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別れ



 始まりで終わりの村アイテール、黒い巨躯の男と青い髪の女性が互いに気付き合流する。



「久しぶりだな」



「そうね」



「最強の脳筋でもクロウディアのお呼びには出向くのね」



「なんだよ、いいだろ、お茶はありがたい、

 何百年も何千年も、続いてきた伝統だ、

 作る人が変わっても俺が来る前から続いてるものだしな、

 あれがなかったら今もこうしていられているかわからん、

 あの暖かさは確実に支えになってる、

 だから作ってるやつをバカにできない、ただそれだけだ」



「…あっそ」



「しかしまた身長少し伸びたな、だがさすがにもう止まったか?」



「ええ、止まったわ、

 脳筋と同じ身長になったら膝から下を切断しなければならなかったから助かったわ」



「……お前言うようになったな、まぁ元気そうで何よりだ」



「どっかの誰かさんの口の悪さが伝染したんでしょ」



「ちっ、まぁそれと聞いてるぜ、

 なんでも『仄暗い魔獣たちの楽園』に他の暇してる生者と組んで

 魔獣を狩り尽くし拠点作って、

 『獣たちの怨嗟の魔境』を見回って動物保護する組織作ったってよ」



「関係ないでしょ」



「…今や動物はお茶作りもしてて無関係じゃない、ありがたいぜ、

 まぁ直ぐ消えちまう奴も多いがな。

 動物達が少しでも確率を上げてアイテールに辿り着き、

 健やかに浄化されていく環境はあったほうがいい、ありがとよ」



「…私はその為にこの世界に留まっている訳じゃない」



「わかってるよ、それ込みでのありがとうだ。

 お前は相変わらず褒められ慣れてないな、相変わらず俺とそっくりだ」



「……(ばか)」





 アイテールの外れ、お茶畑、クロウディアと、動物達の仕事場、



「来たぞクロウディア」



「クロウどうしたの、呼び出しって」



 いつもと変わらずお茶摘みをしているクロウディアがバツの悪そうに言い始める。



「うーん、来たか、…ちょっと言いづらいんだけど」



「?」



「……そうか」



「龍人は察しが良すぎるね、

 伊達に何千年だか知らないけど生きてるだけはあるわね」



 龍人はわかったのか、納得した表情でクロウディアを見つめる、

 アイラはまだ分かっていない、恐らく無意識的には感じている段階である。



「わたし、逝くわ、最後に二人に会いたかった、アイラ、動物たちをよろしくね」



「えっあっ、ど、どうしてッ、」



 アイラは動揺を隠せない、無理はない、

 彼女にとってクロウディア・リデレと言う女性は母のようなもの、

 頼れるお姉さん、戦いに身を投じるわけではないが見識の広さも視点の広さもある、

 アイラにとって龍人と同じくらい大切な人。



「満足したのよ、わたしの、この現世での、そしてこの世界、テラ・グラウンドでの生涯に」



「そ、そんなっどうしてっ」



「…アイラ、ここはね、魂の墓場、カルマ、地獄、

 浄化されるのが本来の目的、

 誰も龍人やアイラのように転生を目指さないんだよ」



 全てを悟ったような声音のクロウディアの言葉、

 それをわからないアイラではない、

 しかし、情がそれを超えてアイラの口先を動かす。



「だって、クロウは、いつもここにいて、笑顔で、

 一生懸命お茶作って、売って、それが日常でっ」



 クロウディアはアイラに近づき抱きしめる、そして言った。



「…別れに慣れていないんだね、アイラ。

 わたしはね、現世では何もできないで生涯を終えたの、

 生まれながらに身体が不自由でね、

 だから、何かを作れる、生み出せる、人の役にたてるって思いたかったからこの世界で、

 ただひたすらにお茶を作ってたんだと思う」



「そしてお茶を作り続け、考え、作り続けて、答えは出た、

 繋ぐ算段もついた、だからわたしは『ここ』でいいんだ」



「わからない、わからないよ、答えって何、なんなのっ」



 クロウディアは抱きしめるのを止め、アイラの両肩を掴みながら言う、



「ん~わたしも実のところよくわかってないんだよねぇ、強いて言うならば、

『笑って逝ける』、そう思えるように、笑えるようになったからかな」



「……クロウ…」



 クロウディアはアイラから手を話し両の手を越しに動物達に話しかける、



「さて、ウエンディ、ポチ、ゴーシュ、カエサル、そしてジョージ、後は頼んだよ」

 皆一様に言葉は発さない、ただ、それぞれの出来る笑顔で応える、

 代表してアヒルのジョージがその口を動かす。



「任せてくれクロウ、…君に会えて良かった」



 ジョージが近づき右の翼を前に出す、



「ジョージ、任せたよ、この世界始まって初の動物商人」



 クロウディアはその右の翼を右手で、初めてあったあの日のように握る、

 そして龍人の空気を読まない言葉が襲いかかる。



「なぁ最後におっぱい揉ませてくれよ」



「あんた、感動の別れの時なのに最後に言うのがそれなの…」



「だめかよ」



「本気じゃないくせに、

 いつか本気でおっぱい揉みたくなるいい女が現れるといいわね、龍人」



「俺はいつだって本気なんだがなぁ」



 龍人は左手で首筋を撫でながらそう言った。



「【揉みたいのは本当なんだろうけど本気じゃないのは無自覚なのねぇ】」



 小声でそう独り言を言ったクロウディアはアイラに目をやる、



「アイラ、」



「わたしは、わたしはっ」



「泣いてくれるんだね、ありがとう。

 でも人は繋ぐ生き物、繋いだら死ぬの、そういものよ、

 この繋いだ先がその果てが誰かの『転生』だとしたら、それはそれで素敵じゃない?」

「わたしの役目は『繋ぐ』こと、そこに後悔はない」



「だから、泣いていてもいいから、見届けて、わたしのさいっこうの死に際を」



「クロウ、クロウッ、」



 アイラは泣きながらクロウディアの名前を言う事しかできない、



「転生に辿り着かなくてもいいじゃない、

 でも、わたしは『予感』を感じてる、それが両方か片方かは、わからないけどね」



 クロウディアの体が、飛散し始める、時間である。



「じゃあな、クロウディア・リデレ」



「…さよなら、…クロウ」



「へへへっ、ちょっと照れるね、」



 鼻筋を右の人差し指の上で擦り、その仕草の後、夕暮れ時のアイテール、



 あかい夕日と緑の茶畑を背に彼女は笑った。






     バイバイ 悪くない人生だったよ





   どう? わたしの笑顔さいっこうでしょ?










「…最後は笑顔、か…、自由な、…いい、女だったな」



「…さよなら、クロウ」



「…行くわ、じゃあな、」



 暫くの余韻の後、龍人は去ろうとする、しかしアヒルのジョージがそれを制する、



「待つんだ龍人、お茶くらい飲んで行け」



「ああ? そうか、あいつの旅立ちに乾杯か、いいね、気が利くな、

 それならあいつが逝く前でも良かったと思うが」



「彼女の願いだ、自然に見送って欲しかった、だそうだ、

 だが、逝ってしまったのだ、もう関係ないだろう」



「ありがとなジョージ、だが、お前が逝く時は看取ってやれるかわからんから、

 今ついでに礼を言っておこう、ありがとう」



「失敬だな龍人、私がそんなに意志力が弱いと思っているのか?、

 脳筋を見送るつもりで私は生きているぞっ」



「初耳だな、まぁその日が来ることを願ってるよ。もちろん俺の転生を見送れよ」



「さぁ転生か浄化という全うかはわからないですが、さあ持ちたまえ」



「ああ」



「アイラも」



「…ありがとう」



 ペンギンのゴーシュがセコセコと龍人とアイラにお茶の入ったコップを渡す。



「みんな目の前にお茶はあるな、」

 その場に居る全員が頷く、

「新しいお茶を種に商う動物商人クインテットリーダージョージが、

 私が音頭を取らせてもらおう、

 我らが恩人クロウディア・リデレ、

 クロウにっ、乾杯」



 お茶を飲み解散の段となり、アイテールに戻り別れの時、龍人とアイラ、



「じゃあな、元気でやれよアイラ」



「私は必ず、あなたを超える、繋ぐのが私の『役目』じゃない」



「? 何の話だ? クロウディアが言ってた『役目』ってやつか?

 お前はそれじゃないと?」



「そうだっ」



「まぁ…どうでもいいな。『転生』は俺にとって『絶対』だ、

 それが俺の『役目』なのだとしても、

 『役目』ではなくて、途中で朽ち果てようとも、

 俺は、俺のしたいようにする、抗いたいんだよ。

 最後までな。

 それに、『繋ぐ』ものでいいじゃねぇか、

 どの『役目』だろうと、人間も、他の生物も、

 根底は『繋ぐ』ものだ見えない鎖でつながってるもんだ」



「……」



「お前も、抗いたいんだろ、理不尽ってやつに、全力で抗え、

『役目』だとか『繋ぐ』だとか『転生』だとか

 その先に俺がいるかどうかはどうでもいい、

 お互い最後はあいつのように笑えるように」



「……」



「まぁ俺も今最後の時が来て、クロウディアのように笑える自信は今のところないがな」



「………私は、そんなに直ぐ分析して咀嚼して理解して直ぐに

 前を見つめることなんてできない、すぐにはできないよ」



「…それがわかってるんなら問題無いだろ。年齢を考えろよ。

 他人から得られるものは得てるんだろ? その為の組織でもあるんだろうが」



「私はその差が辛い、届かないって言われているみたいでっ」



「……何年差があると思ってるんだ、言ったろバランスだってな、

 俺とお前は似てる、ゆっくりやれよ、ゆっくり準備しろ、

 身の丈を越えすぎる長時間の背伸びは意味が無い、

 その辛さもお前にとっては必要なんだろうがな。

 それでも人の本質は変わらない、俺とお前は臆病者だ、今は備えるしかないんだよ」



「………」



「もう行くぞ、またな、アイラ」



 龍人はそう言うと二度と振り返らず忘却の雪原方面に消えていった。




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