乙型人魔
今日の対策班オフィスは、朝から暖房がついていた。
日本列島の南に位置するこの地にも、本格的な冬が近づいているみたいだ。
そんな季節の変わり目を肌で感じていたところ、見覚えのない顔があった。
リーダーに聞くと、ハルカが戻ってくるまで、別班から一時的に来た新人討魔士らしい。
彼は緊張した様子で、僕たちに大げさなお辞儀をしてきた。かすり傷一つない依形が、蛍光灯を反射して少し眩しかった。
去年の僕たちを見ているような、少しむずがゆい気持ちになりながらも簡単に挨拶をして、あとは教育係のアカネに任せる。
今の彼と同じように、討魔士1年目だった僕とコウヤ、ハルカの三人をちゃんと教育した実績があるのだから、きっと大丈夫。
相変わらず討魔士の制服はヨレヨレで、少し酒臭い気がしなくもないが、恐らく大丈夫、だと思う。
「短い間だけどよろしくな新人くん。ところで、お前はこれ行ける感じ?奢ってやるから、今日の帰り行こうぜ?な?」
「宵宮先輩、そういうのやめてください。今の元号、何か分かってますか?」
酒をあおるジェスチャーを挟みながら、新人を萎縮させるアカネを、コウヤが険しい顔で戒める。
あれは初対面なら誰にでもやる、アカネなりのコミュニケーションだ。彼女は5割ぐらい、昭和のおじさんだ。
「では、今日も巡回任務に行ってきます」
「うん、普段以上に気を付けて。最近、おかしいことが立て続けに起きているから」
「大丈夫。何かあっても、僕がいればコウヤを危険な目には遭わせないから」
僕らはいつも通りの準備を済ませて、リーダーに一言声をかけてからオフィスを後にした。
暖かい室内から急に外に出たせいで、歩く動作が少し覚束ない。
濃紺を基調とした討魔士の制服は、二の腕部分に依形装着用のスペースが設けられているせいで、普通のコートよりも寒さに弱い。
夏服なら問題ない構造も、この時期になると困りものだ。
こういう時、レイヴンの羽毛があればすごく助かるけど、勝手に発動したら絶対にコウヤが怒る。
僕も依形を勝手に使って始末書なんて書きたくなかったので、寒いのを我慢しながらいつもの巡回ルートを歩く。アーケード街の路地裏は、今日も空気が重く感じた。
「えぇ……嘘でしょ。これで先週から数えて、3回連続じゃん。ここって本当は日本の首都だったり?」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと依形を発動しろ」
今回も、また巡回中に計測器が異常を検出、澱み緊急警報の流れが始まった。
僕たちはすっかり手慣れた動作で、それぞれ依形を発動させる。
さて、今回の相手はどんな異形の怪物だろうか。
「おい、こいつは……」
「これって、乙型人魔、だよね。えっと……殺していいんだっけ?」
カフェテラスのテーブルの下で、鳴り響く警報に頭を抱えて怯える存在がいる。
それは、小動物のような頭を除けば、人間とほとんど変わらない姿をした人魔だった。
僕たちは、困惑した表情でお互いに顔を見合わせた。




