error code.49
コード持ちであるということに。
それは同時に、ユースティスにあることを連想させた。
「つかぬ事を聞くが……、コードオーバーはーーー」
彼が言葉を紡ぎ終える前にそれを遮って村長は言った。
「御察しの通り、体現している」
「やはりか……」
推測通りの答えにユースティスは感嘆する。
とんでもないものが目の前に現れたものだと、内心思った。
隣にいるお嬢様の父上である方の他にコードオーバー体現者を見るのはこれで二度目であった。
その事実に、ユースティスは終始驚かされっぱなしである。
何しろコードオーバーは、戦地で戦った者のほとんどは絶命しているからである。
こうして現世に残って生きている者達こそ、まさに異形なのだ。
それを二人も見ているのだから、その驚きは計り知れない。
そんなユースティスを置き去りにして村長は、さらに言葉を紡いでいく。
「見ての通りもうただの老いぼれです……。今更、現役のような力はこの体には残っておりませぬ。それでも必死にこの街に無人が来ないよう努めていたつもりでいましたが……それも限界が近付いてーーー」
「だから、俺達に無人討伐の依頼をした。自分一人では対処しきれないほどの圧倒的な数の無人に蹴落とされて……」
「そうです。存外あなたは賢しいですな……」
村長の疲れ切ったその顔がやけに酷く見えた。
だが、ユースティスは嫌悪感を抱かない。
老いぼれであることを恥じている村長を、むしろ褒め称えるかのように純粋な瞳を向けて言った。
「それでもなお戦おうとしたのだから、あんたは十分立派な戦士だ」
「気休めは止めて下され。貴方の褒め言葉など……」
「いや、そもそもおかしいとは思っていた。村長はこの街を納める者だ。それなのにも関わらず、今の今まで俺達の前に一切現れなかったことを……。なぜ、街の住人が無人が現れているのにも平然としていたのか。そしてーーー一向に無人が襲って来ないのか」
「……」
ユースティスが淡々と述べていく事実に、村長は無言だった。
無言を貫き通して黙ってこちらの話を聞いている。
「この街がいつも夜でさえ賑やかだったのはその為か。戦闘音を俺たちに聞かせないため……か?」
その解答にアリアはある疑問を抱いた。
「でも、どうしてそんなことを?」
ユースティスの顔を見つめながら、アリアは思ったことを聞いてくる。
その疑問な瞳を向けられたユースティスは、村長の顔に視線を向けながら言った。
「それは、全てあんたがコード持ちだからだ村長。恐らく予想では、今まで一人で無人を倒していたのだろう?」
「そうですな……」
力なく答える村長に、ユースティスはギラついた目を向けた。
「だからこそ問いたい」
「……なんですかな?」
「ここでーーー何をしていた?」
「……」
ユースティスの瞳が急激に細くなるのを村長は敏感に感じ取った。
彼の問いかけには答えてくれない。
村長の物言いたげな目に、ユースティスは少しだけ眉を潜めた。
そして、口を開く。
「今更隠す必要なんてないはずだ。こちらはこの場所を知ってしまったのだからな」
「……」
苦虫を噛み潰したような表情で村長は顔を曇らせた。
やがて、一つ溜め息を吐いた。
ゆっくりと息を吐き捨てて、呼吸をする。
観念したように口を開いて彼は言った。
「見ての通りの場所ですな、ここはーーー」
そう言って村長は辺りを見渡す。
釣られてユースティスとアリアも一面を見渡した。
そして、気がつく。
自分たちの周りには見覚えのある鉱石が部屋を埋め尽くさんばかりに数々あることに。
その光沢を用いた黒く光る鉱石に思わず魅了されてしまう。
それほどに美しく輝いた特徴的な鉱石。
その鉱石に見覚えのあったユースティスは、目を凝らして見つめた。
「これはーーー」
ユースティスは驚きの表情をし、驚嘆の声を出す。
その表情にアリアは生唾を飲み込んだ。
「武器を輸入して自らの街を危険に迫らせていたということか」
彼の解答に村長は図星を突かれ、何も言えなくなる。
ユースティスの鋭い観察眼が目立った。
「なるほどな……、すんなりとは言ったものの、やはり見る限りではあまり気持ちのいいものではないな」
その声色からは少しだけ怒気が混じっていた。
僅かに含んだ怒気を敏感に感じ取った村長は、彼の少しだけ彷彿とした声を指摘する。
「何故、怒っておられるのですかな?」
「怒るのも必然的だ。街の人間に被害が及ぶことになる可能性を含んでいるのだからな。下手をすれば、この街に無人が一気に雪崩れ込む。そうなれば、大量に人が死ぬことになるんだぞ?」
「そんなことは百も承知。皆から既に理解を得ています」
「……ッ。住人達もいずれこの危険が及ぶことを承知の上で承諾したということか……」
「そうでもしなければ、この街は生きられぬ‼︎」
突如大声を荒げた村長に、ユースティスとアリアは開いた口が閉じなかった。
今までの優しい口調が一変する。
怒った姿が二人を威圧した。
「貴方達余所者に何が分かる‼︎この街が今までどれだけ無人の被害を受けずに保たれてきたと思っている‼︎それは、長き歴史を破壊するのと同義なのですぞ‼︎それを破壊するということも‼︎」
何かが吹っ切れたようにつらつらと言葉を重ねていく。
その言葉にどれほど重みがあるのだろうか。
アリアは真剣に老人の話に耳を傾けた。




