真実と建前
冠城ミコト。名前を聞いても思い出せない。僕が研究所にいた時、こんなおじさんは見かけなかったはず。
主任、ってことは偉い人なんだろう。なんで、討魔士として前線にいるんだろう。
いや大事なのはそこじゃない。おじさんの目的を知らなくちゃ。
「おじさんは本当に、僕の味方なの?その、連れ戻しにきたんじゃ……?」
「味方のつもりさ。今のところはね。あ、話の途中だったか。どうぞ続けて」
言いはぐらかすおじさんに代わって、リーダーが僕に詰め寄ってくる。
そして、尋問するように事実確認をしてきた。
「セレスタ、こちらが把握している事実に間違いがないか、改めて確認させて。あなたは昨晩、丙型人魔を撃退するためにレイヴンを外した。戦闘終了後、レイヴンを再装着する際、不慮の事故で討魔士の夜久コウヤを傷付けてしまった。コウヤはこのことを受け入れている。そうよね?」
「う、うん……それで間違ってないです」
まるで、最初から台本があるような言い方だった。
本当は事故なんかじゃない。あれは、僕が一時的に自分を抑えきれなくなった結果だ。
でも、リーダーは真実を求めているわけでなく、事実を確定させたいらしい。
依形も付けていない一般人なのに、すごく圧を感じる。
「……よし、これで」
リーダーが安堵のため息をついているけど、今更ながら僕は背筋に寒気が走った。
もしかしてあの時の行動は、討魔局に全部知られていたんじゃないか。一部、話していないことがあるけど、後から問題にならないよね。
アカネとハルカに視線を向けると、二人とも怪訝そうな顔をしている。普通の討魔士は依形を外したら、そもそも戦えないもんね。
リーダーと、このおじさんだけが事情を知っているみたいだった。
僕たちのやり取りに納得できないアカネが、軽く抗議する。
「どういうことだよリーダー。コウヤから聞いた報告と、今の話全然違うんだけど」
「激しい戦いだったから仕方ないわ。夜久は稼働限界を超えていたし。悪いけど、そういうことにして」
リーダーは普段見せない、上司としての厳しい態度でアカネに接していた。
さすがのアカネも、たじろいでいる。
ハルカも何か言いたげにしていたが、先輩が撃沈する姿を見て諦めたみたいだった。
僕たちの話が落ち着いたと思ったのか、おじさんが再び横から割り込んでくる。それは、研究者らしくない質問内容だった。
「さて、おじさんは回りくどいの嫌いだから単刀直入で言うよ。君は、自分のことを人間だと思っているかい?それとも、怪物かな。難しいことは考えず、感情だけで答えてほしい。人魔の力とか、今は気にしなくていい」
「僕は……」
感情だけで答えてなんて、急に言われても無理だ。僕は実際、コウヤを傷付けてしまったから。
戦いの後始末で忙しくて、こうして問われるまで意識しないようにしていたけど、改めて思い出すと気が重い。
どんな答えを言えばいいのか分からず、言葉に詰まる。
もうここにいるみんなには、知られてしまっている。僕が、依形がなくても人魔と戦える、特殊な存在だってことを。
正解が分からない。どうすればみんなに納得してもらえるんだ。
僕は人間だからこれからも安心して一緒に戦ってほしい、なんて口が裂けても言えない。
動悸が激しくなる。呼吸が、上手くできない。
苦しい。ここから逃げ出したい。
「詳しい事情は分かりませんが……私は彼のことを仲間だと思っています。まだ1年半ちょっとの付き合いですが、どんな人間かはそれなりに理解しているつもりです。オフィスではちょっとアレですが、現場ではちゃんと働いてくれますし」
「そうそう。こいつが仮に人魔に近い存在だとしても、今まで上手くやってきた。来年は二十歳だから、やっと一緒に酒が飲めるし!万が一どうにかなったら、ハルカの時みたいに止めればいいじゃん」
そんな僕の不安を吹き飛ばしたのは、ハルカとアカネの言葉だった。
「そうね。二人の言う通りよ。あなたは、この第五対策班の大事な一員なの。だから、これからも甘い報告書は容赦なく突き返すわね」
リーダーまでもが、そう言って僕が僕であることを認めてくれた。
僕の味方は、ずっとコウヤだけだと思っていた。
でも、それは僕の思い違いだった。




