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「難しいのか?」
彼の真っ直ぐな瞳にアルマリアは口を開いた。
「えぇ、大変難しいです。何せ私と貴方の考え方は基本的に異なるのですから。貴方の考え方を賛同しようも、賛同しないも私にとってはどちらも貴方が選んだ選択肢として解釈するでしょう。私にはあなたが選んだ選択肢を選ぶことが出来なかったかもしれないですし……」
「……お前はもう少し賢いやり方が出来たということか?」
「それについては分かりません。人生において数ある選択肢の中から常に正解を導き出すことなんて不可能に近いですから。誰しもが間違えた答えに辿りつき、誰しもが正しいと思うままに自らの道を進んで行く。ならば、私たちが選んだこの道も決して少なからず、正しき選択肢のうちの一つとして確証を得てもよろしいのではないのですか?」
「ふっ……、やはり俺達の考えは相容れないな」
「そんなことはとっくの昔に重々承知ではないですか。あなたも私も……」
「そうだったな……」
二人が会話している間に無人は四人と村長を含んだ数を囲むようにして陣取っていた。
四方に囲まれた敵を前にしてアルマリアが言った。
「四方に囲まれた状況。目の前にいる無人を見ると思い出しますね」
「何がだ?」
「かつて貴方と戦った日のことですよ」
「だな……、行くぞ」
ユースティスの合図と共に全員が一斉に動き出す。
四人が駆け出して無人と対峙する。
『『『ギィギャィィィイイイイイ‼』』』
超音波にも似た雄叫びが怒号のように天へと響き渡る。
不気味ささえ感じる無人の強烈な雄叫びに全員が顔を歪ませた。
「ベストコード」
無人の前にいたアルマリアが袖口から出るカードを手に取って前に翳す。
続けて詠唱を唱えてカードを構えた。
「燃えなさい……私怨」
燃え盛る火炎を経て、カードが姿形を変えていく。
カードが燃え尽きると、アルマリアの手には白銀の銃が握られていた。
その銃が呼応するかのようにして辺りを散らして暴れ回る。
「うるさい雄叫びですね」
雄叫びを上げた無人に対してアルマリアが銃口を向けて一発の弾丸を放つ。
螺旋状の軌道を描いて無人へと飛んで行く。
凄まじい速さで飛んで行った弾丸が瞬く間に無人に飛来する。
鈍い音を立てて無人の一体にヒビが割れ始め崩壊していった。
「エラーコード」
そんな彼女に続くかのようにユースティスも詠唱を唱えてカードから武器を具現化させた。
「燃えろ私怨」
詠唱を唱え終えたユースティスの手に真剣が現れる。
黒く帯びた真剣を持って無人と真正面から対峙していく。
一歩前に足を踏み出すと、距離を詰めて無人の懐に入る。
そのまま鋭い一撃で手に持った剣を使い一閃加えた。
『ギィィイイイイッ―――‼』
再び轟く怒号のような悲鳴にユースティスは顔を歪ませ汚物を見るような目で見つめて口を開いた。
「黙って消えろ……」
執念深くこの世に居残ろうとする無人にとどめを刺した。
崩壊していく無人が砂の如く風に煽られて舞い上がる。
「あらよっと‼」
風下にいたロンドが無人の灰を一心に受けて無人の攻撃を避けていく。
鋭い一撃を見極めてギリギリのところで躱していく。
大きな大剣を握り締めて戦っているにも関わらず、その戦いようは軽々としていた。
身のこなしの覚えがあるロンドが鋭く尖った爪を躱して大剣を大いに振るい打撃を与えていった。
徐々に無人の体性が崩れていく。
ボロボロになった体を蝕んでいくかのように破滅への近道を教えてあげる。
最後の一振りが終わった頃には無人は跡形もなく消滅していた。
「はぁぁぁあああああ‼」
それとほぼ同時にアリアの声がロンドの耳に飛んできた。
アリアは小刀を巧みに使いこなしながら無人の体力を抉り取っていった。
雄叫びを上げて苦しむ無人。
段々とその攻撃は早くなり、無人の周りをぐるぐる回って小刀で削り取って生命の維持を出来ないようにする。
その素早さは風の如く。
まるで突風が無人の周りだけを侵食していく様のように。
「なんだぁ?さっきより動きがいいじゃねーか」
先程と打って変わって動きがよくなっていることにロンドは驚愕を露にした。
そんな彼の背後に無人と敵対していたユースティスがいた。
「ふッ……緊張が解けたのだろうな。あれが本来のお嬢様の動きだ」
彼は無人の攻撃を真剣で受け取って言った。
「この調子なら前みたいに苦戦せずにいけるんじゃねーのか?」
「それは分からん。何分お嬢様の調子は不十分なのでな。時折こちらも状況の判断に困る」
ユースティスとロンドがアリアを横目で確認しながら無人と戦っていた。
アリアが小刀で無人を切り刻んでいく。
そして、ようやく無人の動きが鈍り、とどめを刺そうとする。
だが―――
『ギィィィイイイイイイイ‼』
最後の悪足掻きとでも呼ぶべきだろうか。
突如無人が暴れだし、その影響でアリアが一瞬怯んだ。
その怯みが油断を生んだ。
隙をついた無人の一撃がアリアの顔目掛けて飛んでくる。
ハッとした時には遅い。
目の前に飛んでくる攻撃が寸分違わず確実に致命傷を負わせようとしてくる。
スローモーションで流れてくる攻撃にアリアは見つめ続けて―――




