2、探究心は猫を殺す(4/22 10:31 a.m.)
《ぴんぽーん》
家の中にチャイムが鳴り響く。
じいちゃんとの会話を思い出していた僕は急に現実に引き戻される。
こんな朝に訪問者なんて、荷物の配達かなにかの勧誘か。
とりあえず確認のためにテレビ付きのインターフォンに出てみる。
「どちらさまですか?」
画面に出ているのはメガネをかけた真面目そうな女の人だ。
どうも配達ではなく勧誘の方みたいだ。憂鬱になる。
「真田光弘くんはいらっしゃいますか?」
質問を質問で返す。
本来ならムッとくるところだが、不意に自分の名前を出されて僕はギョとした。
「僕がそうですけど」
「光弘くんに伝えたいことがあるんだけど。
ちょっとお話できないかな?」
妙になれなれしい。
「何の話ですか」
「君のおじいさんに関係することなの」
うかつだった。もうひとつ可能性が残されていた。
訪問者が報道関係者だという可能性だ。
ニュースの扱いは時間がたつごとに大きくなっている。
じいちゃんのことが話題に挙がり、
その関係者にインタビューをしようとする人がいてもおかしくない。
この人ももしかしたらそうじゃないだろうか?
「君のおじいさんにお願いされて伝えたいことがあるの」
なにも答えようとしない僕に対して、訪問者はたたみかけるように言った。
報道関係者なら僕から情報をつかもうとするはず。
でもこの人は僕に情報を伝えたいと言う。
じゃあ違うのか?
「とりあえず外に出てきてくれないかな?
確認したいことがあるの」
その時の僕はじいちゃんに関する情報はなんでも知りたかった。
『今どんな状況なのか?』
『なぜじいちゃんの研究所が狙われたのか?』
『じいちゃんはなんの研究をしていたのか?』
その探求心に負けて、僕は外に出ることにした。
「伝えたいことって?」
玄関を出て女の人に尋ねる。
「はじめまして。わたくし、あなたの祖父の真田教授の助手をしています森と申します」
さっきの口調とは打って変わって今度はかしこまった様子で名刺を渡される。
名刺にはじいちゃんの研究所と森里美という名前が書かれてあった。
「どうも」
「単刀直入に言います。光弘君、いまからあなたをある場所にお連れいたします」
僕の警戒心メーターがリミットを振り切って爆発する。
見ると家の前に車が止まっている。それに乗せて僕をどこかに運ぼうとしているのだ。
信用できない。
「親が帰ってくるまで待ってくれませんか?」
なんとか逃げ道を探す。
「時間がないのです。私が信用できないのであれば、
いまここでご両親と話してもらえないかしら」
そう言って森さんは懐から携帯電話を取り出し、番号を入力する。
「もしもし。先日お会いした森です。
この前お話しした通り光弘君をお連れしたいと思い、
今光弘君と会っているのですが、お母様の方から説明して欲しく思いまして。
ええ、ええ、はい・・」
どうやら電話の相手は母さんのようだ。
二言三言しゃべった後、森さんはこちらに顔を向ける。
「お母様がお話したいと」
そう言って携帯電話を渡される。
「どういうことなの?母さん」
電話の向こうでは確かに母さんの声がする。
「ごめんなさい。光弘には事情があって話せなかったの。
その人はおじいちゃんの助手さんで信用できる人だから、
その人に連れて行ってもらって話を聞いてちょうだい。
とても大事な話だから真剣に聞きなさいよ」
「じいちゃんは無事なの?」
「母さんのところにも情報がこないの。
でも研究所で亡くなった方はいないらしいから、今のところ無事みたい」
「わかった。母さんも気をつけてね」
電話を切って森さんに渡す。
「行きます。連れて行ってください」
森さんは僕を車の後部座席に案内し、ドアを閉めた。