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「何も怖がる必要はありませんよお嬢様。お嬢様は私達がしっかりとお守りいたします。安心してください」

「万が一無人に襲われそうになるなら、俺達が守ってやる。その為に俺とアルマリアはここにいるんだからな」


アルマリアの温かい言葉とユースティスの安らぎを与えてくれる言葉に、アリアは心強さを感じた。


なんだかんだ言ってもユースティスは自分のことを第一に考えてくれている。


それこそ父のような温かな目でしっかりと見ていてくれている。


その安心感にアリアは少しだけ甘えている。


誰もが奪われたこの世界で一人で生きていくことは困難に等しい。


誰かと誰かに支えられ、誰かに支援されることが必要なこの世界で、アリアにとってユースティスやアルマリアの存在は必要不可欠だ。


二人がいるから私が今ここにいるのだと自負して。


考えながら歩いていると、無人に襲われることなく進む事が出来た。


無人が現れたと聞いていたが、そうそう出会えるものでもないらしい。


見つかりたくない時に見つかって、見つかってほしい時に見つからないのが無人の悪いところだ。


彼らは殺気に敏感なのである。


もしかしたら、三人が発している気だったオーラを感じ取った無人達が姿を潜めてやり過ごそうとしているのかもしれない。


と、様々な思考が頭の中で飛び交う中ーーー程なくして三人が不意に足を止めた。


どうやら、探し求めていた目的の場所に着いたらしい。


アリア達の視界に入って来たもの。

それはーーー


目の前には無人を寄せ付けない効力が切れたことが明白に分かってるほどに、無人の大量の群れが出来ていた。


何処までも続いていたと思っていた一本道は、突如一本の糸が切れたかのように横から生えてきた森林によって侵食されていた。


恐らくこの森林によってホルンマリン街本来の無人を寄せ付けない特別な何かが効力を失い、無人を惹きつける引き金となってしまったのだろう。


三人の前にはこちらを待ち構えていたかのように大量の無人が森林に集団を作って戦闘態勢に入っていた。


こちらを狩る気満々の態度で無機質に動く無人が不快な音をさせながら待機している。


「成る程な……これでは確かに無人が多過ぎる。奴らが身の危険を感じるのも頷ける」

「そうですね。まさかここまでの無人がいるとは……流石に想定外です。何体いるのでしょうか……」

「大丈夫だよ」


二人の不安を抑えるかのようにアルマリアとユースティスの二人を見やってアリアが言った。


「皆で上手くやれば、必ず倒せる。どんなに敵が強大でも、どんなに敵が沢山いても、二人がいるなら倒せる。だからーーー行こう」


彼女の力ある瞳に充てられた二人が思わず驚く。

そのうちの一人、アリアの前に立っていたユースティスがふと笑って答えた。


「ふっ……、どうしてこういう時は真っ先にお嬢様が先頭に立つんだろうな?それも才能の一種か?」

「うるさいな……だったら、ユースティスが一番手で行く?」

「それをして困るのはお嬢様だぞ?何せ俺はーーー」

「あー、分かった。分かりました。私が一番手で行きますよ‼︎」

「ユースティス。あまりお嬢様を虐めないでください。流石の私でも怒りますよ?」

「分かってる……。冗談はこれくらいでいいだろう」


いきり立って先陣を切ろうとするアリアを、敢えて褒める事でからかっていたユースティスだったが、アルマリアの言葉にからかうのを止める。


彼がからかうのを止めた理由。


それは、アルマリアが恐ろしい形相でこちらを見つめていたからだ。


流石のユースティスも、無人を前にして二人を敵に回すのは後手だと思っている。


三人の心は既に無人を倒す事でいっぱいだった。


準備が整った三人が、意を決して大量にいる無人達の群れに飛び込もうとする。


「じゃあ、行くよーーー‼︎」


そう言って勇気を振り絞り飛び出そうとした時ーーー


「おりゃりゃりゃりゃーーー‼︎」


突然、耳を劈くような男の野太い声が聞こえてきてその足を止めた。


三人は一度身を隠して声のする方を見た。


すると、微かに遠くの方で一つの影が無人を相手に必死に動き回っている姿が確認出来た。


「何してるのあの人ッ⁉︎」

「一人で無人の相手をしている……みたいですね」

「とんだ阿呆がいたものだな」


三人が見た光景は、バンダナを頭を巻いた男が必死に西洋剣を振り回しながら無人を倒して行く姿だった。


彼は一人で無人を相手しながら戦っていた。


流石のアリアも一人で立ち回るのは無謀だと思い、どうしようかと考えていた。


じっとその場から動かずに見守っていると、不意に違和感に気が付いた。


男の声が止む事がない。

その異常に、目を凝らして遠くにいる男を探した。


目を凝らした先に男はまだ立っていた。


数十体はいるだろう無人を相手に見事な立ち振る舞いを見せていた。


通常、無人一体倒すだけでも至難の技なのに、あの数相手に相手取っているバンダナ男の存在がとても大きく見えた。


無人の攻撃に怯むことなく突き進んでいくバンダナ男の勇姿がアリアの目に飛び込んで目を離そうとしない。


その立ち振る舞いに、


「意外と身のこなしが良いな」

「そうですね……。あれほどの無人を相手にして見事に攻撃をいなしていますね」

「彼は一体何者なの?」


ユースティスとアルマリアはその動きに注目して見ていた。


とても一人では戦えないと思っていたが、バンダナ男は意外にも無人にしっかりと食らいついていた。


その身のこなしに感嘆さえ覚えてきた。


懐に入り、避けては攻撃を加え、着実に無人の体力を奪って行く。


「おりゃりゃりゃりゃーーー‼︎」


力強い声と呼応するかのように、素早さがさらに増して行き、あっという間に十体いた無人は残すところ半数の五体を切っていた。


「強いですね……」

「あぁ……、だが惜しいな。一人で戦ってはあれが限界だろう」

「呑気に分析していないで助けに行こうよ‼︎」


二人が互いに意見を出し合いながら男の実力を図っている姿を、黙って見ていたアリアが我慢の限界を迎えて二人に言った。

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