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覚悟は決めた。

腹はくくった。


目の前には死が広がっている。

きっとこれは死の海だ。


そこかしこにある死の海。

動けばたちまち無数の死が押し寄せてくる。


一歩でも踏み込めば、死神の餌食となることは必須。

であるならば、やることはだた一つ。


死に逃げる他ない。

無数に襲ってくる死が相手ならば、その全てを躱してみせてやる。


背を向けてでもいなしてみせる。


死を否定して生を肯定することこそが、自分が成し得る大義である。


きっとここを逃げ切ることが出来れば、待ち受けるは生を全うせし輝かしい人生。


老人としてここで果てる訳にはいかない。

満足のいく成し得ることをして尚、人生に満足が出来るかすら分からないのであるのだから。


それが人生の面白い所だ。

ゆっくりと武器を構える。


この街一番の代表を務める者が最前線に立って立ち向かっている。


その光景に住人達は頑なを呑んで見守っていた。


自分達を老いがまさった村長が自らの体を盾として村人の前をいっているのだ。


誰もが動けないでいる。

体は不思議と動かない。


立ち向かっている村長に、女性は口元を抑えて、男性は生唾を呑んで見入る。


それは誰もが初めて見る姿。

全員がお初にお目に係る代物しろもの


無人と対等に渡り合っている姿を初めて見る村人達。

注目するのも無理はない。


幸い村人達がいる位置は無人の範囲内テリトリーには入っておらず、襲われる心配はないだろう。


だが、村長はそのことを知らない。


いや、他に鎌をかけている余裕などない。

洗い呼吸音が聞こえてくる。


彼は今自分達の為に戦ってくれているのだろうかと思うと、二人は胸が締め付けられるような痛みを感じる。


何も出来ないのかと。

無力さを呪う。


その二人を嘲笑うかのように無人の鋭く尖った爪が向かってくる。


「———ッ」


紙一重。

あわや刺さるかという際どい瞬間。


老人は間一髪のところで避けることが出来た。

目の前に飛来してくる命を狩るおぞましい攻撃に冷や汗を流す。


避けていなければ今頃死体となって転がっていただろう。


そう考えるとぞっとした。


寒気が体を走り生唾を飲み込む。

そして、それがいけなかったのだろう。


次に来た意を突くような反応出来ない速度の攻撃が、老人の頭を目掛けて薙ぎ払いに来た。


精悍せいかんと流れていく時間。


経過する一秒が恐ろしいほど遅く感じた。

同時に見るは過去の出来事。


老人は思う。

そうか……。


これが噂に聞く走馬燈というやつなのだろうなと思った。


鮮明に思い出す幾多の輝かしい未来が頭を閃光のように駆け巡る。


老人になろうとも戦い続けた自分に賞賛と栄光を讃えたいと心の底から思う。


よく頑張った自分と。


そうして離れていく生を諦めて流れてくる死を受け入れる態勢に入る。


思い返せば人生ろくではなかったと。

くだらない人生であったなと感じた。


特に意味もなく過ごしてきた数十年という長い月日が昨日のことのように思い出す。


走馬燈もいいものだなと、不思議とすんなりと受け入れることが出来る。


それもこれも自分が満足のいく人生を歩んでいたからなのではないのかと。


軽く自分をいじるかのように問いただした。

自分自身の自問自答に、さも笑って納得する。


これでよいのだと。

自分はまっとうに過ごしてきた。


それがい雨ようやく報われようとしているのだ。

ならば、受け入れる他ない。


迫り来る爪に焦点を当てていると――――


「あんた何やってるんだッ⁉」


不意に聞こえた声に反応した。


そして気が付けば、自身の目の前にあった爪は跡形もなく消え失せており、代わりに自分をかばうかのようにして前に立ちふさがる男女四人の姿がそこにはあった。


その姿に老人は思わず息を止めていた呼吸を再び息返す。


ふっと、重い溜息を吐き捨てて安堵の表情で四人に視線を向けた。


「何用ですかな?」

「いや何。死のうとしている人間がいたものだからな。止めに来たまでだ」


四人のうちの紳士服に身を纏った青年が凛とした態度でそう告げた。


「左様ですか……」


先刻までの自分の感情を返してほしいと思った。

死のうとしている人間に突如として訪れた奇跡。


それは様子を見ていることしか出来なかった男女二人の希望の光であった。


彼の落胆にも似た意気消沈の姿に、ユースティスは鋭い瞳で彼を睨んだ。


「村長。死ぬことは別に悪い事ではない。俺達は先刻まで楽になりたいと思っていたあなたの気持ちを無下にするような非道な人間でもない。死にゆく者を誰が止めよう。いいや、誰も止めはしないさ。人が減るのなら、誰がそれを目に止めよう……消えゆく者に些事はない。だがそれは、あなたが普通の人間だったのならば……な」


ユースティスの意味ありげな言葉に隣で話を聞いていたアリアは自身の目の前に広がっている光景に驚いていた。


「うすうす気が付いていたけど、ユースティスのその口振りと村長が無人と戦っているということはやっぱり――――」


彼の話に耳を傾けていたアリアが、確信を得たかのように訝し気な瞳で見つめた。


「村長はコード持ちだ」

「やっぱり」

「なんだとッ⁉」


村長がコード持ちであるという事実にロンドが驚きを隠せないでいた。

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