3、銀髪三人寄れば麗しい (4/22 10:55 a.m.)
埼玉にある自宅から南下し、車は東京方面に向かっていた。
車内にいるのは運転している森さんと僕だけだ。
僕は高速道路を走る車のなかで外の景色をぼんやりと眺めながら、
研究所の占拠事件についてずっと考えていた。
出てくる妄想はなぜかオカルトチックなものばかりだ。
Q。研究所を襲った犯人は何者だろう?
A1。『じいちゃんは宇宙人の侵略に備えて研究をし、
それを邪魔に思った宇宙人に襲われた』
A2。『超能力の研究をしていて、それを邪道と考える宗教組織に襲われた』
A3。『ひそかにタイムマシンの研究をしていて、
競合する組織にそれがばれて襲われた』
碌な妄想じゃない・・
不意に森さんが口を開いた。
「ところで光弘君。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
森さんはなれなれしい口調に戻って尋ねた。
「なんですか?」
「君のおじいさんからなにかプレゼントのようなものを受け取ってない?
ほら、クリスマスの時とか、誕生日とか、お土産とか。そんなの」
ちょっと考えてから・・答えた。
「去年の夏にじいちゃんの家に泊まりに行った時、
ばあちゃんからイクラとかサンマとかもらった。それ以外は特に・・」
森さんはちょっと思案している様子だ。
「それでそのイクラとかはどうしたの?」
「食った」
それ以外の使い道があるのか?と思いながら答えた。
「そりゃそうよね」
そりゃそうだって口調で森さんが返す。
「他にはほんとにない?」
「子供の頃だったらおもちゃとか買ってもらったけど、ここ5年はそのくらい」
「5年前か・・それはないわね」
なにがないのかはよく分からなかったが森さんはそうつぶやいて
その会話は終わった。
車は1時間あまり走った後、私有地と思われる敷地に入って行った。
敷地の中を走って間もなく、家の玄関先の駐車場に止まり、僕らは車を降りた。
かなり大きな家・・いや屋敷と言った方がいいかもしれない。
そのくらい立派な庭付きの邸宅だ。
日本庭園、庭にある池、敷地を囲むいかつい塀、寺か?と思うような古めかしくてデカイ家屋。
もしかしてあちら関係の方のお宅ですか?といった様子の屋敷だ。
森さんは呼び鈴を鳴らして家の中の人と話をしている。
しばらくして玄関のドア・・というよりも門が音を立てて開き、
いかにも用心棒ですといった風体の男が二人出てきた。
つぎに出てくるのはきっとはかま姿の大親分みたいな人だな、と予想していた僕は
後ろから現れた三人の風貌に驚いた。
一人は銀髪で初老くらいの外国人の男、もう一人は同じく銀髪の秀麗な青年、
最後の一人はこれまた銀髪で幼気な少女だった。
「ようこそ光弘サン。おまちしてました」
初老の男は微妙に外国なまりが残った、しかし丁寧な日本語であいさつした。
「私はフェリックス・コレットといいます。あと息子のピエール、姪のリディです」
ピエールと呼ばれた青年はぺこりと頭を下げ、リディと呼ばれた少女は
バレリーナがやるような、ドレスを片手で持ち上げて片足を下げ、
頭を深く垂れるポーズをとった。
からかっているのかな?と思ったが顔は無表情だ。
あっけにとられていた僕はあわてて我に返り、挨拶をする。
「どうも。真田光弘です」
「光弘サン。あなたのことは信繁サンからよく聞いています」
ノブシゲ・・て誰だっけ?と一瞬考えてから、
ああそうだ、じいちゃんの名前だってことに気づく。
ずっとじいちゃんという呼称で頭にインプットされると、
それ以外の呼び方はピンとこない。
「さあさあ皆さん、中に上がって!森サンも御苦労さまでした」
フェリックスさんは皆を中に入れようと促す。
せかされるままに僕は屋敷の中に入って行った。