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街に戻った四人がまず目にしたものは、ホルノマリン街に住まう人々の活気ある姿だった。
まるでお祭り騒ぎ状態である。
これで本当に無人が現れたと騒いでいた連中達なのかと疑いたくもなったが、さしたる問題ではないと判断してユースティスは人混みの中を掻き分けて進んで行く。
呑気な連中だなと思う。
何せここにいる奴らは外の人間に頼めば、やってくれるのだから簡単なことだ。
人の気も知らないでよくもまぁそんなことをやってのけるなと。
ユースティスは思う。
ここのいる大抵の人間は無人に襲われるという恐怖を知らない。
まだ、未曾有に防げているからいいものの。
この世で無人を討伐出来る人間は減少傾向にある。
増え続ける無人に対抗出来る人間。
何故この街の人間はアリア達に依頼を挑んだのか。
それは簡単な話だ。
この街に無人を狩る者はいない。
いや、狩れる者がいないのだ。
人口の減少と比例している。
だから彼らは結局のところ他人に関わるしかないのだ。
幼子である彼女の言った通りのことである。
あの少女こそここにいる誰よりも利口であったと再度思う。
「ちょっとユースティス‼︎歩くの早いよ‼︎」
そう考え事をしているユースティスの背後から声がかかった。
少女の甲高い声が聞こえて来たと思えば、急に裾を引っ張られる。
彼の後ろを必死に食らいついていたアリアが根を上げる。
こちらの歩幅に全く合わせようとしない彼に不満が募っていく。
「ん?あぁ……すまない。ちょっと考え事をしていたんだ」
口では謝ってはいるが、こちらに視線を向けないところを見る限りでは相当考え込んでいるようだ。
ユースティスは街行く人には目もくれずに先へと進んで行く。
そんな彼の後ろ姿を見つめ、付いていくの止めた。
ふと視線を外に向ければ、アリアは街が活気づいていることに目を奪われる。
華やかに装飾に、煌びやかな蛍光色。
彩り鮮やかな果物が目に入ってくる。
今まで見たどの光景よりも鮮明に写ってくる。
お嬢様だった時の光景よりも全然美しかった。
全てが綺麗に見えてくるようだ。
楽しそうにはしゃいでいる街の人達を、アリアは羨ましそうに見つめる。
自分にもかつてあった艶やかな記憶が思い返してくる。
「楽しそう……」
思わずポツリと溢れた言葉がアルマリアの耳に届いて来た。
彼女の瞳が少しだけ潤んだのを見逃さなかった。
「少し……見て行きますか?」
アルマリアの優しい瞳がこちらを見据えてくる。
アリアは羨望の眼差しでアルマリアを見た。
「いいの?」
「えぇ……、今日はもう遅いでしょうしそれにーーー」
「それに?」
アルマリアは彼女から視線を外して言う。
「昔をーーー思い出しますから」
ポツリと呟いた言葉はアリアには届かなかった。
「え?何て?」
「何でもありませんよ」
朗らかな笑顔で返すと、彼女はアリアの手を引いて歩き出す。
「行きましょうか」
そう言うと、アルマリアは手当たり次第に彼女を連れ回した。
屋台のように栄えある街並みが賑わいをみせる。
数々の催し物が展示してあった。
食べ物なども豊富に点在し、食欲を旺盛にさせる。
「何か食べて行きますか?」
アルマリアの提案に、アリアは困惑する。
「大丈夫なのアルマリア?ユースティスに付いて行かなくて……」
心配そうに見つめてくるアリアに対して、だが、さしも気になった様子を見せない。
大した心配もしていないのか。
アルマリアは気にすることなく一つの屋台に目星を付けて駆け寄る。
そこには、美味しい風味を出したお肉が目白押しに並んでいた。
「すみません。そこのお肉を二つ」
『ん?あいよ‼︎』
こちらの存在に気が付いた店の店主が反応を示した。
店主が肉を片手に持つと、手際よくお肉を細かく刻んでいく。
リズム良く切り刻んでいく店主のお肉を見つめながら、アルマリアは答える。
「いいにですよ。ユースティスは一人で考えるのがお好きなようですから……」
下を向いて答える彼女にアリアは震える瞳で彼女の顔を覗き込む。
彼女の向いている先に紅炎の瞬きに輝く焔が、揺らぐ風に舞い上がり熱波を翳す。
揺らめく炎の残影が視界に入り込んで来る。
過ぎ行く時間の中で、アルマリアは思う。
百体の無人を相手に対抗策があると言えるのかと。
思案に至るが、やはりそんな考えなんて思いつかない。
自分では無理だと。
だが、それはユースティスにとっても無理ではないのかと思う。
悩んだ先に何があるのか分からない。
そう思いーーー
『はいよ‼︎お待たせ‼︎』
目の前に出された熱々に湯気の溢れた白の湯煙が視界を覆い尽くす。
肉汁溢れた肉を前に……
「ありがとうございます」
出された袋に包まれた肉が眩い光を伴って現れる。
持った途端伝わって来るお肉の暖かな温もりが手を支配していく。
「お嬢様。どうぞ……」
そう言う彼女は両の手に持った肉を渡して来る。
目の前に現れた肉を見据え、アルマリアから受け取った。
仄かに伝わって来る肉の温かみが手を支配していった。
肉の美味しそうな匂いが鼻腔を擽る。
懐かしい匂いが身を伝って風を便り続ける。
昔の記憶の扉が開いてきそうだ。
懐かしい食卓を囲んだ時の記憶。
そんな感情に抱かれ、手に持った肉を頬張った。
一口。
口の中に入れた瞬間に広がる肉汁が、下を綴って味覚を刺激していく。




