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分かっていた。
彼はこういう人間だ。
何もかも察してこちらの意図を組んでくる。
本当———嫌になる。
だが、そんなことに鎌をかけている余裕はない。
今にも襲ってきそうな無人の形相に、アリアは深呼吸をする。
大丈夫。
今の自分は何が来ても乗り越えていける。
そんな気がするから。
だから立ち向かう。
それは自分を強く見せるためじゃない。
自分がそうするかが当たり前のような運命だから。
アリアは袖からカードを取り出して指で挟みこむと前に翳して詠唱を唱えた。
「ミスコード」
ゆっくりと詠唱する。
心を律するために。
整える呼吸に時間を与えるために。
目の前の敵をしっかりと認識するために。
「燃えなさい……私怨」
続けた詠唱が終わる。
カードに焔が灯り、燃え盛る。
次第に焔は消え失せ、アリアの手には銃剣が握られていた。
力はまだ使いこなせていない。
今も正直不安だ。
だが、迷っている暇なんてない。
進まなければならないのであれば、力の出し惜しみなど無意味に近い。
だからアリアはコード持ちとしても証明をする。
力を使って無人を滅するために。
それが引き金となったのか。
大人しかった無人達が一斉に雄叫びを上げる。
『『『ギィィィイイイイイイイ―――‼』』』
耳を劈く奇怪音が四人を襲う。
びりびりと肌に伝う咆哮がアリアの元に届く。
顔を引き攣って無人と敵対する。
「ベストコード」
「エラーコード」
向かってくる無人に対してアルマリアとユースティスは袖に仕込んでいたカードを取り出し詠唱を唱えた。
数秒でカードは燃え尽き、二人の手に武器が出現する。
アルマリアが白銀の銃を、ユースティスが漆黒の剣をそれぞれ構える。
二人が武器を構えると鋭敏に反応した無人が二人の元に向かって行った。
襲い来る無人に目を閉じていた二人は、然して驚く様子もなくただじっとその様子を見守り―――
そして、互いに刹那の間に無人を一瞬で灰と化した。
すっと閉じていた目を開ける二人。
目の前にいた無人は砂のように崩れて地面に零れ落ちていく。
跡形もなくなった無人に興味はなく、二人は既に別の無人に視線を向けていた。
数秒その場で固まると、二人はほぼ同時に動き出す。
狙うは無人。
狩るのは無人。
そこに無人がいるのならば狩るのみ。
そこに平和を脅かすものがいるのならば屠るのみ。
それが二人に課された使命なのだ。
二人は鬼人の如く白色の無人を葬り去っていく。
ことごとく無人を撃滅させ、圧倒していく。
二人の鬼のような強さに感心する。
本当に二人は強い。
私なんかがいなくても二人でやっていけるくらいの強さを誇っている。
一体。
また一体と。
いとも簡単に無人を砂と同化させる。
二人の体力は底無しなのか。
そう疑いたくなる。
なぜそこまで機敏に動けるのだろうか。
アリアには不思議でならなかった。
アリアは知らない。
守る相手がいるだけでどれだけ力を最大限発揮出来るかを。
守られているアリアが知らないのも無理はなかった。
二人の圧倒的な力に追い縋るかのようにアリアも懸命に戦おうとするのだが―――
「くッ―――‼」
力の使い方がまだ成っていないためか。
上手く無人を葬ることが出来ない。
それどころか銃剣がやたら重く感じる。
上手く力を扱えない自分に嫌気がさす。
稚拙さが表に出る。
悔しさが滲み出る。
焦りが出始める。
必死になろうと前に出た。
「おい」
アリアが前に出過ぎていることに気が付いたユースティスが止めに入ろうと忠告をするが……
「私だって……」
アリアの耳には届かない。
「行き過ぎだ‼それ以上は黒色の無人の餌食となるぞ‼」
珍しく声を荒げたユースティス。
だが、彼の忠告も虚しく。
「————ッ⁉」
目の前の無人を倒すのに集中していたアリアは、視界の奥に映った黒色の物体に違和感を覚えて動きを止めた。
集中していた視界をゆっくりと広げてぼんやりとしていた景色が徐々に鮮明になっていく。
違和感を覚えた一点を見つめると、そこには一際存在感を放っている黒色の無人が堂々とした佇まいでアリアを見据えていた。
不気味に存在していた黒色の無人。
極力戦わないようにしていたが、アリアが想定外な行動を起こしたために予定が完全に狂ってしまった。
それまでこちらを襲ってくる気配がなかった黒色の無人は、アリアが近付いたことにより戦闘態勢に入った。
唸る声が異様に耳に入ってくる。
次の瞬間、通常よりも大きな雄叫びが四人の耳を破壊するような轟雷が如く。
踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまった罰なのだろうか。
アリアは全く動けないでいた。
足が竦んで動けない。
目の前にいるのに恐怖で動けない。
恐怖に蓋をしたはずの心が開き始めている。
奪われる側の心音が姿を現した。
自身の呼吸音が爆音のように聞こえる。
吐息が漏れるのが多くなる。
動悸が激しくなり、息も荒くなる。
肺に取り込む息が薄い。
酸素を欲する度合いが多くなる。
アリアの思考は完全に停止していた。
ユースティスが助けに入ろうとするが―――
「くそッ―――‼」
目の前の無人がユースティスの進路を塞ぐようにして佇んでいた。
「何してる‼早く逃げろ‼」
急くようにユースティスは言う。
だが、アリアは動かない。




