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ユースティスは再度視線を張り巡らせ辺りを観察するが、特にこれといった変化もない。
確かにここで何かが行われているのは大方予想出来るのだが……決定的な証拠には今一つ欠ける。
何かあるがーーー。
何があるのか分からないといった状況だ。
その事実にユースティスは少しだけ肩を落とした。
あわよくばと期待に胸を馳せていたが、いざ来て見れば何もないという事実にユースティスはその場にいる理由をなくし、潔く諦めてそそくさと退散する。
何か収穫があれば良かったのだが、その願いも叶わずじまい。
致し方なしと心中思いて勢い良く立ち上がると、そのまま名残惜しそうに視線を切り、その場から逃げるように立ち去っていく。
痕跡を残さないように元来た道の足跡を消しながら戻っていく。
森林に生える鬱蒼と生い茂った木々が飄々と左右に揺れ動き踊り出す。
森林には一切の光が差し込まない。
故に、森に不気味さを立ち込めさせる。
暗がりがより根深くなり深淵へと誘う地獄が続く。
太陽の光を灯さない森を黙々と戻り、自分が存在していた証明を消し去っていった。
砂を巻き上げて足跡を消し、朽ち果てた葉っぱを撒き散らして痕跡の消息を断つ。
収穫無しの状況に急くユースティスを嘲笑うかのような冷たい冷気が悍ましいくらいに体に押し寄せる。
この街の真髄はここにある。
そう断定出来る雰囲気をこの場は醸し出していた。
そう。
何かを必死に隠しているはずなのに……その正体は掴めずじまい。
正体が掴めなければ、この街の崩壊は刻一刻と危機迫るものとなる。
街の外は無人によって埋め尽くされている。
今は何らかの影響によって外に待機している状態が続いているが、いつ何が起きても不思議じゃない。
それこそその保たれている糸が切れて、溜め込んでいた無人が一気にホルノマリン街に流れ込めばこの街はたちまち無人の餌食になる。
そうなれば他の街同様、待っているのは永遠にも思えてくるもがき苦しむほど辛い地獄の深淵。
そこに天国など存在しない。
あるのは死の海だ。
多くの人が無残な死に至り、辺りには死の腐乱臭が漂い大気を汚染する他ない。
ユースティスは歯噛みする。
ギリっという音が森に木霊する。
そんな地獄など誰も望みはしない。
それだけは絶対に避けなければならない。
何を思ったのか。
その場に立ち止まり歩かなくなった足元を朧げに見る。
そして、次に空を見上げたユースティスが悲しげな瞳で天を見る。
太陽の日差しを遮るようにして生えている木々の隙間から覗き込む澄んだ青空が、立ち止まったユースティスの目に鮮明に写り込んでくる。
その空を見て思うのは、一緒に旅をしている小柄な少女の姿。
アリアの姿を垣間見るような気分で青い空を見上げていた。
アリアが一体どんな思いで両親を失ったのかを、この目でしかと見ていたユースティスは知っている。
両親を失う代償の重さを目の前でいつも見ているからこそユースティスは、一刻も早く無人が現れる原因を作っている根元を探りたいのだ。
その原因さえ掴めることが出来れば、この街の平和はまだ保たれる事となるだろう。
無人に襲われていない街ホルノマリン街。
そういう謳い文句がある街も一つはあってもいいとユースティスは思う。
折角の幸せを噛み締められているのなら、それを逃す手はないと。
手放したら最後二度と戻ってこない平和を今もーーー
そして、これからも永遠に続けていくことこそが、この旅の最終目標であるとユースティスはそう思っている。
しかし、平和を維持出来るだけの余力が後どれくらいの割合で存在しているのか分からない以上、悠長など言ってられない。
一刻も早い手を打たなければならないのだが……。
原因を掴む事がままならなかった場合ーーー。
待っているのは最悪のシナリオ。
想像もしたくなければ、想定もしたくない事実。
街の崩壊へとカウントダウンが刻むこととなる。
その時計だけは動かしてはならないと。
強い思いを胸に抱いて……。
そして、ユースティスは帰路へと至るのだったーーー。
♦︎♢♦︎
幽玄が渦巻く深層に、根深く伝う深々とした吹き抜ける風が轟くように唸る。
浸り浸りと水源に潜む水飛沫が地面を穿たんと自由落下の現象で落ちてゆく。
街の中心部からだいぶ離れたその奥地に、女性の情報を頼りに足を進めていたアルマリアがそこにいた。
証言通りの道を辿って歩を進めていく。
道を真っ直ぐ進み一つ目の角を素通りしていく。
再び等間隔に開けた道を進み、二つ目の角が見えてくる。
その二つ目の角に辿り着くと、アルマリアは首を右に向けて確認する。
視線の先には同様の作りで舗装された道路を何の躊躇いもなく突き進む。
見慣れないはずの道なのに、まるでこなれた感じで道を歩いていく。
歩いていると、次第に建物が連なっていたはずの風景に緑が生い茂る。
鬱陶しいくらいに成長した木々が一つの巨大な大木となって街を支配しようとしていた。
アルマリアは靴の反骨音を街に響かせながら足を止めることなく進んでいった。
建物から森林に変わっていく風景に違和感を覚えながらも、右手にあるというトンネルを目指して視界を凝らして見つめる。
進むにつれて差し込まれていた光は光力を失い、森林は深く根強く成長していた。
たまに差し込む日差しの強さに目を当てられながら、アルマリアは程なく足を運ぶ。
軽やかなリズムを刻んで突き進んでいく姿は、思わず見る者を魅了するだろう華麗な足運びだった。
突起物が地中から出ているのもお構い無しにその速さを増してアルマリアが歩いていると、視界の先に何やら一際際立つ光彩を放った場所がそこにはあった。




