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予測可能少年  作者: ぶれます
31/34

31、気を隠すなら人の中 (4/27 3:13 a.m.)

一瞬の出来事だった。

八重さんが玄関の戸を開けた瞬間、何かがまるでつむじ風のようなスピードで

僕に向かってダッシュしてきた。

それが僕の前で一瞬だけ立ち止まって僕の顔を観察する。

相手は想像していたのと違って、僕よりも若干背丈が高いくらいの小柄な男だ。

男は一瞬立ち止まった後、ぼそっとつぶやいた。


「よろしく」


圧倒されながらも挨拶を返そうとしたその時。


パンッ!


目の前で男の両の掌がぶつかって大きな音が発せられた。

びっくりして思わず目をつぶる。

ねこだましってやつだ。

すぐに目を開くが、前には・・・男の姿はもうなかった。

一体どこに?


ガタッ


後ろの方で音がした。


目を閉じた一瞬で僕の脇を通り過ぎて奥の部屋に行ったんだ。

八重さんはこちらをじっと見ている。

相手の特技がわかると言っていた意味を理解した。

ようは追いかけっこを仕掛けられているんだな。

でもこの家はそんなに広くはない。

風呂とトイレを除くと部屋は3つしかない。

そんな逃げる所も隠れる所も少ない場所で捕まえられないはずがない。


僕は素早く奥の部屋に向かう。

いない。

別の部屋に向かう。

いない。

最後の部屋に向かう。

いない。


隠れるの早いな。

この家の構造は知らないはずなのに。

もしかしてそれが相手の特技なのかな?

でも隠れられるような場所は僅かだ。

押し入れ、布団の中、タンス、お風呂の浴槽とかもあるか。

そこを順番に念入りに調べればいい。

それと相手が隠れる場所は一つとは限らない。

場所を移動する可能性もある。

だからやみくもに調べないで順番に追い込むように探すんだ。


僕はまず玄関に一番近いお風呂の浴槽から調べた。

いないな。

続いてトイレ。

いない。

部屋に戻って玄関に近いほうの部屋から順番に、隠れることができそうな場所を探す。

いない。いない。いない。


さすがに参った。

相手はサバゲーの達人じゃなくって、かくれんぼの達人なんじゃないか?

よし、こうなったら。


「八重さん。能力つかっていい?」


「ちょっとだけならいいぞ」



カツラを取り出してさっとかぶる。

髪が青白く光る。

周りの状況が手に取るようにわかる。

その情報の中からこの家にある鼓動の音を探知した。


僕と、八重さんのは聞こえる。

でももう一つあるべき鼓動は聞こえない。

そんなはずは・・・


続いて壁をドンと叩いて音を出し、ソナー能力を使う。

家の中にある構造物はその位置や形状まで全部掴めた。

その中に入っている物の形状も大体判別できた。

しかしそこに人間の形らしきものはない。


しばらく粘って同じことを繰り返す。

見落としている場所はないだろうか?

でも、無駄だった。見つけられない。

僕は能力を解除して困惑する。


「いないよ。この家の中にはいない。

 一体どうなってるんだ」


「降参するか?」


八重さんが憎ったらしい笑みを浮かべて降参を勧めた。

僕はしぶしぶ頷く。


「お~い降参したぞ。

 もう出てきてくれ!」



すると、玄関を開けてさっきの男が入ってきた。


「諦めるのが遅いでありますよ。外で待ちくたびれたであります。

 どうやら真田殿という方も中尉に劣らず、負けず嫌いな性分のようでありますな」


ため息をつきながら制服型の軍服を着た男がつかつかと僕に近寄って来る。


「はじめまして、であります。真田殿。

 大体のことは中尉から聞いて知っているであります。

 なるほど。たしかに近くで見ると大変お可愛いお顔をしていらっしゃる」


可愛いと言われて思わず顔が赤くなる。

すかさず八重さんが横から口をはさんだ。


「おいおいみっくんを口説くのはやめてくれよ。

 さっきも言ったがこう見えてみっくんは男なんだ」


「だいじょうぶであります!

 自分はこんなしょんべん臭いガキ娘には興味ないであります」


性別よりも先に容姿で否定されたのにカチンときた。

男に恋愛対象として見られるのも非常に困るが

まったく興味を持ってもらえないのもなんか腹立つ。

心の奥底では少女姿の僕は世界中のあらゆる男を魅了できる、

そういう自信が芽生えていたからだ。


「自分はもっと屈強な大人の女性が好きなのであります。

 例えば中尉のような。

 中尉が人妻でなければ突撃して・・・玉砕してたであります」


玉砕するんだ。

というか、さっきから中尉って呼んでるのは八重さんのことだったのか。

八重さんはサバゲー仲間の間では中尉って呼ばれているのか。

それとも八重さんが呼ばせているのか?


「ああ、わかったわかった。そんな話は後でしろ。

 今、無駄話をしている暇はない」


八重さんが話を遮る。


「あと10分でここから出発する。

 その前に簡単に紹介しておこう。

 みっくんのことは佐竹には紹介したから、みっくんに佐竹を紹介すればいいな」


八重さんが佐竹と呼ばれた男の肩をポンと叩いて話を続ける。


「こいつの名前は佐竹防人といって、年は確か22だったかな?

 民間人だが軍事関連の知識をかなり持っている。

 どこから仕入れたのかは知らんが銃の扱いの知識もある。

 要は知識だけなら軍に所属している兵士となんら変わらない」


「中尉からも色々勉強させていただいたであります」


「そういうわけで私にとってはオフの間限定の弟子のようなものだ。

 それに加えて、戦場では役に立つ特技を持っている。

 さっきみっくんを騙したトリックのネタばらしをすると

 実は佐竹は最初、ずっとみっくんの背後にいたんだ。

 みっくんが物音につられて部屋を移動したときに

 悠々と玄関から出て行ったというわけだ」


「そんな・・・全然気付かなかった」


その時点では探知能力を使ってなかったとはいえ

僕のすぐ後ろにいたのに気付かなかったなんて。


「気配を消して他人から隠れる。

 それがこいつの特技だ。

 だが超能力の類ではなく、どちらかと言うと

 こいつの境遇や性格から編み出された技といったところだ。

 幼少の頃、こいつには色々事情があって注目される存在だった。

 その時に自分が他人からどう見られているかを察知する感覚が鋭敏になったんだ」


僕の境遇に似ているな、とちょっと親近感を覚えた。


「そのうちに他人の注目が苦痛になって、今度はそこから隠れる技を編み出した。

 それが気配を消す技だ。

 自分が相手からどう見られているのかがわかれば

 そこから隠れることで気配を消すことができる。

 実はその技術自体は兵士にとっても重要だ。

 特にゲリラ戦では生死にかかわる技術だからそのための訓練もある。

 だがこいつは自らその技術を作り上げて使いこなすことが出来ている。

 まあ残念なのは日常でそんな技術を使う機会がないということだがな」


「そんなことないでありますよ。

 先の不況の際に自分が勤めている会社では大リストラが敢行されたのでありますが

 真っ先に切られるべき自分は気配を消すことにより、見事乗り切ったであります。

 ちゃんと役に立っているでありますよ」


僕と八重さんは失笑する。


「と、まあこんな感じだ。

 荷が重い気もするが、今回の作戦ではみっくんと佐竹がペアになって行動してくれ。

 お互いを守り合いながら作戦を実行するんだ。

 頼むぞ」


僕が返事をしようとすると、佐竹さんが先に宣言する。


「了解であります!

 真田殿は自分が命に代えてでも守るであります」


なんか僕の方が下に見られているような気がして釈然としない。

僕が憮然としてると佐竹さんがこっちに向き直って手を突き出した。


「よろしくであります。真田殿。

 大船に乗ったつもりで自分に頼っていればきっと作戦は成功するでありますよ」


後で能力を見せつけて絶対に見返してやる。

固い笑顔で佐竹の野郎と握手しながら、僕はそう誓った。


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