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予測可能少年  作者: ぶれます
8/34

8、袋の僕ら (4/22 9:38 p.m.)

警戒しながらホテルの廊下に出た。

僕の能力でこのホテルの構造、現在位置、逃走経路はわかる。

ここはホテルの3階、逃走経路はエレベーターと非常階段の2つある・・が。


「エレベーターはダメです。」


エレベーターは一階で止まっている。

連中のリーダーはフロントと話をしているが、その部下がボタンを押しっぱなしにして

エレベーターを一階で待機させているからだ。

次に上がってくるときは連中も一緒だ。

そこで不意打ちしても装備や人数は向こうが圧倒的に上だ。増援も来る。

最終的には僕らはみんな射殺か拘束。

そんな予測結果が一瞬にしてはじき出された。


「じゃあ非常階段か?」


非常階段を使ったときの未来を予測する。

非常階段は吹き抜け構造になっている。

その一階には連中の別の部隊が突入の合図を待っている。

僕らが外に出たら行動は丸見えだ。

逃げるには階段を上に行くしかないが、エレベーターが抑えられている以上、

逃げ道はない。

袋の鼠だ。

追い詰められて反撃を試みるが射殺か拘束。

絶望的な予測結果だった。


「ダメです。完全に囲まれています」


「じゃあどうすれば助かるか予測してくれよ!」


女もさすがに焦ってきた様子で怒鳴った。


「無理ですよ!僕の能力はこうすればこうなるって答えは出せるけど、

 こうすればいい、という答えは出してくれないんだ!」


重い空気がその場を包んだ。

そうしている間にもタイムリミットは近付いてきている。

あと2分58秒。


さっきからなにか考えている様子だった青年が口を開いた。


「この階のどこかに隠れるスペースはないかな?

 逃げるのが無理ならやり過ごすしかないんじゃないか?」


隠れるスペース・・

今度は隠れることを想定して僕は予測を再開する。


廊下はむり。天井、床、壁、いろいろな可能性を計算したが・・

床のカーペットを剥がすと確かにスペースがあるが、あと2分半で隠れるのは不可能。

天井裏のスペースも同様だ。

だとすると残るはこの階の部屋。


「306号室・・そこのドアが開いています。

 やり過ごせるかどうかはわかりませんが・・時間は稼げる予測です!」


女と青年はお互いの顔を見合って、こくりと頷いた。


「考えてる暇はねえ。とにかくやれるだけやってみよう」


女はそう言って、僕らは部屋に向かった。


306号室のドアは確かに開いていた。

オートロック式になっているカギが壊れて修理中のようだ。

中にはベッド二つと洗面所、シャワールームがある。

3人が隠れるスペースなんてどこにもない。


「どうだ?やり過ごせるか?」


部屋を見ながら、半分諦めた感じで女が尋ねた。


「だめです。連中は注意深くこの階を探索します。

 この部屋にも入ってきて全員拘束されます」


射殺よりましか・・と少しでもプラスに考えた。

女も完全に諦めたような表情だ。

青年はまだ何かを考えているようだ。

そしてある提案を出した。


「この窓から飛び降りて逃げきれないか?」


その場合の状況も計算済みだ。


「下にも連中の仲間が待機しています。

 ものの2、30秒で銃撃されておしまいです」


「そうか・・」


少し間をおいて再び提案を出してきた。


「じゃあ一人囮になって窓から逃げたら、残る二人は脱出できるか?」


女はハッとした表情で青年を見る。


「まさか・・・」


女の方を見ずに青年は僕の方をしっかりと見る。


「連中の狙いは君だ。できるだけ君を生きたまま回収したいだろう。

 この鞄を背負ってシーツを掛けて逃げれば、

 連中は僕が君を背負って逃げていると勘違いして時間が稼げるんじゃないかな。

 その間に君たちは別ルートから逃走できるか?」


計算結果が出た。


「できます。

 あなたが逃走するのが奴ら全員に伝わって、階段で待機している連中が

 持ち場を離れます。

 その間に階段から脱出できます」


でも・・

予測は別の結果も示した。


「でもあなたは銃撃されます!

 その結果は・・・」


僕はうつむいて声を絞り出した。

「死にます」


青年は覚悟した様子で、目を閉じた。

女は頭に手をやって髪の毛を軽く掻きむしる。


「じゃあその役目は私が・・」


女が言いかけたのを青年が遮る。

そして僕の目線の高さまでしゃがんで話しかけた。


「いいかい?君には今、何が起こっているのかさえわからないだろう。

 自分の重要性も。これから起こることも。

 だけど君は僕らにとって残された希望なんだ。

 僕らはそれを守るためだったら協力は惜しまないし・・」


「場合によっては犠牲も厭わない」

青年はスッと立ち上がって最後に言った。


そこからは誰もしゃべらない。

青年は鞄を背負ってシーツでカモフラージュした。

女は部屋を行ったり来たりしている。

二人の関係は直接は聞いていないが、たぶん夫婦だろうということはわかる。

女はこれから青年のやろうとすることを止めようとしなかった。

顔もみようとしない。

僕から『止めなくていいの?』なんて口が裂けても言えない。

なにか・・なにか他に方法はないのか?


準備を終えた青年が窓の下を見る。

エレベータがじきに上がってくる。時間はない。


「じゃあな」


準備を終えた青年はそう言い残してあっさりと窓から下に落ちていった。

下に着地する音が聞こえる。

少し足を捻挫したこともわかる。


「早く行こう。あいつの最期を見ている時間はない」


少し目を赤くして女が促した。


「ちょっと待って」


僕が遮る。

計算結果が出た。


「おじさんを撃って!

 足を狙って」


女は理解不能といった表情で僕を見る。


「早く!それでおじさんの命は助かる!」


女の顔が変わり、ポケットから銃を取り出す。


「OK!信用するよ!」


女は通りを走っていく青年の足に狙いを定める。


「今だ!」


僕が言うと銃声が鳴り響き、青年が倒れる音がかすかに聞こえた。


「早く行こう!時間的にはぎりぎりだ」


今度は僕が促して二人で部屋の外に出た。


「おじさんは最初に頭を撃たれるんだ。

 そして死ぬ。

 でもおばさんが足を撃てば連中は仲間のだれかが撃ったんだと勘違いする。

 そしておじさんを拘束しようとしてそれ以上撃ってこない。

 おじさんの命は助かる。

 僕たちが逃げるために稼げる時間は減っちゃうけど

 階段の連中が戻ってくるのにはギリギリ間に合う」


僕は走りながら理由を伝えた。

女は『ははっ』と笑い、僕の長い髪をクシャっと鷲掴みにして言った。


「What a smart boy!」


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