10、脱兎の如く (4/22 9:54 p.m.)
ホテルにいるときは気がつかなかったが、ここは山間にある小さな町のようだ。
逃げ道は少なそうだ。
「追手が来ます。車が2台」
運転している八重さんがバックミラーでちらりと確認する。
「そう簡単には逃がしてくれないか。
しゃあねぇな。撒いてみるか」
車の性能と運転テクニックを駆使し、相手を引き離そうとする。
八重さんの操縦技術はかなりのものだ。
しかし、さきほどの銃撃によりこちらのタイヤは空気が漏れていて
なかなかスピードが上がらない。
「やべえな。追いつかれるかも。タイヤももたない」
道路が直線になると、ときどき後ろの方でパンパンという銃声が聞こえる。
今の距離では当たらないが、接近されると・・
次第に焦りの色が濃くなる。
「よぉ。ミッ君。君の予測でどの道を行けば助かるかわからないか?」
ミッ君という呼ばれ方に違和感を感じつつ、
僕はそれぞれの道に行った時のことを予測しようとした。
でもすぐに無駄だと気付く。
「無理です。
さっきはホテルの中と周囲だけを予測すればよかった。
でも今は相手も僕たちも高速で移動している。
正確な予測が全然できない。
それにここは僕は知らない場所だ。
情報がないと予測すること自体ができないんです」
こういう時に役に立たないもどかしさに苛立ちながら答えた。
「OK!君はここまで十分に働いてくれた。
後は私たちに任せておきな!
あんたぁ!」
そう言って義高さんに呼び掛ける。
「準備はできてるよ」
義高さんは後部座席で狙撃銃を組み立てていたようだ。
準備を終えて後方の車の様子を確認している。
「じゃあさっさとやっておしまい!」
バックドアの窓を薄めに開けて相手に狙いを定める。
《パスッ》と小さく射撃音がした。が、相手の車の様子に変化はない。
一発目は外れのようだ。
「外すんじゃないよ!」
「わりぃ。移動しながら撃ったことないんでな」
小声で言い訳しながら次の弾を装填する。
そして二発目。
《パスッ》
「一台仕留めた」
義高さんがそう言った直後に先頭の車の挙動がおかしくなる。
どうやらタイヤがパンクしたらしい。
「あと一台。たのむよ!」
「その必要はないよ」
僕はホッと溜息をついてつぶやく。
後方ではコントロールを失った先頭車が右往左往した挙句、
道路に横向きに止まった。
後方の車は道路をふさがれる形になり、結局二台とも動けなくなってしまった。
僕らは逃げ切ったのだ。
車内で張り詰めていた緊張感が一気に和らぐ。
八重さんが手始めとなって『はっは』と笑い出した。
義高さんも続いて『はっは』と笑い出す。
僕はその光景を少し異様に思ったが、『クスクス』と笑いに付き合った。
が、次の瞬間・・とんでもない予測結果が見えてしまい笑いが引きつる。
「やばい・・」
「どうした?もう追っ手はこないだろ?」
「うん・・でも・・
あと5分位走ったらこの車のタイヤ・・バーストする・・・」
「なん・・だと?」
「ここ山ん中だぞ~~~~!」
ここは僕の知らない山の中だった。