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【第二部完結】剣の王女の反英雄譚 ~王女に転生したら王家から追放されたので復讐する~  作者: 空乃愛理
第18章:昔日のジュブナイル

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18章18節:大戦の結末

 荒野を貫く長い長い道路を、多数の装甲車が列をなして突き進んでいる。

 向かう先は某国。「魔王」アレーティアと彼の結社に取り込まれた新政府軍の根城。

 私は装甲車の一台に、魔王討伐を目指すこの軍勢――《ヴェンデッタ》を率いる理亜と同乗していた。

 戦力は《秘蹟》使いが200、それ以外が1000ほど。一国を相手にしようとしていることを思えば寡兵もいいところだが、これも理亜の計算の内である。

 まず、彼女の狙いは占領ではなく敵軍の中枢メンバーの殺害であり、標的全員が高位の《秘蹟》使いと考えられる。つまり、単純な物量は勝敗に殆ど影響しない。

 そこで、機動力や指揮系統の強度を重視し、決戦に臨む人数は最小限に留めたというわけである。

 もちろん《ヴェンデッタ》に参加している他の仲間達にも重要な役割があり、彼らは陽動や補給路の遮断の為、各地に展開している。


 理亜が、他の同乗者である長い金髪の女性と会話している。

 黒いドレスを身に纏うその女の名はエレナ。「遅延」「停止」の《秘蹟》を持つ能力者だ。

 元々はアレーティアの一味であったが、一般人と家庭を持ったことをきっかけに《秘蹟》至上主義に疑問を抱き、家族と共に某国から亡命した。その後、混乱の元凶の仲間であった者としての責任を取るため、家族を置いて《ヴェンデッタ》に参加した。

 戦力という意味だけでなく情報源という意味でも、理亜からしたら得難い協力者だ。

 反面、「実は敵側のスパイである」という可能性も捨て切れないが、理亜はエレナの誠実な人柄を評価し、信頼している――というのは表面上の話で、理亜は裏切りを防ぐため、手下に彼女の家族を監視させている。

 このことはエレナに知らされていないが、理亜という人物の傍で戦ってきたのだから察してはいるだろう。

 理亜は人を信じない。彼女に付き従っている多くの駒の中に、本当の仲間は一人も居ないのだ。


「……理亜さん、随分と落ち着いているのですね」


 エレナが英語を話す。中学時代、英語は苦手だったが、海外で活動する中で語学力を開花させていった理亜を見ているうちに私も何となく分かるようになってきた。


「焦っても仕方ないじゃない。準備はやり切った。後は全力で戦うだけよ」

「それでも普通、緊張するものではないですか? たくさんの命が懸かっているのですから」

「勝てるかどうかが全て。結果の前では何人死ぬかなんて重要じゃない。最悪、私ひとりが立っていれば世界は救えるもの」

「分かっていましたが恐ろしい人ですね。あなたには守りたいものが無いように思えます。『世界を救うために世界を救おうとしている』」


 本当に守りたかったものを既に喪った理亜に刺さる指摘だったが、彼女は動じない。


「それでもエレナは『こいつに付くのが一番マシだ』と考えた。自分の判断を信じたら?」

「……そうですね、余計なことを言いました。まずは共にアレーティア達を討ちましょう。後のことは後です」


 理亜はエレナが堪能ではない日本語で淡々と独り言ちた。


「恋人や配偶者、子どもが居る人間は扱いやすいけれど視野が狭い……ハナから私と同じ場所には立てないのよ」


 その声色から感じ取れたのは嘲笑ではなく、諦めと孤独感であった。


***


 敵の本拠地に近づいた理亜たちは、目立つ上に一方的に攻撃されやすい装甲車を降り、徒歩で進軍を始める。

 20年以上争い続けている某国の中心街は廃屋と瓦礫、死体だらけだ。

 《ヴェンデッタ》の中の、能力には恵まれているものの戦地に足を踏み入れた経験のない少年少女数人が眉をひそめ、或いは泣き出し、或いは嘔吐する。

 そんな状態でしばらく進んでいると、さっきまで泣いていた女の子が頭を撃ち抜かれ、静かになった。

 彼女は《ヴェンデッタ》の新入り勢の中心的人物であり、組織内に彼氏も居た。それが今、唐突に、呆気なく死んだ。

 理亜は彼女が倒れた方向から狙撃者の位置を逆算し、《秘蹟》によって生じさせた黒弾で報復する。

 直後、多数の軍人が現れてアサルトライフルを撃ち、グレネードを投げ込んできた。

 しかし、こちらは厳選された《秘蹟》使いの部隊である。正面からの戦闘であれば一般兵相手に負ける要素はない。

 理亜たちは速やかに敵兵を全滅させ、侵攻を再開した。

 こちらの被害は狙撃された《秘蹟》使い一名のみ。

 理亜ならば狙われていることを読んで彼女を救えたのだろうが、あえてそうしなかったように感じる。

 あの子を長年見守ってきた私には分かる。きっとこう思っているんだろう――「人気者ひとりの犠牲によって戦場に不慣れな素人たちの警戒心と復讐心を高められるのであれば充分にプラスだ」って。


 それからも幾度となく敵軍の抵抗に遭ったが、《ヴェンデッタ》側はほぼ犠牲を出さず突破している。

 単に理亜の揃えた《秘蹟》使いが強い、というだけではない。補給路の遮断が功を奏して敵兵の士気が下がっていること、先程の犠牲が新入り達の気を引き締めたこと、この二点も影響しているのだろう。

 理亜の作戦は今のところ、怖くなるほどに完璧だった。

 とはいえこんなものは所詮、前哨戦である。勝利を確信するにはまだ早い。


***


 理亜たちは何日か掛けてようやく新政府庁舎前まで辿り着いた。

 大勢の仲間を殆ど損失無しに決戦の場まで導いた理亜。

 そんな彼女の前に現れたのは、たった七人の男女であった。


 軍服赤髪、大剣を肩に担いだ女性。一連の戦争における「表側の元凶」であるレーナフェルト将軍。

 その容姿はテレビで観た頃と何ら変わりないが、表情はどこか楽しげだ。


「ようやく来たか、日本の英雄。貴様に会える日を待っていたぞ」


 内戦時からレーナフェルトの下で働いている伝説的な傭兵。名は確か「ヴァルター」とか言ったか。


「《ヴェンデッタ》……いや、御剣理亜。お前は罪深い」


 プラチナブロンドのポニーテールにゆったりとした服装のいかにもお嬢様らしい女、「デイ」。

 反戦運動や環境保護運動、動物愛護運動、ボランティアなどを行っている有名な活動家が、どういうわけかアレーティアの手下になっていた。


「あなた達が戦争をここまで酷くしたのよ?」


 眼鏡を掛けた神経質そうな男、「ハウラス」。

 こちらも著名な実業家で、何年か前に事業に失敗してからは「怪しげな組織と繋がっている」なんて噂が流れ始めた。


「全くもって愚かだ。理解できん。貴様たちだって『選ばれし者』だろうに。我々と戦う理由がどこにある?」


 金髪をツインテールにした、ファンタジー世界の踊り子みたいな服装の女の子も居る。狐のような尻尾が生えている強化体だ。


「も~、なんでもいいよぉ~! あのお姉さん、クラムたちを殺す気なんでしょ? だったら早く殺さなきゃ!」


 長い青髪の一部を左右で纏めている少女が、隣の青年に視線をやる。


「クラムメルクの言う通りですので。アレーティア、攻撃を開始しますので?」


 そして、中心に居る銀髪の美青年、アレーティアが苦笑いをした。


「ニーナも、他の皆も本当にせっかちだね。とはいえ実際、その様子じゃ和解の余地はなさそうかな?」


 彼は超然とした笑みを浮かべたまま理亜を見つめる。

 理亜は冷淡に返した。


「ええ。あなた達を生かしてはおけない」

「そうか。こうして会ってみるまでは君と分かり合える気がしていたんだけどね……残念だよ」


 次の刹那。七人の《秘蹟》使いが一斉に動いた。

 そこから繰り広げられたのは、これまで見てきたものとは次元が違う戦いだった。

 《権限》所有者同士の戦いすら超越している。神から力を与えられた者達を上回るのであれば、それはもはや「神域」としか表現しようがない。


 レーナフェルトがフレイナのそれよりも遥かに激しい炎を巻き起こし。

 ヴァルターが高位魔族の魔法よりも強力な火器群を掃射し。

 デイがどこからともなく現れた大量の動植物を操り。

 クラムメルクが、《虚ろの力》抜きでは恐らく追いつけなかったであろうレイシャを凌駕する速度で空間を跳び回り。

 ハウラス、ニーナ、アレーティアに至ってはどのような《秘蹟》を持っているのかまるで読めないほどに多彩な攻撃を仕掛けてくる。


 神の如き異能者たちに対抗できているのは、かつて彼らの仲間であったエレナ、優れた《秘蹟》と天性の戦闘センスを併せ持つ理亜だけである。

 七人の強さが完全に理亜の予想を上回っていたということなのか、流石の彼女も焦りを露わにし始めた。


 気付けば《ヴェンデッタ》は残り僅かとなっていた。

 《秘蹟》使いがあと十人ほど、そうでない者はみな息絶えている。

 理亜はこのまま負けてしまうのか――と、そう思ったとき。


 空が突然、暗くなった。

 誰もが動揺し、戦うのを止めて見上げる。

 そこに広がっていたのは、虚ろであった。

 どこまでも深く黒い闇。

 私はそれを直接この目で見たことはなくとも知っている。この後、どんな災厄が待っているのかも。


――《崩壊の空》。

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