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三者三様の表情にユースティスは、彼らから視線を切って背を向ける形で言った。
「明日もう一度調査をする。今回は全員でだ」
「全員で?」
アリアが聞き返す。
「そうだ」
ユースティスは彼女を見つめて答える。
「俺は別に構わねーぜ?」
「私も特に反対はありません」
と、アルマリアとロンドは肯定の意を表す。
残った一人、アリアの意見を聞くために全員が彼女を見つめる。
見つめられた彼女は、キョトンとした表情で全員を見る。
「え……?」
「承諾を得たい」
「私の意見が必要?」
「一応こちらはお嬢様に仕えている身だからな。あまり勝手な行動は慎みたいと思っている」
どの口が言うのかと思えば。
アリアは内心笑ってしまう。
ユースティスの真面目な言葉を聞いたアリアは、再びキョトンとして様子で彼を見つめていたがーーーやがて口を開いて言った。
「勿論私はいいと思うよ」
ユースティスの意見に賛成だとアリアは言った。
何の問題もない。
アリアはそれを理解していた。
全員の承諾を得たユースティスが再び鼻で笑う。
「なら、決まりだ。明日は全員で調査をする。ロンド、今日はこの宿に泊まれ」
唐突なユースティスの言葉に対してロンドは、突拍子も無い彼の言動に驚いた様子でユースティスを見つめる。
「え?いや、だがーーー金がねぇぜ?元より野宿のつもりだったしな」
「構わん。こちらが出す」
「そうか?そりゃ、悪いな」
「ふっ……、その分のツケは明日以降払ってもらう」
「おいおい……。抜け目ねぇな……」
ポケットを探って一文無しのアピールをしたロンドだが、それすらも看破してユースティスは自分たちが払うと言った。
だが、その後に続いた言葉。
その分の代償を明日払ってもらうということらしい。
喜びもつかの間、ロンドは肩を落としてみせた。
一体何をさせられるのやら。
と、一抹の不安を胸に抱いているロンドを他所に、ユースティスは視線を向ける。
そんな彼を見つめた後、ユースティスはアリアとアルマリアの二人を見つめて言う。
「俺とロンドは別の部屋で寝る」
「なんでだ?」
「男が女と一緒に寝るわけにはいかないだろう」
「あぁ、成る程な」
何故と口にしたロンドの問いを返したユースティスが、女性陣二人アリアとアルマリアに向かって言う。
「アルマリアはお嬢様と一緒に寝ろ」
「言われなくても分かってます」
「そうか」
ユースティスに言われたアルマリアは、さも当然のように答えてみせた。
その言葉を聞いたユースティスは満足そうな表情を浮かべると、彼は無言で背中を向けると部屋から去っていく。
彼に続いてロンドもアリア達に手を振って別れると部屋からいなくなる。
その姿を女性陣二人は黙って見つめていた。
バタンと扉が閉まる音と共に男と女は別れた。
そうして男陣二人が消えると、残された女性陣二人は静寂の部屋に居座る。
シンとした部屋に残された二人は暫くの間互いに喋ることなく男達が去っていった扉を見つめ続けた。
数分見つめた後、その静寂を破るかのようにしてアルマリアが声を発した。
「珍しいものですね。彼が笑うなんて」
「そうだね……、私も初めて見たから驚いちゃったよ」
「ふふっ、そうですか」
口を抑えて細く笑むアルマリア。
彼女の優しい笑みがとても輝いて見える。
どこか優しい雰囲気を纏った淑女を見たアリアは、ふと彼女の笑みに釣られる形で笑いが溢れる。
彼女の優しい雰囲気をアリアはとても気に入っていた。
聖母のような優しさを醸し出した彼女を見ていると、こちらまで癒されるかのようなーーーそんな不思議な気分だった。
アリアの視線に気がついた淑女は、目尻を下げて優しく言った。
「さて、そろそろ寝ましょうかお嬢様」
「そうね。遅くまで起きてると、規則正しくしているユースティスに怒られそうだし」
「それもそうですね」
二人から再び笑い声が溢れ出し部屋に響き渡る。
笑いこけた二人は互いに止めると、眠るためにベットに横になり体を預ける。
横になった途端、体の疲れがどっと重くのしかかりベットに沈む力が増す。
喋る力さえ失われていく中ーーー
横についただけで一瞬で眠れてしまうかのような気分に襲われて、二人は暫く心地良い余韻に浸り深い深淵の闇へと落ちていったーーー。
♦♢♦
アルマリア達と離れたユースティスは、宿主であるルニーへと会いにいった。
「急な変更すまないな」
「いえ、空き部屋は多少なりありますから、気にしないでください」
朗らかな笑顔を向けて言うルニーにユースティスは視線を逸らす。
彼女の後ろに付いていく。
宿全体の把握をしている彼女こそ、この宿の主である所以なのだ。
そして、しばらく歩いて連れられてきた場所の前に辿り着いてルニーが言う。
「こちらの部屋をお使いください」
「すまんな」
「ありがとうな嬢ちゃん‼︎」
ぺこりとユースティス達に腰を折って去っていくルニーを見つめ、ロンドはお礼を言った。
少女の背中を見つめ彼はいち早く扉に手を掛け部屋へと入った。
中は先程いたアリア達の部屋同様の内装が広がっていた。
ベットは二つあり、早速ロンドは扉の近くにあった方へと腰を掛ける。
「今日はもう寝ておけ」
背後から聞こえてきた声が睡眠を促す。
彼が真っ先にベットに入った姿を見たユースティスは、ロンドに寝るように促してみた。
「へいへい分かってますよ。兄ちゃんは小言が多いね〜。女性陣に色々言われてないか?」
「言われていたとしても気にはしない。間違ったことは言っていないからな」
「兄ちゃんは正論過ぎるんだよな〜、それじゃあ女性陣が生き辛いと思うぞ?」
「なんだと?」
凄みのある眼に蹴落とされロンドはどもってしまう。
「いや、確かに言ってることは間違っちゃいねぇが……まぁ、そうだな」
「歯切れが悪いな」
バツが悪そうな表情のロンド。
いまいち何が言いたいのか理解出来ないユースティスが彼を見つめるがーーー
「いや、やっぱり何でもねぇ。気にするな」
と、そのまま何も言わずにベットへと突っ伏すロンドにユースティスは視線を切って椅子に腰掛ける。
ものの数分でロンドから寝息が聞こえてくる。
眠るのが早いなと思ったが、さしたる問題ではなかった。
一人起きているユースティスは、静寂に満ちた部屋で一人物思いに耽る。
部屋に備え付けられていた窓に目をやるが、そこから覗き込む景色は昨晩と何一つ変わることのない日常が広がっていた。




