ。何もリースのように責め立てるとかそういったことは致しませんので」
「あ……、いや……。そういうわけではないですけど……突然だったもので」
「ふぇふぇ、まだまだ固いの」
アリアの不慣れな態度を見たカルーラは、ふっと息を吐いた。
それだけでそう力むなと言われているような気分になった。
彼の吐いた息は長年溜まった疲れのそれと同じだった。
吐いた息を目で追うように彼は、見慣れた街の風景を見て、ふと目が優しくなる。
ここでの生活にも慣れ始めようとしている瞬間に、思わず笑みが零れてしまう。
なにぶん楽しめる生活だ。
不自由はあれども苦は少ない。
幸せをかみ締める余裕はある。
だが、いつまでこの生活を続けていられるかなんて長く生きてきた自分にすら分からない。
そういう景色を創造するだけで不安が胸を染める。
そんな彼の瞳にアリアは息を呑む。
ただ隣で黙っているだけなのに。
その不安がアリアにまで伝わってくるようだ。
哀愁漂うカルーラがその口を開く。
「何故―――」
だが、すぐさまその口は閉じてしまった。
「?」
言いかけた言葉が止まったことにアリアは戸惑う。
しかし、彼はもう一度口を開いて聞いてきた。
「何故、旅をしているのか。聞いてもよろしいですかな?」




