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予測可能少年  作者: ぶれます
9/34

9、始めは処女の如く、後は・・ (4/22 9:43 p.m.)

僕らはなるべく音を立てないように階段を下りた。

予測通り、下には誰もいない。


「ホテルの地下駐車場に車を止めている。それを使って逃げるよ」


「どの車?」


「南側の端に止めているSUVだ」


僕は能力を使ってその周辺の状況を把握した。


「一人見張りがいる。中央の柱のとこ」


地下への階段を下りたところで僕は立ち止った。

女は駐車場入り口まで進み、角から標的を確認して戻ってきた。


「あの程度なら訳はないよ」


そう言ってズボンの後ろポケットから短い棒を取り出す。

先端を引っ張ると3倍くらいの長さになった。

特殊警棒という奴だ。


「こいつはちょっとした優れものでね」


言いながら柄にあるスイッチを押すと、小さく『ぱちっ』と音がした。


「電流が流れるんだ。音を立てずに相手をやるときに最適だね」


「あと拷問にも・・」

警棒をうっとり見つめて付けくわえた。


拷問される相手のことを想像し、僕はちょっと引きつつ質問する。


「警棒・・好きなんですか」


「ああ。大好きだね。家にはコレクションが山ほどある。

 もっとも一番のお気に入りはあの旦那のモノだけどね」


さらっとシモの話を混ぜてきた。


「やっぱりあのおじさんは旦那さんなんですね。

 なんかお似合いって感じでした」


女はちょっと顔を曇らせて、でもすぐに明るい表情になって僕の顔を見る。


「そうだな。自己紹介がまだだったな。

 私の名前は安藤八重。旦那は義高っていうんだ。

 紹介が遅れてすまん」


そして標的の方に向き返った。


「じゃ、あいつ、ちょっくら片づけてくるわ」


そう言って一呼吸置いてから、標的に向かって猛然とダッシュした。

結果が予測済みの僕は特に止める理由はなかった。


見張りは慌てて拳銃を懐から取り出したが、安全装置も解除していない状態では

八重さんのスピードにかなうわけがない。

八重さんはとび蹴りを一発くらわせて相手を転がし、

電流付きの警棒をそっと相手の首筋に当てて行動不能にした。

そして僕の方を向き直って手招きをした。


「さあ。この車だ。乗りな」


さすが八重さんの車って感じだ。

車にちょっとでも興味がある人には価値は一目瞭然だろう。

フォードのリンカーン、大型高級SUVだ。

ちょっとやそっと銃撃を受けたくらいではびくともしないだろう。

僕は車を一瞥してから右側の助手席に乗り込んだ。


「奴らが来ないうちにさっさと逃げるよ」


「待って。旦那さんは助けないの?」


八重さんは車のキーを差し込んでエンジンをかける。


「あいつも言っていただろう?今はお前を保護するのが最優先なんだ。

 あいつの周りは今、敵で固められている。

 ここは一旦逃げるのに集中した方がいい。

 あいつもそれを望んでいるはずだ」


そう言いつつ、やっぱり八重さんはつらい表情をしている。


僕の髪の毛が青白く光る。

いままで把握した状況をすべて頭に叩き込んで、僕は予測計算を試みた。


「いけます。旦那さんを助けることは可能です。

 僕の言うとおり行動すれば」


車が動き出し、地下駐車場から地上に向かう。

八重さんは迷っているようだ。

そして、


「光弘君。君との付き合いはまだ短いが、君と君の能力は信用できる・・・

 OK!了解した。信じよう。

 私は何をすればいい?」


お互いの顔に希望の色が宿り、自信が湧いてきた。


「まず地上に出て左に曲がって連中から逃げるふりをして。

 そして200メートルくらい進んでからUターンして旦那さんのところに戻って」


「わかった」


---------------------------------------------------


と、突然、頭の中に音とも画像とも言えない奇妙な感覚が現れた。


『analysis is completed!』


解析完了?どういう意味だ?


次の瞬間、僕の予測のイメージが様変わりした。

八重さんが未来に取る行動が手に取るようにわかる。

今まで人の行動の予測はぼんやりとでしかわからなかったが、

今は八重さんが次にどのような行動をするのか手に取るようにわかる。

細かい仕草も、次にどう考えるか、まで掴める。


『特定の人を観察することでその人がどう考え、

 どう行動するかが正確に予測できるようになるのか』


今まで知らなかった僕の能力のひとつのようだ。


---------------------------------------------------


車はホテルから離れて200メートルほど過ぎようとしているところだ。


「今だ!」


僕は叫ぶと、車はキキッと音を立ててUターンする。

そして今度は義高さんの方向へ猛然とつっこむ。


連中は僕たちが逃げるものとばかり思い、後を追っていたが

急に自分達の方向に向かってきたので、仰天し、浮足立ったまま銃をこちらに向けた。

八重さんは頭を低くしてハンドルを握っている、でも・・

3秒後に八重さんは頭を上げるだろう。義高さんの位置を目視で確認するためだ。

だけどそれはダメだ。


「八重さん。頭を上げないで!」


八重さんはハッとした表情になり、瞬間、フロントガラスにひびが入る音がした。

正面から銃撃を受けたのだ。フロントガラスは防弾ではない。

頭を上げていたら当たっていた。


と同時にタイヤにも銃撃を受けた衝撃が走る。

でも大丈夫。この車のタイヤはランフラットだ。

さっき確認して予測もしている。バーストはしない。


「大丈夫です。旦那さんの位置は僕が掴んでいます。

 5秒後に急ブレーキーをかけてください」


僕の指示通り、八重さんは急ブレーキをかけた。

僕は素早く助手席のドアを開けて、義高さんの体を中に引きずり込む。

義高さんの意識はあり、途中からは自力で後部座席にもぐりこんだ。


「すまない。礼を言うよ」


義高さんは疲れた表情をしながらも、しっかりと意識を保って言った。


「OK!あとは逃げるだけだな!」


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