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危うく見つかるところだったが、運良く免れたようだ。

もし―――後一歩。


興味がそそられ、それ以上先に踏み込んでいたら、今頃自分はどうなっていたか分からない。


何しろ音を出しただけであの警戒心の強さ。

察するによほど知られたくない何かがあの先にはあったのだろう。


男からは見えなかっただろうが、アルマリアは血相を変えてこちらに迫って来ていた男の顔が見えていた。


その顔が鮮明に頭に思い浮かぶ。


先程まで息を殺していたアルマリアは、肺に空気を取り込むために深い深呼吸をした。


森に潜む新鮮な空気を肺いっぱいに取り込んで体内で循環させる。

ちらりとトンネルを見る。


収穫はトンネルがあったということだけ。

他に有力な情報は手に入れることは出来なかった。


だが、それでも十分な成果であり、ユースティスが満足してくれる必要な情報だろう。


提供してくれた女性に感謝の念を心で思い馳せながら、アルマリアは誰にもバレることなく森を抜けて颯爽と宿へと帰宅しようとする。


アルマリアは深く根が張った森を足早に抜け出た。

森の外でも警戒を怠らずに常に緊張の糸を張り巡らせて周囲を確認する。


万が一にも油断は許されない。

何やらこの街にあるただならぬ雰囲気がアルマリアに警鐘を鳴らす。


行ってきた道を戻って帰路へと辿り着いた彼女は、ようやく早足をやめてゆっくりと歩き出した。


地に足をしっかりと踏みしめた心地良さは胸に残る。

耳に飛び込んで来る賑やかな声。


そこでアルマリアは街の中心部へと付いていたことに気が付いた。

人が多い方がいいと思って逃げ込んだ場所にしては冴えている。


街の中心部は未だに活気付いていた。

商人達の商売道具が盛んに外に出て出店を構えている。


その光景を目に焼き付けながら、淑女は凛とした姿勢で立ち振る舞う。


街の一人として違和感無く溶け込んでいく。

メイドとは思えないほど凛々しい姿に、商人達は自身の商売など忘れて見惚れてしまう。


顔を真っ赤にさせた男達が美しさを兼ね持ったアルマリアに目を奪われ釘付けになる。

そんな男どもの視線など一切気にする素振りもない淑女が、髪をかき上げて空を見る。


朝日が沈み、夕日が立ち込める。

次第に明るかった空は一瞬で暗がりを見せ、夜の静けさが襲いかかってくる。


疎らに撤収を始めた商人達の様子を横目で見ながら淑女は、両手の指を前で絡めて歩き進める。


メイド服に身を包んだ淑女が歩く。

その姿に片付けを忘れて見惚れている者も少なくはなかった。


そうして夜の暗さが訪れ、街は電光の明るさに頼り始めた。


夜の暗さをもろともしない電光の力を頼りにした酒場が展開し始める。


昼とは違った賑わいを街は出していた。

馬鹿騒ぎする声が聞こえてきて、アルマリアはふと視線を向けた。


酒を手にした大柄な男が頬を赤らめて大声を出して笑いこけていた。


何やら楽しそうな雰囲気を感じる。

呑気なことだとアルマリアは思う。


だが、彼らの仕事は無人討伐ではない。

彼らの商売はあくまで物を売ることにある。


自らの商売に関係ないものを進んで行う者などいるはずもなく。


アルマリア自身でさえ売り物を売れと言われても出来る気がしなかったので、何も言うつもりはなかった。


しかし、自然と目に入ってくる楽しそうな雰囲気をどうしてもアルマリアは素直に取ることが出来ない。


やはり自分達が頑張っているのにも関わらず、そのことに無関心な輩を無視するわけにもいかなかった。


だけど、自分達が無人を倒していることを彼らに話したところで無意味であることを彼女は理解していた。


彼らには彼らの仕事があるように、淑女には淑女の仕事があった。


強く当たることなんて出来ない。

まして自分で選んだ道を今更とやかく言うわけもなく、アルマリアは楽しそうに話している彼らから視線を切る。


口に出そうになった言葉を飲み込み、自分で自重して宥めるように言いつける。


自分の仕事は無人を倒すこと―――。

ただそれだけだ。


視線を切ったアルマリアは、他に寄り道することなく宿へと帰っていった。


街の中心部から離れた奥地にある宿に着いた彼女は、自分が泊まる宿の前で一度立ち止まった。


目を傷めないほのかな明かりに淑女は小さな優しさを覚えた。

今日一日を終えたアルマリアは重い息を吐いて宿の扉を開けた。


すると、入ってすぐ出迎えの声が聞こえてきた。


「お帰りなさいませ、アルマリア様」


その声はこの宿の主であるルニーの声であった。

中に入るなり、ルニーはアルマリアに向かって腰を折って出迎えてくれた。


「ありがとうございます」


アルマリアはルニーが出迎えてくれたことに感謝の念を述べ自室へと戻っていこうとする。


階段を上がり、部屋番号一と書かれた扉の前へと辿り着いたアルマリアは、扉に手を掛けて引いた。


扉を開けた瞬間、少女の元気な声がアルマリアの耳に飛び込んできた。


「お帰りアルマリア‼︎」


声の主であるアリアのほんわかとした笑顔に出迎えられたアルマリアは、ついさっきまで張り詰めていた緊張感が解け、一気に体の疲れを感じ取った。


一日中歩き回っていた彼女にとって自室に帰ってきたことは、今日の終わりを迎えることに等しい。


彼女の笑顔に釣られて自然と笑みが溢れる。

それだけでまるで、疲れが吹き飛ぶかのような癒しを手に入れた気分だ。


後は彼さえいなければ最高の一時だったのだがーーー

ちらりと机の上に刀を広げて椅子に座っている男を見つめる。


昨日と同様に刀の手入れをしているあたりが更に腹立たしく煮え切らない苛立ちを覚える。


そんな殺気を織り交ぜた彼女の視線に気が付いたのか。

刀を弄っていた手を止めたユースティスがこちらに振り返ってきた。


「ふん……、随分遅かったな」

「ええ、少々寄り道をしていましたので」


彼の発した言葉をツンとした態度で請け負うアルマリア。

それに応じるかのように冷たい態度で出迎えるユースティス。


二人の間に不穏な空気が立ち込める。

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