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穏やかな風が吹いていた。

比較的穏やかな風が。


人を優しく撫でるかのように風は吹き続ける。

その風に煽られ、土から生えていた草木が華麗な舞を披露する踊り子のようにゆったりとした動きでゆらゆら揺れる。


さざ波のように耳に地団駄を踏む草木が風に揺られ飛んでいく。


気温は比較的に暖かく、上空から照りつける太陽の日差しを体が元気良く浴びていた。


ぽかぽかとした陽気な光に自然と気持ちまで心地良くなる。


光合成の如く太陽の光を身体いっぱいに浴びて活気を良くする。


流れゆく時間の中で、その穏やかな風が吹き続けていた。


しかし―――

ふと、気が付けばその風は体への辺りが強くなっていた。


穏やかだったはずの風が足を進める度に怪しさを際立たせ、次第に強さを増していった。


やがて、心地良かった風は、吹き荒れる暴風となる。

身体を持っていかれそうになる風を一身に受ける。


風が強くなれば、同時に気候は変わっていく。

あれほど暖かく心地良かった太陽の光すら、今は肌に刺激を与え、痛覚を刺激してくる。


苦痛にさえ感じるその気候で体力は奪われていく。


吹き荒れるその風を、太陽の熱が合わさって熱波に変えて襲いかかってきた。


そんな天候の荒れる中ーーー


「暑い……」


おぼろげな足取りで歩く人影がいた。

ポツリと不満が零れる。


人影の一人、暑さに耐えきれなくなった少女が根を上げる。


「また天候荒れてるし……、何なの?私達天気に運がないのかしら?」


荒れる天候を見つめ、少女は一人呟く。

そんな彼女は嘆くように涙目で言った。


「私達と言うな。そんなものは、お嬢様一人だけで充分だ」


彼女の言葉を聞いて反応するのは、少女の後ろを歩く一人の男が、冗談じゃないといった様子で言う。

紳士服に身を包んだ青年は少女の後を寸分違わず付いて行く。


お嬢様と呼ばれた少女がちらりと視線を青年に向ける。

汗が出そうなほど暖かい気温にも関わらず彼は汗一つかいていなかった。


長袖という分暑くなるはずなのに、彼は涼し気な顔で歩く。

涼しげな顔で歩いている彼に、少女は目を細めて言い返した。


「ねぇ、その言い方酷くない?今のユースティスの言い分だと……まるで天気が荒いのは私のせいって言われている気がするんだけど?」

「そうだ。そう言ったのだ。何も間違ってはいない」

「執事あるまじき発言ね。どうなのそれ?」

「関係ない」

「執事失格ね。本当に執事失格だわ」

「そうか」


ユースティスと呼ばれた青年は澄ました顔ですたすたと歩いていく。

その光景に少女―――ナカガミ・アリアは頬を膨らましてじっと彼を見つめた。


「いけませんよお嬢様。あれを見ていては目が腐ってしまいます。早く目をお隠しになってください」

「人を見る目じゃないな。それは……」


そんな彼女を見かねたメイド服に身を纏った淑女が近付いてきた。


「アルマリア~‼」


アリアは淑女に泣きつくようにしがみつく。

アルマリアが優しく彼女の頭を撫でる。


「嬢ちゃんは忙しいな」


その二人の様子を見ていた頭にバンダナを巻いた男―――ロンドが笑いながら後を付いて行った。

ホルノマリン街を抜けたアリアを含む四人一向は、次の目的地である手紙の場所へと向かっていた。


しかし、その道中で悪天候に襲われているという状況だ。


「にしても酷い風だな……」


ロンドは顔に手を当てて風を防ぐ。


「確かにそうですね。おまけに太陽の日差しも先程より強くなっています」


アルマリアがどこから取り出したのか。

いつの間にか日傘を手に持って太陽を凌ぐ。


「気候くらいでとやかく言うな。これから先に待ち受けるものがどんなものか分からない以上、気候の方がマシだったと思うかもしれん」


ユースティスがそう言うと、幾分か心持が軽くなった。

確かに彼の言う通り、多少の悪天候など目を瞑れる。


だが、やはり気持ち的問題としては、天気でさえ清々しくあって欲しかったと―――

そう思ってアリアは嫌々進んでいく。


歩く歩幅は小さく。

しかし、進む力は大きく。


前に進む足は止まることなく。

アリアの足を突き動かした。


ホルノマリン街という街を見て思った。

誰かがやらなければならないことは、決して目を背けてはならないのだと。


誰かがしなければならないことは、行動をする者にしか出来ないということを。

アリアは理解した。


理解した上で、アリアは動く。

凛とした姿勢で。


眼とした態度で。

新しい仲間も加わった。


ホルノマリン街を共にしたロンドは欠伸をしていた。

彼はコード持ちではない。


にも関わらず、ロンドはコード持ちとは遜色のない力をアリア達の前で発揮して見せた。

彼の力は十分戦力となり得る。


そんな彼の前を歩く二人の紳士と淑女。

澄ました顔の二人がアリアの後ろを付いて歩く。


二人は常にアリアの身を守りながら周囲の警戒に当たっていた。

何しろ、二十四時間三百六十五日どこからでも無人が襲ってくるのだ。


気が気ではなくなりそうになる。

だが、二人はそんな様子を微塵も見せることなく常日頃からアリアを守ることに尽力していた。


紳士と淑女二人の躍進もあってアリアは今日という日を迎えられている。

その点に関しては感謝しなければならない。


感謝しなければならないのだが―――

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