第四十話「次の段階へ」
訓練は再び始まった。
ソラは木剣を握り直し、ザミと向かい合う。先ほどまでの激しい攻防で身体は重く、腕にも疲労が残っていた。それでも、ザミの言葉を思い返しながら構えを整える。
「お前の戦い方について、一つ言っておく」
ザミは淡々と口を開いた。
「お前は攻撃を避けることだけを考えているわけじゃない。相手の動きを見て、その先を考えている。自分が傷を受ける可能性まで含めて、次に起こることを予測する。そして、その中から最善の動きを選んでいる」
ソラは黙って聞いていた。
「確かに有効な戦い方だ。だが、それは自分の身体を消耗品として扱う戦い方でもある。続ければ、いずれ取り返しのつかない傷を負う」
「……」
「お前は、戦い方を学ぶより先にスキルを知ってしまった。順番が逆だ」
ザミは木剣を構える。
「だから、スキルを使わない戦い方を学べ。一人で戦えるようになってから、スキルを組み込め」
「スキルを……使わずに?」
「ああ。そこから先はお前の仕事だ。どう使うかは自分で考えろ。だが、戦い方を教えるのは俺がやってやる」
ザミの視線が、ソラの身体を上から下まで捉える。
「お前は体格に恵まれている。腕も長い。身体も大きい。その身体なら、一撃一撃を自分の力でしっかりと威力に変えられる」
ザミは一歩踏み込んだ。
「なら、速度を活かす必要はない。細かな攻撃を何度も重ねる必要もない。相手を翻弄するような、トリッキーな戦い方も必要ない」
木剣を下げ、ソラを見る。
「もっと単純でいい」
「踏み込む。振るう。叩き込む」
その言葉が、ソラの中に落ちていく。
今まで自分は、相手の攻撃をどう避けるかばかりを考えていた。自分から攻めることよりも、生き残ることを優先していたのだ。
だが、自分にはそれだけの身体がある。
ならば、それを使えばいい。
「それがお前の剣だ」
「……分かった」
「なら、振れ」
ソラは木剣を握り直した。
次の瞬間、二人の間に再び木剣の音が響き始めた。
* * *
同じ頃。
王国騎士団、団長室。
ニアンは椅子に座りながら、机の上に置かれた書類へ目を向けていた。その横ではロマリーが書類を整理し、セーラはソファに腰掛けている。
ふと、ニアンが顔を上げた。
「ザミ、ちゃんと優しくしてるかねぇ」
ロマリーの手が止まる。
「……あいつが優しくしているところなど、そう簡単には想像できないな」
「ん〜、まあザミだからなぁ」
「ふふ。大丈夫じゃないかしら」
セーラが穏やかに笑う。
「ああ見えて、優しいところもあるじゃない?」
「そうだろうか」
「ええ。厳しい人ではあるけれど、必要以上に人を傷つけるような人ではないもの」
「そうだな。」
ロマリーはそう言って、再び書類へ視線を落とした。
ニアンもしばらく黙っていたが、机の上の書類を一枚手に取る。
「それより、ソラのことだ」
「ソラ?」
セーラが首を傾げる。
「そろそろ次の段階へ進ませるべきだろう」
ニアンは書類へ目を落としたまま言った。
「実戦だ」
その言葉に、セーラの表情が少しだけ変わる。
「確かに。訓練だけでは分からないことも多いものね」
「ああ。実際の戦場では、相手の動きも状況も決まっていない。ソラには、そういう経験が必要だ」
「ですが、いきなり危険な任務へ出すわけにはいかないだろう」
ロマリーが口を挟む。
「もちろん。だから、簡単な任務からでいい」
ニアンは別の書類を取り出した。
「街道沿いで魔物が数体目撃されている。被害は出ていないし、規模も小さい。新人が経験を積むにはちょうどいいだろう」
「なるほど」
セーラが頷く。
「それなら、ソラ一人ではなく誰かと組ませたほうがいいわね」
「そうだなぁ」
ニアンは少し考え、二人の名前を口にした。
「ソラとエキナだ」
ロマリーが顔を上げる。
「二人とも、第一部隊に入ったばかりだからな」
「実戦を経験させるにはちょうどいい」
ニアンは書類を机へ戻す。
「ソラとエキナには、初めての任務に行ってもらおうか」




