3-G
気付いたらそこに居た、その表現が正しいと思う。住み慣れたくはない見慣れた世界ではないその場所に、俺は倒れていた。
「………」
『……何処だ、ココ………』
普段とは違う冷たい道路の上で目を覚ました俺は、身体を上げつつ辺りを見渡す。日陰の建物の間、恐らく『路地』だろう。その中の一区に、俺は居た。
耳をすませば人とは違う賑やか声が聞こえてくるが、一体何の音だろう。
「………」
地面の上に座り直した俺は一度目を閉じ、何故俺はココに居るのかを思い返す。普段は砂嵐混じりの日差しの下に居た筈で、こんな砂の無い空気は初めてに等しい。
『……ぁ、そうだ。確か変な渦に引き込まれて……』
朧気に思い出した光景が脳裏をよぎり、俺は目を開ける。自らの意思とは違う力によって誘われたこの場所の前、俺を助けようと伸びる『緑色の手』があった。
でもお互いに手を取る事は無く、今に至るのだろう。その手の主が必死な眼差しと後悔に苦しむ表情だった事を、今でも覚えてる。
『……とりあえず、外の確認だけしとくか……』
再び一人となった今を感じつつ、俺は陽と音の元へと出た。
俺が気を失っていた路地は、人通りが多い露店の様な建物の多い場所。聞きなれない音の正体は解らなかったが、少なくとも俺と同じく「人」の居る世界だと言う事だけは解った。
ガラス張りの店内を見ると、見慣れない食材を用いて『食べ物』を作っている。自然と腹が減って来るのは、恐らく定なんだろうな。
『……とりあえず、金だけでも何とかするか。食い物は欲しいしな。』
適当な人の少ない店をも付けて中へと入ると、俺は顔を隠していたフードを後ろへと追いやる。そして店主と思しき人の元へと近づき、俺は声をかけた。
「……すみません、つかぬ事をお聞きしたい。」
「はいは…… ……えっと、異国の方……かな?」
「その解釈で構いません。この世界の『通貨』を知りたいんだが、見せてもらえないか。」
「あー…… えっと………」
「……… ぁっ。」
軽く俺の言葉に恐れをみせる店主の視線を感じ、俺は何が原因かを悟った。俺の背中には一本の短刀が常に居て、何時でも手にし使える状態になっている。暗殺者として当然の身なりだが、この世界では通用しないんだろうな。
俺は一言断ってから近くのテーブルへと向かうと、その場に自身が身に着けていたモノを置いて行く。短刀とフードを始め、その他諸々の商売道具達。
少し身軽になるだけで落ち着かないのは、恐らく外だからなんだろうな。
「……お待たせしました。」
「……何やら訳有りのようだが。通貨を知って、どうするんだい?」
「食い物の調達をしたい。金貨はあるんだが、使えるかすら分からなくてな。」
「なるほど…… わかった。」
そう言って店主は箱の中からお金を出し、俺に見せてくれた。
この世界の通貨は『フェアモント』 俺の知ってる『トリウム』よりも薄かった。