表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/58

12

 古城からのアドバイスを受けて、夜に、わずかな時間だが榊原とメッセージのやり取りをするようになった。


 その日に何があったとか、何を聞いたりとか、探索で上手く連携が取れなかったり、無茶をしそうになったりと、基本聞き手に徹していた。


 正直、天音から話をする内容が無い。

 あるとすれば、霧隠に襲われたとか、ギルドで受付のお姉さんがやかましいとかの愚痴しかない。

 学校での話題ならあるのだけれど、それは榊原も知っているような内容なので、言っても仕方ないと思っている。


 なので、こんな話題を振られても、その意味を理解していなかったりする。


『福斗さんは、どんなチョコが好きですか?』


「ビターなのが好きかな。甘いのも良いけど、たくさんは食べれないや」


『分かりました! ところで、チョコの好きな形とかありますか?』


「サイコロみたいな、小さな四角いのかな。それがどうかしたの?」


『いえ、興味本位です。ハートとかはどうですか?』


「可愛くて良いんじゃないかな」


『ですよね! クッキーとビスケットだったら、どっち派ですか?』


「ビスケット」


 本当に、何の質問なんだ?

 そう疑問に思いながらも、天音は淡々と回答して行く。


『人の体に付いたチョコって、どう思いますか?』


「拭き取ったらいいんじゃないかな」


『ですよねー』


 榊原の残念そうなメッセージに、何か間違ったかなと疑問に思ってしまう。


『二月には、会えますか?』


「分からない。どこで終わりなのかも、あの人の気持ち次第だから」


『そうですよね。すみません、我儘言って』


「僕の方こそごめんね、せっかく弟子入りしてくれたのに、指導してあげられなくて」


 ここから、暫く返答が無くなる。

 天音は、今日は終わりかな? と思って、そのまま就寝する。

 しかし、翌朝スマホには、『弟子だからですか?』と返答があった。





 うーん、と天音は朝から頭を悩ませる。

 榊原の返信の意味が分からなくて、どうなんだろうと考えているのだ。


 会う理由が、弟子だからかと聞かれたら、その通りだと答えるしかない。

 榊原からの質問が、恋愛感情によるものだとすると、残念ながらその期待に応えることは出来ない。

 そもそも、この国が終わるかも知れないという瀬戸際に立たされているのに、役割があると告げられている己が、その感情に振り回されるのは余りにも危険だからだ。


 その感情が原因で、数千万人もの犠牲が出るのなら、天音は躊躇せず感情を放棄する。


「というか、僕に気付いてすらいないよね……」


 目の前で、このクラスの女子と会話をしている榊原。

 その集団の中には、サクラや古城もおり、とても楽しそうにしている。


 それは良いことではあるが、悩んでいる自分が馬鹿らしくなって来て、いっそのこと榊原にだけ伝えておこうかなと考え始めていた。


 どうせ、隣のクラスの佐藤にも知られている。それに、一部とはいえ先生も知っている。

 ならば、弟子の榊原に明かさない理由も無いだろう。


 そうしよう。

 そう決心したら、近くのぷっちょがポツリと呟く。


「やめとけ」


「え?」


 ふふっと笑いながら、ぷっちょは席を立ち、天音の肩をポンと叩く。


「天音、今告白しようって決心しただろう? どうせ傷付くだけだから、悪いことは言わないから、やめておけ」


「えっと……何の話?」


「誤魔化さなくてもいい、俺には分かる。榊原さんだろ? 好きですって告るんだろう?」


「違うけど」


「強がんなよ。これでも俺は応援してるんだぜ、友達には幸せになって欲しいからさ」


「その顔は、他人の幸せを願ってる物じゃないよね」


 ニタニタと楽しそうな笑みを浮かべるぷっちょ。

 この顔はきっと、人の不幸を笑いたくて仕方ないのだろう。


「そんなことはないって、ほんとほんと。俺っていい奴だからさ、顔には出さないように気を遣ってんだよ」


 自らいい奴と称する奴を初めて見たなと、どうでもいい事を考えてしまった。


 そのぷっちょの顔が、突然緊張した物に変わる。


 どうしたんだろうかと、ぷっちょの視線の先を辿ると、そこにはサクラが立っていた。


「天音様、少しお伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」


「うん、どうかした?」


「天音様には、意中の方がいらっしゃいますか?」


「……突然どうしたの?」


 いきなり何を聞いてくるんだろうと思ったら、女子達がこっちを向いていた。

 一体、どういう会話の流れでそうなったのかは知らないが、中々に面倒そうな質問である。


 まあ、それでも返答は決まっているので、いないと告げようとする。しかし、脳裏に一人の女性が浮かんでしまい、口籠ってしまった。


「……恐らく、いる」


「まあ! それは素晴らしいですね。どなたですか?」


「ごめん、それは言えないかな……」


 そう返答すると、「そうですか」とサクラは残念そうにしていた。というより、みんなが注目している中で名前を出すって、どんな嫌がらせなんだろうかと思った。


「天音様」


「うん?」


「お友達との恋バナって楽しいですね!」


 それは、花が咲いたような綺麗で無邪気な笑顔だった。


「……うん、きっともっと楽しくなるよ」


 何となく察する。

 サクラは能力が発現してから、学校を辞めなければならなかったと言っていた。

 だからこそ、友人達と過ごす時間は、サクラにとってとても大切な時間なのだろう。


 離れて行くサクラは、とても楽しそうだった。


 それとは正反対に、ドス黒い気配を纏ったぷっちょが天音に接近する。


「どうしたのぷっちょ? え、ちょ、や、やめ⁉︎」


 無言のぷっちょは、天音の首を絞めに来た。

 いきなり何すんだと手を引き剥がそうとするが、思っていた以上の力が込められていた。

 余りの殺意の高さに、これがあのぷっちょなのかと戦々恐々とする。


 ぷっちょが、これまで以上におかしくなったのは、サクラが来てからだった。


 ぷっちょは明らかにサクラが好きだ。

 それは、誰がどう見ても分かるレベルではっきりとしている。というか、男女関係なくクラスの大半がサクラが好きだ。


 サクラが高校に通うようになって三週間が過ぎており、これまで告白しようとした人は結構存在している。

 しかし、告白しようとしただけで、出来たのは同性の女子二人だけだ。

 男子は全員ブロックされており、近付くのも困難な状況だ。近付けるのは、サクラが自ら接近した時のみ。


 つまり、先程の天音のような状態なのだ。


「なあ、さっき意中の人がいるって言ってたけど、もしかして、サクラちゃん?」


 その声は、いつもとは違う、普通の声だった。

 それが恐ろしくて、素直に「ちっ違う」と答えてしまう。


「そっか、良かった。俺、天音とは親友でいたいんだよ。だから、俺を裏切らないでね。思わず殺しちゃうかも知れないからさ」


「親友?」


 解放された天音は、親友という言葉の意味を考えてみる。

 親友とは、心から信頼している友人で、様々な悩みを打ち明けられる間柄なのだと思っていた。

 だけど、ぷっちょ曰く、裏切ったら殺されるような関係のようだ。もしくは、死んだ友人を『死ん友』と呼んでいるのだろう。


 そんな親友ならいらないかな。

 そう素直に思ってしまった天音だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なるほど これが意図したものや性格から来るものなら「サクラさんは罪深いな」となるんだけど、生来の能力というか属性となるとどうにもならない けどだからこそたちが悪いですね 本人にとっても回りの人間にとっ…
冷静になったら、「二月には会えますか?」じゃねぇーよなー、毎日教室で会ってるっつーの 榊原さん、バラすのが遅ければ遅いほど取り返しのつかないことになりそうな、もう既に取り返しのつかないことを天音に言っ…
榊原さん、正体気づいてないから外堀埋めようとしてもヒロインレース微妙なんだよね その点、本体と着実にフラグ立ててる古城さんよw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ