第二話「START」
(で....決意を固めたのはいいが....どうするか....)
痛みに耐えなんとか立ち上がる。
腕の切り傷の出血は少しずつ止まってきている。
生き物は木々の間を歩き回り彼の姿を探している。
(さっき見えたモノ、仮に未来予知だとして....それが次の突進なのか、次の次の突進なのかはわからない......また...見えるのか..?)
震える手で剣を抜く。
考えを巡らせても答えは出ない。
(考えたってしょうがない、動かないと....)
彼は一歩踏み出す。
パキン
「あ、」
その一歩目で枝を踏み、音が鳴る。
静かな森に響く音。
当然、奴の耳にも届く。
「ま、ずい」
地面を三度蹴る。四度目の音が聞こえる時には、
すでに突進が始まっている。
「くそっ!」
逃げようと駆け出す。
足場の悪い森の中、駆け出すにも速度は出ない。
「グッッ」
そして右半身の痛みがより一層大きくなり、
木の根に躓き転倒。
地面を這いずり、奴の方を向き直す。
すでに3メートルの範囲内に迫る。
「なんてな!狙ってんだよ!!」
迫る獣の方向に刃を向ける。
突進を急に止めることはできず、
勢いそのままに剣に突き刺さる。
嗎のような叫びのような鳴き声を上げ、
ガクッと体が揺れる。
「ふぅ....いってぇけど...やった...のか...?」
安堵の声を漏らす。
不思議とその生物からは血液が流れてこない。
そのことを軽く疑問に思う中、突如。
獣がまた動き始める。
「なんだっ?!ほぼ貫通してるだろ!」
眉間の辺りに深く深く剣は突き刺さっている。
それでも最後の意地なのか、足を動かし進み出す。
青年の体を地面に擦り付けながら速度を上げる。
「ざけんなッ!とまれよ!」
腹部を蹴り付けるも意に介さない。
勢いよく青年を木に叩きつける。
「ガッッ」
頭を木にぶつけ、青年は意識を失う。
それと同時に最後の力を振り絞り切ったのか。
ぶつかった衝撃で剣がさらに奥へと突き刺さったのか。
獣も動きを止め、絶命した。
森は何事もなかったかのように静寂に包まれている。
抉れた土も、折れた枝も、倒れた木々も、
最初からそうであったかのように....
青年は眠りの中、また脳裏に見えたものがある。
"森の中を歩く、暗い森の中を闇雲に進む。
しばらく歩くと開けた場所に出た。
広い畑に囲まれた家々。
日の出と重なるその街を見つけ...."
空が赤く染まる頃、青年は目を覚ます。
「ん、んん...」
血は止まり痛みもだいぶ引いている。
動こうと思えば動ける。
手に持っていた剣は力が抜け手から滑り落ちている。
「もう、夕方...どれだけ気絶してたんだ....ってうわっ」
空を見て、足元を見る。
貫いたあの獣の死体があるわけではなく、
その体は粒状になって崩壊を始めていた。
時間が経っているからかすでに体の半分は消えている。
「消えてく....やっぱり普通の生き物じゃないのか...」
(記憶にある動物じゃない...)
残ってる体を足からどかして立ち上がり、
服についた土などを払う。
「って記憶ないから記憶にあるとかおかしいか....考えても仕方ない。」
剣を鞘に納め、自分の傷を確認する。
少しずつ沈みゆく太陽は彼の影を地面に落とす。
意識がない時に見た夢のような情景を思い出す。
3回目ともなれば、偶然ではないと理解する。
(街がある...つまり人がいる....ってことだよな?)
太陽の方を向き、方向を確認する。
木々に遮られても太陽は輝き道を照らす。
「おそらく日の出だった。つまり、太陽を背に歩いていけば辿り着ける....はず」
太陽を背に向き直る。木々が生い茂変わらず不気味。
「.....行くか」
彼は歩き出した。
「んー!!武器点検も雑務も終わりー!」
エキナは椅子に座ったまま伸びをして、
勢いよく椅子から飛び上がる。
「鍛錬するぞー!!!!」
剣を手に取り階段を勢いよく駆け降りる。
お昼を過ぎた街は人々が行き交い、楽しげな雰囲気。
「ふんふふーん。あ、おばちゃんこんちわー!」
「おや、エキナちゃんこんにちわ〜...今日も元気だねぇ...」
「もっちろーん!じゃまたねー!」
知人と挨拶を交わしつつ、鍛錬場へと向かう。
その途中で、呼び止められる。
「エキナぁ!エキナー!」
畑仕事そのままに走ってきたかのような格好、
土の汚れが目立つ服に息も絶え絶え、
そんな中年男性がエキナの前に来る。
「ど、どうしたの?!おじさん!」
「はぁ...はぁ...はぁ....はぁ......あのーな、西側の畑のそばの、森の入り口のあたりに、はぁ...わけぇやつが...人が倒れてんだ!」
息を整えながら喋る。
「どこ、案内して」
先ほどまでのおちゃらけた雰囲気ではなく、
1トーン低い、真面目な声でそう聞き返すエキナ
「お、おう!まかせろ!こっちだ!」
エキナに案内するために再度駆け出す。
その後ろを正確についていくエキナ。
(なんか...胸騒ぎがする....)
街のはずれ。
畑の向こう、森の影。
そこに、うつ伏せで倒れている青年。
血で固まった衣服。
握られたままの剣。
エキナは足を止める。
「――生きてる?」




