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アイラ対獣の王



 『獣たちの怨嗟の魔境』中腹、太陽も沈み、

 真っ暗となったステージで、不可視の休息を使い明日に備える龍人、旭、そしてジョージ、



「アイラさんと龍人はどれくらい一緒に旅してたの?」



「なんだよ、嫉妬か?」



「そ、そんなんじゃないけど、気になるじゃん、その、やっぱり」



 苛立ちはある程度収まったのか旭は頬を赤らめてそう告白する。



「恋する乙女は積極的ですな」



「ジョージ、その黒いシルクハットと一緒に丸焼きにするよ、よく燃えそう、美味しそう」



「旭、その冗談は冗談にならない、それと私は美味しくないですぞ」



 ジョージはその旭の声音に多少の本気を感じたのか慌てふためきながら、

 バタバタと両羽を動かし美味しくない止めとけと訴える。



「…まぁ減るもんじゃないし寝るまでまだ時間あるしな、いいぜ、話してやる」



「お、やった」



「どこから話すか、…あの後もちろん『獣たちの怨嗟の魔境』に行ったわけだが」










「ッッッ」



「伏せろッアイラッ」



 龍人は大剣ヴォルファングを右から左に横に薙ぎ払う、

 黒き闇の獣たちを一掃する、黒き闇の獣たちは地面に叩きつけられ消滅する。



「…また、助けられた」



「気にするのはお前のいいところだ、気にしろ、

 その振り幅がお前を強くしてくれるはずだ」



「…でも」



「…迷惑をかけていいんだよ、ガキがいくら臆病でも無謀でなくてどうする、

 この時期に慎重になってもしようがない、

 無謀しながら時に慎重になるくらいでいい、

 だが、そのバランスを決めるのはいつだってお前だ」



「…龍人、難しいこと言う、悔しい、でも間違ってないのもわかる」



「まぁ細かいことはどうでもいい、自分を信じて戦え、

 ラインを超えて駄目な時は俺が止める、言えることはそれだけだ」



「……」



 『獣たちの怨嗟の魔境』を突破していく龍人とアイラ、

 アイラは積極的に敵と対峙し、戦う、

 まだ子供の彼女は果敢にも痛みにも恐怖にも立ち向かう、

 泥だらけになりながら、強さを願う少女の姿に、龍人は僅かな感情が芽生える。



「(おまえは、何処まで求める、何を求める、

 忘れてたな、誰かにこんな『期待』するなんてな)」 



 アイラの振るうロングソードは美しい剣閃を描き、

 一人で黒き闇のラビット二匹を討伐する、



「(俺もどうかしてる、まだこんなガキに、期待…か、)」



「龍人、見てたっ」



「ああ、見てたよ」



 ダメージを貰いながら黒き闇のラビット二匹を倒したアイラの

 ハッキリと発言されたその言葉に、

 龍人は眉根を緩めてそう答えた。


 龍人とアイラは『獣たちの怨嗟の魔境』のBOSS前まで来ていた。



「いいか、ブラキグロウスはこの世界でもかなりの強さだ、

 完全にお前じゃ敵わない、だが――」



「…龍人、…一人でやらせて…欲しい、」



「…理由はちゃんと話せるか?」



「………強くなりたい、でも…敵わないのも…わかってる、

 …それでも、……あら、…抗いたい、だから」



 まだ自分の感じていることをはっきりと自覚してすぐ話せるほど意味大人ではないが、

 それでも少しの思考の後、言葉にできるアイラは意味立派である。



「…わかった、だが、遮断の指輪という指輪して俺も一緒に入る、

 それで俺は攻撃されない、俺が攻撃しないかぎりな、

 だが同時に入るとこのBOSSは体力はそれなりに増えちまう、

 だから、限界は俺が見極める、それでいいならいいぞ」



「………」



「嫌か?」



「……嫌だけど…わかった」



「…準備はいいか、行くぞ」



「…うん」



 龍人は遮断の指輪を装備し、二人は霧に手を当て霧の中に入っていく、

 霧を抜け、二人の眼前には広大なBOSSフィールド、

 灰色の岩の床、

 ところどころ今にもマグマが噴き出るのではないかと

 言わんばかりの赤と黄色が呼吸するかのように点灯する網の目の地面、

 三角錐のような岩のオブジェが多数見受けられる以外、何もない、

 黒い瘴気がところどころに立ち込め、死角を作る、

 ステージは三角錐の岩で囲まれその果ては何処までも続くであろう赤い海、

 そんなステージ、


 龍人は出入り口から僅かに移動した場所で岩に寄りかかりながら

 腕を組み戦況を見守る体制に入る、アイラは歩みを止めない、

 中央付近まで歩いた時、それは現れる。



 『獣たちの怨嗟の魔境』のBOSS、

 『淵獣王えんじゅうおうブラキグロウス』、


 黒い瘴気が集まりそれは顕現する。それは四足獣、双方に鋭き黄色い瞳、

 青黒き鎧のような部分と薄青い鱗部分がある、

 黒い瘴気を吐き出す吐出口が肩と肘にあり、不気味さと威圧感を醸し出す。

 角と爪と太ももの裏側、膝の皿の下から足首付近まで黄色の部分があり、

 尻尾は長く、その全体は刃のような形をしている獣。

 全長は尻尾まで含めるなら8メートルはある、



「はー、はー、はー、」



 アイラは既にもう呼吸が荒い、無理はない、黒い瘴気、獣の匂い、

 その大きさが生む威圧感、殺気、

 まだ12歳の彼女にはどう考えても酷、いや、無謀、

 右手に持つロングソードは震える、左手に持つ中盾も震える。

 獣の黄色く光る瞳は動く、咆哮をする、それは、戦いの始まりを告げる合図、



「「オォォォォォォォォッッッッ」」



 『淵獣王ブラキグロウス』はアイラ目掛けてその四肢を稼働させ突進攻撃をする、

 アイラはこれは右に躱す、なんとか躱す、



「はー、はー、はー」



 ただ一度の回避、しかし目に見えて疲労が激しい、アイラ自身、

 倒したことのあるBOSSは、『始まりの狩人と亡者の森』の巨人メビウスと、

 レピオス瓶を使いまくってゴリ推して倒した

 体力の基本少ない『リディアの港』のウルフクラウドのみである、


 その明らかにブラキグロウスより格の落ちるBOSSの戦いも余裕の勝利ではない、

 そもそも若干12歳でまだこの世界にきて3ヶ月程度、

 単身でBOSSとやりあうだけでも異常なのである、

 ましてや、『淵獣王ブラキグロウス』は『獣たちの怨嗟の魔境』という、

 このルート最深部のBOSS、それは特攻と同等、同一の行為、

 それでも彼女は望んだ。それを知りながらも歩みを止めなかった、

 彼女の勘がそれを許さなかった。これは彼女望んだ戦い、



「ッッッ(恐い恐い、恐いっ)」



 『淵獣王ブラキグロウス』は突進攻撃の後、

 少し間を置いて自慢の黄色い爪での左右からの攻撃を仕掛ける、

 始めは右、二撃目は左、アイラは後方に下がりこれを躱す、

 『淵獣王ブラキグロウスの攻撃は終わってはいない、

 その脚力を魅せつけるかのように飛び、回転する、尻尾での回転斬り、

 かなりの重量の『淵獣王ブラキグロウス』、

 それが飛び、刀のような尻尾を回転しながらの真上からの一撃、

 そんなもの、初見の経験浅い12歳が動けるはずもない。



「がァァァッッッ」



 アイラは吹き飛ばされる、なんとか思考を働かせ、

 躱すモーションに入ろうとするも、その動きは鈍く、

 攻撃は残酷にも攻撃は成立する。

 そして人としての所作が、彼女の受けたダメージとイメージを融合し再現し吹き飛ばす。

 痛みと恐怖と絶望が、彼女を襲う、



「はぁッ、はぁッ、はぁッ、」   



 アイラは立ち上がる、ロングソードを支えに立ち上がる。龍人はまだ動かない。

 まだ始まったばかりだからというのもある、

 アイラの現状の力量やステータスをある程度把握しているというのもある。


 アイラの現状は龍人が一緒に入るという意味は事前に説明済み、

 『BOSS体力が増える』、高難易度、無謀、

 だがそれでもそのハンデがあろうとも彼女はまだ一撃も攻撃を繰り出していない、

 ダメージを与えていない、助ける分水嶺はまだ先、

 彼女は震える手でレピオス瓶を飲む、

 しかしそれは敵のBOSSの動きを見ていない悪手。



 『淵獣王ブラキグロウス』は突進する、

 無情にも彼女は壁際まで吹き飛ばされる、


 しかしアイラは立ち上がる、恐怖心に負け、

 地面に突っ伏し続けては攻撃をただ食らうだけ、

 転倒後の無敵時間は一定、BOSSでのそれの超過は、死、

 彼女はそれだけは守り通している。

 現在のHPはMAXの3分の2、レピオス瓶で回復は成立していた、

 まだ余裕はあるがそれでもこのままいけば死ぬ可能性は高い、免れはしない、

 それでも龍人は動かない、



「はぁッはぁッはぁッ(回復は、見計らってしないと、精神的、ダメージ、大きい、)」



 『淵獣王ブラキグロウス』は肩口にある瘴気口と言うべきか、

 そこから瘴気の玉を吐き出す、5つの瘴気弾、それは放たれる、

 アイラは震える足を懸命に動かし走る、その追尾瘴気弾を懸命に躱す、

 5つ目の追尾は強烈、

 システム的回避でなければ躱すのは困難である。、



「ッッッ(動けッ動けッ)」



 アイラは躱す、そして『淵獣王ブラキグロウス』から視線は逸らしていない、



「ッッッ(これならっ)」



 アイラはアニマの雫を砕き徐々に残りの3分の1を回復させる選択をする。



 『淵獣王ブラキグロウス』は三度近寄る、突進で、アイラはこれを躱す、右に躱す、



 次の攻撃は最初と同じ、左右の爪攻撃、そしてジャンプ回転尻尾切り、

 左右の爪攻撃をアイラは躱す、最初よりも堂々と、

 そして問題の回転尻尾斬り、頭上からの高速の一撃、



「ッッッ」



 回避は成功する、彼女は、アイラ・ノーズは前に進む、

 大地を噛みしめるかのような踏み込みからロングソードでの2連撃、

 攻撃は入る、ザシュザシュッと気持ち良いように入る、

 『淵獣王ブラキグロウス』は少しジャンプしつつ尻尾をアイラに向ける、

 それは尻尾薙ぎ払い攻撃、アイラから見て左上から右上へ、右上から左下へ、

 アイラはその初見の攻撃を見事躱す、後方に回避しながら躱す、



「ッッッ(前方、だった、後方じゃ反撃できないっ)」



 アイラはそんなことを思考しながら回避行動を終える、

 『淵獣王ブラキグロウス』はゆったりと歩みアイラと距離を詰める。

 『淵獣王ブラキグロウス』は背中をそらす、頭は上に、何かを吸い込むように息をする、



「!?」



 アイラの洞察では口からの瘴気を左右に吐き出す攻撃、

 そのアイラの刹那の予測は正しい、


「(なら、前へ、後方は悪手っ)」



 恐怖になれたのか、それとも才能なのか、彼女は前へ進む、

 『淵獣王ブラキグロウス』の横に回避行動をしながら転がり込む、

 そして横っ腹にロングソードで4連撃、

 『淵獣王ブラキグロウス』の瘴気ブレス攻撃は虚しく左右に虚空に放たれ続けている。



「ッッッ(やったっ、でも、感触的に長い、長い戦いになる、龍人のレベルの影響)」



 アイラは後ろ歩きで距離を取る、

 『淵獣王ブラキグロウス』の次の攻撃は突進、アイラは冷静に躱す、

 そして『淵獣王ブラキグロウス』通常時の最後の攻撃パターン、始動。



「ッッッ」



 ジャンプ回転尻尾切り3回連続、アイラは躱す、ひとつひとつ丁寧に、躱す。


 3撃目の終わり、アイラは攻撃に入ろうとするが、違和感が襲う、

 それは着地し、肩爪で地面を掴みながらの横回転尻尾斬り、



「ッッッ(躱せるッッ今の私なら)」



 アイラは髪の毛の先を僅かに来られながらも見事躱す。

 当然その攻撃の隙を見逃さない、

 右手に持つロングソードで2連撃、

 順調に攻撃を引き出させながらダメージを与える。



「ッッッ(まだ、攻撃パターンはある?)」



 『淵獣王ブラキグロウス』の攻撃を躱しながらアイラは思考する、

 龍人はただ、その姿を見守り続ける。



「(最初はどうなるかと思ったが、普通じゃねぇな、それだけは確かだ)」



 少女の汗は飛び散る、瘴気の玉が少女を狙う、



「(どこまで、いきたいんだ。おまえは。…アイラ)」



 アイラは荒削りながら時折攻撃を食らいつつも着実にダメージを与え、

 時間はかかったが『淵獣王ブラキグロウス』のHPを極限状態になるまで追い詰める。



「はぁっはぁっはあっ」



 時間にして1時間30分戦い続けたアイラの精神の体力はかなり疲弊している。

 それでも容赦無い、ここはテラ・グラウンド、カルマ、地獄、魂の墓場、

 『淵獣王ブラキグロウス』の雄叫びがこだまする。



「「オォォォォォォォォッッ」」



 『淵獣王ブラキグロウス』が纏う黒き瘴気は黒き瘴気の稲妻となり

 バチバチと音を立てる。


 黄色の瞳は紅に染まり紅く怒りを表すかのように猛々しく光る。



「はぁッはぁッはぁッ(来るっ)」



『淵獣王ブラキグロウス』はその尻尾の刃の先端から瘴気を伸ばす、

 その伸ばされた瘴気の刃をアイラを越しその背後から円を書くように回転する。

 それは黒き瘴気のいかづちの壁、移動制限攻撃、半径9メートルの檻。



「はぁッはぁッはぁッ」



 それはある種精神攻撃、状況の悪化、アイラの疲労は、噴き出る、出ざる得ない、

 それでも攻撃は来る、満を期して行なわれる、

 上半身を起こした『淵獣王ブラキグロウス』は爪に瘴気を纏わせ、

 伸びた爪の鉤爪での二連撃、それは左から放たれる、



「ッッッ(私は、つよく、なりたい、負けたくない、)」



 アイラは躱す、荒い息を止めてまで身体にムチを打つ、

 極限状態の初撃と二撃目を見事躱す。そして三撃目、

 追尾しながらのバク転尻尾の刃の攻撃、



「ッッッ」



 これも躱す、空振った尻尾の刃から瘴気の刃が放たれ、

 瘴気の壁に吸い込まれ融合する、それは勢いを増す、



「シッッ」



 アイラは攻撃を繰り出す、息を止めたまま、

 僅かに肺に残っていた酸素を吐き出しながら声を上げながらの2連撃、

 余裕はない、距離を取れるだけ取る、



「はぁッはぁッはぁッ」



 呼吸をする、しかしそれは長くはできない、

 『淵獣王ブラキグロウス』の次の攻撃、肩口の排気口から瘴気が噴き出る、

 それは充満する、



「ッッッ」



 アイラは戦慄する、何が起こるのか、思考する余裕はない。

 ただ、瘴気が満ちていないポイントを一心不乱に走りながら探す、

 嫌な予感しか彼女はしていない、なにせ戦慄したのだ。



「はぁッはぁッはぁッ(あったっ)」



 その刹那、『淵獣王ブラキグロウス』は自身の歯を噛む、

 それは着火のようなもの。


 瘴気たちは黒い雷を放ちながら爆発していく、

 アイラはもはや回避ではない、滑りこむように安全地帯に飛び込む、

 しかし一瞬間に合わない、瘴気の雷がアイラの右足を捉えていた。



「がぁぁぁッッ」



 ダメージは軽度、しかし、瘴気の雷はその右足にしばらく纏い続ける、

 若干の俊敏性の欠如、意志力ではねのけることは可能ではある。

 しかし、そんな意志力は残ってはいない。

 『淵獣王ブラキグロウス』は、すこしうろついた後、次の攻撃に移る、

 尻尾の刃から伸びた瘴気を自身の後方の地面に突き刺し、

 上半身を、顔を上に上げる。

 それは、ビーム、

 

 地面に抑えがなければ抑えることが叶わないほどの威力を含んだ最悪の攻撃。

 最初は正面、アイラはなんとか躱す、

 抑えの効かない口から放たれた瘴気のビーム攻撃は終わってはいない、

 暴れるビームというタイミングの取りづらい上に高速で迫る脅威、

 右足には先程の瘴気の雷の付与はまだ解けていない、初撃は正面だった。

 二度目は向かって左上から、三度目右真横、

 アイラは二撃目からそれをもらってしまう。


 空中で追加の横薙ぎのビームを貰い吹き飛ばされる、

 当然、瘴気の壁に衝突し、追加ダメージを追う、

 そして地面に叩きつけられる。



「はぁッはぁッはぁッ(か、かいふく、を)」



 アイラは意識朦朧としながらも立ち上がる、ただそれだけでも異常、

 思考は回復を指示している、ただそれに従いレピオス瓶を飲む、

 ダメージ覚悟の回復、それは成立する、

 『淵獣王ブラキグロウス』はその直後攻撃態勢に入る、

 自分で創りだした未だ存在し続ける瘴気の壁から離脱し、

 アイラから見えぬ攻撃、尻尾の刃らから伸びる瘴気の刃、

 それは限界まで伸びる、


 アイラと『淵獣王ブラキグロウス』の現在の距離は20メートル、

 それは届く、右爪は地面を掴み、全身のバネを使った回転攻撃、



「はぁっはぁっはぁっ(上? 右、左? 横なら向かって左から?? 上は捨てるッッ)」



 黒き瘴気の壁を切り裂き、瘴気の刃がアイラを襲う、



「ッッッ(左ッ)」



 本当のギリギリ、奇跡、反射の限界、予測が当たったが故の回避。



「ッッッ(また、くるっ)」



 初撃より早い二回転目、これも躱す、



「ッッッ(三回転? 直ぐ来るっ)」



 三回転目、高速の刃、わかっていたとしてもこの瘴気の壁がなくとも躱すことは至難、

 ましてや12歳の年端もいかぬ少女が、ここまで戦っていることが異常。

 たとえそれが、避けられなかったとしても、その評価は変わらない、



「あぁぁぁッッッッ」



 僅かばかり霞めたその三撃目、彼女を躯体を躍らせるには十分だった。

 再び瘴気の壁の追加ダメージを追ったアイラは地面に叩きつけられ、

 襲いかかる痛みに、死の予感に、襲われる。



「ああっぁぁあっぁぁぁぁぁッッ」



 『淵獣王ブラキグロウス』は攻撃をやめない、

 それは三回転分の遠心力を使ったジャンプ回転、

 重さと速さ、横からの縦、渾身の一撃、

 もし喰らえば体力はまだ持つが、

 その痛み恐怖感に飲まれもはや抵抗する事はかなわない、それは死、

 彼女はそれは分かっている。



「わ、わたし、わたしはッ、」



 彼女は走馬灯のように、生前を思い出す。

 決して、幸せなどではなかった、だが、大切だった、

 何もできず、蹂躙され、奪われ、蔑まれ、奴隷として生きた僅かな一生。

 だがその足は動かない、すでに右足に付与されていた瘴気の雷は解けている、

 しかし、足は動かない、疲労と、心が、もう彼女の下半身を動かせない。


 それでも彼女は、求めることを止めない、その到達点などまだ決めてもいない、

 だが、それでも、彼女は勝利よりも、敗北よりも、抗いを求める。

 左手の中盾を握りしめる、成功するかどうかもわからない、

 そもそも、あの尻尾の刃に可能なのかもわからない、だが、選択肢はない、

 だが、選択肢がなくとも、選択肢はある、

 そのまま何もせず死に、大聖堂へ行くか、

 そのままこの世界の一部となるか、


 それとも、挑戦し続けて、死に、大聖堂に行くか、

 それほどの意志があれば、早急に世界の一部になることはない。

 彼女は、ただ、左手でパリーをする、それは確か。

 何度同じ状況に陥ろうとも、行動は変わらない。






     つよく、なりたいよっ







 彼女はそう言いながら先日、龍人に言った言葉を、

 龍人の顔を思い浮かべながらパリー行動をした。

 しかしそれは、叶わない。

 無意味に空を切る、成功も失敗も、結論は出なかった。



 いや、結論は出ていた。それは失敗、

 龍人のパリーと、アイラのパリーは同時、

 身長差で比較するなら僅かに早かった。だが、龍人は言う、

   



 「悪くないな」




 高速の一撃、飛び込み回転尻尾切り、

 尻尾をパリーされた『淵獣王ブラキグロウス』は地面に仰向けでもがく、

 龍人は右手に持つヴォルファングを両手持ちし、致命の一撃を食らわせる、



「「オオォォォォォォッッッ」」



 痛みの絶叫なのか、それはわからない、龍人はアイラに声を掛ける。



「まだやれるか? 回復をしろ、ここからは共闘だ」



「…う、うん」



 『淵獣王ブラキグロウス』は起き上がる、その眼光から感じられるのは殺意。

 そして僅かばかりの怯え、眼前に轟くはこのテラ・グラウンドでおよそ最強、最恐の脳筋。



 『淵獣王ブラキグロウス』自身、幾度と無く倒されている、

 それを知らないわけではない。


 それは確実に刻まれている。

 それはBOSSでも、平等に刻まれる、湧き上がる、襲われる、恐怖という感情。



「いくぞっ」



 アイラは握りしめたロングソードと中盾を構え、

 先程まで動かなかった足は正確に歩みを始める。

 アイラは先をゆく龍人の棚引く青い薄汚れた黒いマントを、

 いや、そのたくましい背中を横目で一瞬目をやる、彼女は前を見る、

 『淵獣王ブラキグロウス』から感じていた恐怖心がほぼ無いことに気づく、



「(どれだけ、この世界にいるのだろう、何処を目指しているのだろう、

 私は、これほどまでに強くなれるのだろうか、わからない、

 でも、一つだけ確かなことは、この、背中に、追いつきたい)」



 龍人はヴォルファングで、アイラはロングソードで、

 『淵獣王ブラキグロウス』を追い詰める。

 『感触』的にはお互いの一撃が成立すれば終わる、



「シッッ」

「やッッ」



 その掛け声とともに、龍人とアイラは『淵獣王ブラキグロウス』を見事討伐した。

 龍人は振るったヴォルファングを右肩に掛け、視線をアイラにやる、



「よく、頑張ったな、勝手に判断して悪かったが、次来るときは一人で倒してみせろよ」



「…うん」



 アイラは、泥だらけの顔で笑った。




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