12、貧乏金なし (4/23 6:10 a.m.)
朝になった。
八重さんが起きだす音がしたが、一睡もしていないことを気づかれたくない僕は
しばらくは寝ているふりをすることにした。
八重さんは怪我をしている義高さんの無事を確認して谷底の小川の方へ向かった。
その間に僕はさも今目が覚めましたとばかりにあくびをして体を起こした。
義高さんがそれに気付き、挨拶する。
「おはよう。光弘君。」
「おはようございます。怪我、大丈夫ですか?」
「ああ。これくらいならしばらくは何とかなる。
八重が救援を頼んだらしいからじっとしてたら助けが来るよ」
昨日の夜、八重さんがノートパソコンでなにやら作業していたのは
救援を呼ぶ手筈をしていたんだな。
八重さんの仲間が来ればもう心配いらないだろう。
なんだ。昨夜は組織力に期待するなとか言っといて、
なかなか頼りになる仲間がいるんじゃないか。
「おっ!起きてたか」
八重さんが川から水を汲んで戻ってきた。
「それじゃ飯にしようか」
朝食は八重さんのバッグに入っていた携帯食だった。
いわゆるミリメシという奴だ。
缶詰と乾パンと水とデザートにプリンと、朝食にしてはなかなかの食べ応えがある。
「今日はたっぷり動くからな。しっかり食べとけよ」
八重さんはそう言うが、後は救援を待って移動するだけなんだから
そんなに動くこともないんじゃないかと乾パンをほおばりながら僕は思った。
「それじゃあ腹も満腹になったし、そろそろ移動するか!」
あれ?もう救援が来たのかな?
「救援がもう来たんですか?」
「ああ。車は準備できたらしい」
早いな。ますます頼りになる仲間じゃないか。
八重さんはノートパソコン等を積んだバッグを背負って歩き出した。
でも、あれ・・?
「八重さん?道路は逆方向ですよ?」
「ああ。車はあっちの方に止めてあるんだ」
そう言って八重さんは山しか見えない方角を指差すが・・
僕の目には道路があるようにはとても見えない。
「ここからどのくらいの距離なんですか?」
「ああ。ざっと20キロってとこだ」
「にじゅ・・!?」
僕は絶句する。
「だってこっちは200メートル先に道路があるんですよ!?
なのになんで20キロ先の道路を目指さないといけないんですか?」
八重さんは理由を語った。
「実は昨日の晩、私らが乗り捨てた車に敵がやって来た。
さすがに山探しまではしていないようだが、
どこかで監視している可能性は十分にある。
こっちの道路を使うことはできない」
そうか。八重さんは昨夜、パソコンでそれを見張っていたんだ。
「でも仲間が来てくれたら敵もうかつに手出しできないんじゃ?」
「昨日言っただろ。私らの仲間はそんなに期待できないって」
ああ。確かに言ってた。ホントに期待できないんですね・・・
「でも義高さんは足に怪我をしているんですよ?
とても歩いて行ける距離じゃないんじゃ・・・」
「そうだな。確かに義高が一緒は無理だから
義高にはここで救援を待ってもらう。
私らの無事が確認されれば助けが来る手筈になっている」
「ああ。そこは仲間が来るんですね」
「いや。救急車を呼んでもらう」
救急車て。
あんたらの仲間はなんですか?サークル活動のメンバーとかですか?
「私らの他の仲間は皆民間人でな。敵が襲ってきたらお手上げだ。
武器もないし。私みたいな傭兵を雇うだけの金もない。
危険を冒して来るくらいだったら救急車を呼んだ方がいい。
なによりタダだし、怪我を直してくれるし、ちょうどいい」
とても昨日の晩にリンカーンを乗り回して狙撃銃をぶっ放していた組織とは思えない。
「そういうことだよ光弘君。
今は僕のことは気にせず、自分が安全にここから抜け出すことを考えるんだ。
僕らの組織はこんなだけど、君さえ無事ならまだ挽回は可能なんだ」
僕にというより自分自身に言い聞かせるように義高さんが言った。
「それじゃあレッツラゴー!」
八重さんの元気な掛け声を合図に僕はトボトボと歩きだした。