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予測可能少年  作者: ぶれます
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5、夢は精神の煩い (4/22 9:23 p.m.)

夢を見ていた。

いやな夢だ。

自分の殻を破りたくて、でも破れなくて・・もがき苦しんでいる夢。


じいちゃんと父さんはヒーローだった。

じいちゃんは日本のみならず世界中から注目される科学者だ。

父さんも科学者だったが、それ以上にオリンピック選手として、

また一時は俳優として有名だった。

馬術の選手としてオリンピックに出場し、成績は振るわなかったが

甘いマスクと華麗な経歴が注目され、一時期テレビに出ずっぱりだった。

オリンピック終了後しばらくすると潮が引くように出演は減っていったが、

今でも覚えている人は多いらしく、僕はちょくちょくあの有名人の息子さん、

という扱いを受ける。


二人に比べて僕は何もかもが中途半端だ。

勉強は進学校に通っているとはいえ中の上の域を出ない。

あのおじいさんの血を引き継いでいるのにどうして・・と面と向かって

言われたこともある。

スポーツも球技全般はダメ。

父さんに馬術を教わったが、高所が苦手な僕はあの微妙に高い馬の上の感覚が嫌いで

何かにつけてさぼっていた。

唯一続いている棒術も練習の時には抜群の動きができるのに

大会の演武競技の成績はからっきしだ。

みんなが言うには僕の演武には迫力がないらしい。

どこか自信なさげで、頼りなく見える。

僕はそれを自分の背が低いせいだと思い込もうとしていた。がホントの原因はわかっていた。

自信がないのだ。今の自分に自信が持てないのだ・・・


自分という殻を突き破りたい!

じいちゃんでも父さんでも、もちろん今の自分でもない、別のものになりたい!

そしたら自分を誇れるようになれるんだ!


手を伸ばして殻の先端から自分を突き破らんとしたとき、

不意に目の前の視界が開けた。


---------------------------------------------------------


「おっ?お目覚めか?ボウズ」


ぶっきらぼうな女の声が聞こえる。

しばらく自分の身に起きたことが理解できず、見覚えのないその女の顔を茫然と眺める。

女はタンクトップにアーミーパンツを穿いた40歳くらいのおばさんだ。

ただ体は鍛えているようで、その分若々しく見える。


そうこうしている内に徐々に自分の身に起こった出来事を思いだしてきた。

そうだ・・僕はフェリックスさんの屋敷にいて・・何者かに襲われて・・

たぶん襲って気絶させたのはこいつだ。

じゃあ僕は誘拐されたのか。


部屋を見渡す。どこかのホテルの一室のようだ。

日が暮れて真っ暗な外でネオンがチカチカ瞬いている。

僕はベットの上で上半身を起こした。頭の中がジンジンして、僕は思わず頭に手をやる。


「おいおい。まだあんまり動くなよ。具合悪いんだろ?」


「誰のせいですか」


女はバツが悪そうにニタつきながら頭を掻いた。

本当にこの人が誘拐したんだ。


「あなた一人で僕を誘拐したのですか?」


一人で誘拐なんて無理そうだったが、この女の体格を見ると可能かも、と思えてくる。


「まさか!一人でそんなことできるわけないじゃん。

 もうじき仲間の一人がこっちに到着するよ。

 それにしても誘拐とは人聞き悪いなぁ・・」


相変わらず頭を掻きながら、私は何も悪くないのに、という風に拗ねて答える。

何か事情があるのだろうか?



その時、ドアの前で足音がし、ベルが鳴った。


女の顔が一瞬険しくなり、ドアののぞき穴から外を確認した。

そのあとくるっとこっちを向いてニヤッと笑い、


「話をしてたらさっそく来たよ」


と言いながら鍵を開けて訪問者を中に招き入れた。



訪問者は茶色いフェルトハットをかぶり、角型のメガネをかけた痩せて背が高い

30代後半くらいの青年だ。

青年は帽子を取り、コートを脱ぎながら一つ溜息を吐く。


「注意してこっちに来たけど尾行はないようだったよ」


と言い、僕の方に向かって挨拶しようと近づいた途端。


『ピーピーピー・・』


警告音が青年の胸ポケットから鳴り響いた。

途端に女と青年、二人の顔が引きつり、僕に飛びかかってきた。

二人が必死の形相で僕の体を触りまくる。

やめろ!さわるな!と叫ぼうとしたら・・


「あった!」


女が僕の背中からなにかをつまみだして叫んだ。

それを素早く床に投げ捨て、そばにあった懐中電灯の底でたたき壊した。



「なんで・・・」

顔面蒼白の表情で女は呻いた。


「最新型の発信機だ。僕のセンサーでは探知できたが、

 君のでは引っかからなかったらしい」


そして青年は僕の方を向いて尋ねた。


「今日一日で背中に触られたことはなかったかい?特にコレット邸で」


背中?そんなとこめったに触られるところじゃないだろう、と思った瞬間。



あった。


コレット邸で・・


今もその感触が残っている・・


僕の背中をさすった・・


「リディ」


僕はつぶやいた。


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