8章 朝から喧騒
「殺気を放てばバレる……か」
確かに彼の言う通りである。
無人は殺気に敏感だ。
気配を察知して殺気を読み取ることが出来るのだろうか?
何故、奴らが人間の放つ殺気を感じ取ることが出来るのか。
それは未だに謎だが、非常に厄介な感覚だ。
作戦として十分に満足な死角を狙った遠距離からの攻撃を何度も仕掛けてきた。
ひっそり狙うということを何度も行ってきたが、そのどれもが無残にも不発に終わった。
やはり無人が殺気を読み取れるということを考えると、いくらか分が悪い。
遠距離からの攻撃なら無人の攻撃範囲内に入ることなく仕留めることが出来るが、至近距離での攻撃ともなればこちらにも多少なりのリスクが存在することになる。
一体どうしたものかと考えながら一人悶々としていると、いつの間にか自室に辿り着いた。
どうやら自分一人だけでは解決策が見当たらないようだ。
一向にまとまらない考えを払拭するために未だ姿が見えないアリア達の元へと向かう。
まだ起きていないのか。
ロンドとすれ違ったが、他の女性陣二人は出会っていない。
まだ部屋から出てくる様子はない。
「怠け……」
仕方なく起こしに行こうと二人がいる部屋の前に立った。
じっと扉の前に立つが、部屋から物音は聞こえてこない。
やはり寝ているようだ。
ユースティスは部屋の扉を二度叩いた。
「おい、早く起きろ」
ノックと同時に声をかけてみる。
「……」
しかし、反応はない。
コンコン―――
再度ノックをするが、中から物音一つしないことをみるに効果は薄いようだ。
「……」
今日は朝早くから出掛ければならないと言うのに……。
内心やれやれと思いながら、溜息を吐いていると部屋から慌ただしい物音が聞こえてきた。
何をしているのか?
「入るぞ」
と、声をかけ扉を開けた。
扉を開けた先にあった光景にーーー
「ちょ、ちょっと⁉︎なんで入ってくるのッ⁉︎」
慌てた様子のアリアが声を上擦らせて驚きの様子を露わにした。
彼女は咄嗟に露出した肌を隠すため近くにあった布団で身を固めた。
彼女の行動に対して微塵の興味も示さないユースティス。
「子供の裸など見て俺になんの得がある?」
「凄く傷ついた……」
ユースティスの言葉がアリアの胸に酷く突き刺さる。
だが、彼はやはりアリアには微塵の興味も示さず一言伝言だけ吐き捨てた。
「すぐに支度しろ」
そう伝えたユースティスはアリアから視線を切ると、そのまま部屋を去ろうとした。
だがーーー
「……っ」
背後から不意に感じた凄まじい殺気に、ユースティスは反応素早く後ろを振り返った。
振り返った先にいたのは、眉間にしわを寄せた悪魔の形相を匂わせる表情のアルマリアがいた。
彼女の手には既に武器が握られていた。
黒く光る銃がやたら眩しく見える。
その不気味なほどに黒く輝いた銃が怪しく光る。
そして、彼女の目もまた鋭く光った。
武器を構えるアルマリアと、対峙するユースティス。
二人の間に痺れるほどピリッとした空気が張り詰める。
息を吸うのでさえ拒みたくなる合間見える二人。
未だ布団で体を覆い尽くしているアリアをほっといて二人は戦闘を始めようとする。
互いに距離を詰め、じりじりと迫り来る。
そして、つかの間の静寂の後、二人が動き出した。
瞬時に距離を詰めたアルマリアが言った。
「ベストコードーーー燃えよ私怨‼︎」
詠唱を唱えると、続けて彼女は言い放った。
「お嬢様の裸を見ていいのは私だけです‼︎」
「えぇ⁉︎何言ってるのッ⁉︎」
突如訳の分からないことを言い出したアルマリアに衝撃を隠せない。
アリアは自身の肌を更に隠して身を固めた。
対してユースティスも彼女から放たれる銃弾を交わしつつ詠唱を唱えた。
「エラーコード……私怨」
唱え終え抜刀すると、撃ち放たれる弾丸を全て真っ二つに斬り伏せた。
カランカランと真っ二つになった薬莢が全て地面に落ちる。
その光景にアルマリアは舌打ちをする。
「お嬢様に仕える身として舌打ちは感心しないな」
「うるさいですね。細かいところを指摘しなくていいんですよ」
ユースティスの小言に更に苛立ちを覚える。
アルマリアが狙いを済ませて標準を合わせると、素早く引き金を引いた。
ゆっくりと飛んでくる弾丸を見つめユースティスは体を背けて避ける。
そしてーーー気が付いた。
その先にロンドがいた。
朝から聞こえてくる発砲音に気が付いた彼が部屋に駆けつけていたようだ。
「ん?うぇぉ⁉︎危ねぇーーーー⁉︎」
間一髪のところで避けたロンドが冷や汗を流して弾丸によって空いた壁を見つめた。
「おいおい、他人の宿で何やらかしてんだお前ら……」
ドン引きして顔を引き攣っている。
「問題無いですよ」
その時、突然横から声が掛かって全員が一斉にそちらを見た。
そこには笑顔でその場にいた四人を見ているルニーの姿があった。
ルニーは不自然なくらい満面の笑みを浮かべていた。
「こういうのよくあることですから……」
と、悲しげな瞳で言った。
ユースティスは辺りを見渡してみる。
なるほどと、一つ頷いてみせた。
この宿がボロい理由が何と無く分かった気がすると思った。
抜刀していたユースティスはそっと券を鞘に収める。
対峙していたアルマリアも銃を収めた。
二人が黙って武器を収めた光景にアリアとロンドは頭にはてなマークを浮かべて二人の様子を伺っていた。




