旭の道
「いかにこの『獣たちの怨嗟の魔境』が恐ろしいか話すつもりが
出会いの話になってしまったな」
『獣たちの怨嗟の魔境』の出入り口でジョージが語りだしたため、
龍人と旭はそれをただ聞き入っていた。
「…アイラさんって龍人の元相棒だったんだ、どおりで強いわけだ」
「…そんなんじゃねぇよ、俺にとっちゃ虎徹で言うところのクスハ、娘みたいなもんだ」
「…そう思ってるのは龍人だけじゃないの?」
旭は疑いの眼で龍人を見つめる、
「…さあな」
龍人は目を閉じて誤魔化しとも取れる返答をする、
「ともかく、今は目の前のことに集中だ」
「うん」
少し歩いた先、現れる獣達、黒き闇の獣、
四足歩行型の大きい犬ほどの大きさの狼のような獣、二十数匹。
「おおいな」
「でもこれくらいじゃなきゃ、張り合いがないっ」
一斉に襲いかかる黒き闇の獣、
龍人はいつも通りの大剣ヴォルファングで、
旭はロングソードで応戦する、ジョージはただ物陰で見守るしか無い。
「ッッッ(体力が多いっそれにこの数、ジョージを気にしながら、何かを守りながらの戦いッッ)」
当然物陰に隠れているとは言えジョージにも攻撃が向く可能性は高い、
彼もこのテラ・グラウンドで生物として存在している以上気配はある、
「旭っ」
「わかってるっ」
龍人の呼び声、それはジョージに敵意が向いたことを示す、
龍人が気づくのに僅かに遅れて旭も気づき、体は既に向かっていた。
「ひっ」
3匹、ジョージに立ちはだかる黒き闇の獣、
旭はそのうちの二つに同時に攻撃を繰り出し連撃にて討ち果たす、
もう一匹、ジョージはなんとか躱す、
そしてそのまま旭に攻撃を繰り出していた黒き闇の獣は旭にダメージを与える、
「イッッッ」
黒き闇の獣の小刻みの連撃攻撃、他の獣も合流し旭に連続ダメージを起こす、
「旭っ大丈夫かっ」
「なにやってやがる、こんな多勢に無勢、大剣で薙ぎ払えッッ」
装備変更をしない旭に龍人はどうしてだと問いかける、
「うるさいッ」
「チッッ(何ムキになってやがる、いや、…無理はねぇかッ)」
「ああぁぁぁぁっっっ(私は歪だ、一対一なら、誰にも負けたくない、
だから複数には弱い、でも、私はそれでいい、複数の常套手段?
そんなもの私は知らなくていいッッ)」
「!?」
追加の敵、獣人魔獣 『黒き闇のラビット』、槍と大盾を持つ戦士、
シルエットは可愛いが、龍人よりも大きく、
2メートル50はある、徒党を組む魔獣。その数5、
「龍人、そっちは任せた、」
「ああッ、なんだとぉっくそっこのッ、いてーじゃねぇかよッッ」
流石の龍人も大剣の撃ち終わりに飛びつき攻撃を貰い、多段で攻撃貰う、
「ッッッ(いくっ)」
旭は走る、5匹の魔獣に向かって、ただ走る、
5匹の黒き闇のラビットは槍を構える、
旭に向かってそれぞれのタイミングで放たれたその槍の一つを、
自身に一番早く突き刺さらんとしている槍をパリーする、
その成功の瞬間、4つの槍は彼女を突き刺す、
それは確実に旭のダメージとなる、
しかし彼女は人としての所作を封じ強靭な意志力で、
ただ尻餅をつく黒き闇のラビットに致命の一撃を与える、
虚しく他のラビット達の攻撃が旭を襲っているが『致命の一撃』中は無敵、
虚しくラビット達の攻撃は旭がそこにいないような形で行なわれる。
その無敵時間とも言える時間を利用し
旭は再びの攻撃に備えるラビットの警戒を怠らない、
最初の息のあった5匹の攻撃ではない、
それぞれのタイミングで個別に攻撃を伺い、
その一匹が攻撃を放つ、それは、悪手、旭は初撃を軽々とパリーする、
それは異常な行為、旭にとってのもはや日常、
他のもう一匹もそれを見て攻撃を放つ、
それはパリー行動による硬直が終わる瞬間、パリー可能、
徒党を組むと言っても、その程度。旭はまたパリーをし、尻餅をつかせる、
そのうちの一人に致命の一撃を与える。
またも他のラビットの攻撃は虚しく何度も旭という名の虚空を突く。
それは、様々な形で繰り返され、徐々にラビット達は数を減らす、後二匹、
旭はもはや利用している、槍の嵐を楽しんでもいる、
「ッッッ(もっと速く、人の限界すら、
生者の限界すら覆すほどの『領域』に、
アイラさんの攻撃を今度こそ余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》で躱せるようにッッ、)」
「遅いッ」
パリー、ラビットは尻餅をつく、旭はもう一匹ラビットに凄みを利かせる、
その黒き闇のラビットは動けない、
旭は一瞥を済ませると起き上がろうとするラビットにトドメを刺す。
旭はその一撃の最中、視線を外さない、
凄みを利かせたラビットに視線をやり続けている。
半狂乱したラビットはただ一心不乱に
無敵時間中の旭という虚空に槍を突き立て続ける。
無敵時間が終わり、旭はその狂乱の槍をただ最小限の動きで、
システム的回避行動を行なわずただ避ける、
もはやパリーするのも面倒くさいかのように旭はただ躱しながら距離を詰め、
トドメの連撃を食らわせた。
「まったく、集団相手にタイマンするなよ、そんなにアイラにやられたのがムカついてるのか?」
「勝負事はなんだって負けたくない、そんなのあたりまえじゃない、
実際負けたし、次は絶対負けたくない、一秒だって無駄にしたくない」
旭は怒った形相と声音で龍人に伝える、今の自分自身が感じている、
今想っていることを感じていることをスラスラと言う、
それは普通、17歳の女子高生ができることではない。
「…頼もしい限りだ」
その龍人の言葉を聞く前に旭は一人前へ行く、走る、ジョージが言う、
「あれが…旭ですか」
「ああ、俺の最強の相棒だよ」
龍人はその小さくなっていく白い閃光を眺めて微笑んだ。




