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予測可能少年  作者: ぶれます
6/34

6、孫にも女装 (4/22 9:31 p.m.)

「リディ」


そう。

フェリックス邸でのどに食べ物を詰まらせてせき込んでいる時に

確かにリディは僕の背中に触った。

まさかあの時に?


いやな感覚が僕を貫く。

まるで中が見えない箱の中に手を突っ込んで、この上もなく気持ち悪い

何かに触れたような。

そんな気分だ。

年端もいかない少女が平然と僕に発信機を付ける。

フェリックスさんの指示だろうか?

今ではフェリックスさんの屈託のない笑顔ですら、薄ら怖く思える。


一旦疑いだすと次から次へ疑問が出てくる。


最初の森さんの電話に出た女性。

僕が母さんだと思いこんで話していた女性。

あれはホントに母さんだったのだろうか?

そういえば携帯の番号は確認してない。

母さんの声真似をした別人だったとしたら・・


あと、森さんは僕に渡したいものがあると言っていた。

でも森さんは僕に、じいちゃんから何か受け取っていないか、と聞いただけで

何も渡していない。

フェリックスさんも全くそんな話はしなかった。


僕のなかで疑念が次々とわき出てくる。

その間、女と青年は部屋の隅で何かしゃべっていた。


「本気か?」

「しょうがないだろ」

「しかし・・」


二人の会話の端々が耳に入ってくる。

何を相談しているのかわからなかったが、最後は青年の方が折れたみたいだった。

不意に二人は会話をやめ、女はこちらに、

青年は玄関近くに置いた鞄の方に向かって行った。


「いまからボウズにやってもらいたいことがある」


僕の前に立って女が言い放つ。


「かなり度肝抜かれることになると思うが、

 失神してお寝んねってことにはならないでくれよ!」


そう言いながら僕の肩を鷲掴みにし、ゆさゆさと揺さぶった。

頭がぐわんぐわんする。


青年の方は鞄から何か取り出し、大事そうに両手でそれを抱えて寄ってきた。

なにか黒くてモサモサしている物だ。


「これは君のおじいさんから君へのプレゼントだ」


そう言って手渡された物を見てみる。


裏返して見て、正面から見る。

横から見て、下から見てみる。

どこをどう見てもカツラだ。

それも髪の長い女の。


「これを僕にどうしろと?」


女は僕の前でどかっと座り、あぐらを組んで、そして答えた。


「かぶってみるといい」


「僕は男ですが?」


「きっと似合うよ」


「似合いたくないんですが」


「じゃあ神か親を怨むんだな」


そう言うや否や、女は僕の手からカツラをぶんどり、無理やり僕の頭にかぶせた。

僕が急いで外そうとすると、いつの間にか僕の背後に回った青年が羽交い締めにして

体の自由を奪う。

かぶりを振って抵抗する僕の頭を女はカツラの上から押さえつけた。

僕はもはや何が何だかわけがわからなくなる。

わけがわからない・・それは二人の行動に対してもそうだが、それ以上に

じいちゃんはこんなものを僕にプレゼントして何がしたいんだ?ということに対してだ。

しまいに僕は抵抗するのもばかばかしく思えてきた。


『ああ・・いいよ!かぶってやるよ!

 男なのにカツラをかぶって、女みたいな髪型になって。

 それでも結構似合っちゃう。

 そんな僕を見て思い切り笑えばいいさ!』


しばらくして二人に押さえつけられていた体がすぅっと自由になった。

青年は羽交い締めを解き、女は僕の頭から手を離したのだ。


僕は半分涙目になりながら二人の方をキッと睨む。

二人はそんな僕の表情には興味がないらしく、不思議そうな顔で僕の体を見ている。

僕もつられて自分の体を見下ろしてみると・・


「光ってる・・なにこれ?」


僕の足、腕、胸、腹・・

全身の隅々から溢れ出すように光り輝いていた。


「僕・・どうなっちゃうの?」


誰に言うでもなくそうつぶやいた瞬間、僕の中で何かが爆発し、頭が真っ白になった。

体中が熱い!自分が自分でなくなるようだ!

この感じ・・前にもどこかで味わったような気がする。

そうだ。あれだ。あの感覚。そう。

夢の中で、自分を覆う殻を突き破ろうとする、あの感覚だ!


--------------------------------------------


徐々に頭がスッキリしてきて僕は自分の体を取り戻す。

光輝いていた体は一体どうなったんだろう?


まず手を見る。

普段の自分の手だ。

改めてみると結構綺麗な手をしている。

次に腕を見る。

毛が全く生えていないつるつるの腕だ。

あれ?最近少し毛が生えてきてた気がするけど・・?

足を見る。

同じだ。毛が生えていない。つるつるでぷにょぶにょした足だ。

胸を見る。

なんかある。

「なんだこりゃ?」

ちょっとさわってみる。

ちょっとこそばゆい。

もうちょっと下の方をまさぐってみる。

ない。

体内の水分を排出したり、他にも色々なことに使うあれがない。

これは大惨事だ。


二人の驚く顔をチラ見して、改めて自分の全身を見てみる。

そして叫ぶ。


「なんじゃぁぁ~~~こりゃぁぁぁぁ~~~!!!!!」


僕は女になっていた。


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