13
榊原と話をする機会を設けよう。
そう考えて、いつも通りにダンジョン向かっているのだけれど、何故か佐藤が付いて来ていた。
「なあなあ、この前この剣買ったんだ。言っとくけど、親に金出してもらってないからな。自分でバイトをして買ったんだ」
電車の座席に座っていると、嬉しそうにスマホの写真見せて話しかけて来る。
それに、「そうなんだ」と素っ気なく返すと、
「凄いだろ。俺のバイトって、何やってるのか知ってる? 探索者のポーターやってんだ。結構危ないことあるけど、先輩方の戦闘が間近で見られて参考になるんだよ。磯部達と探索に行っても、動きが良くなったって言われるくらいなんだぜ。あっ、まあ天音には敵わないけどなぁ。何せ天音はあのっ⁉︎ おっと、これは秘密だったな」
何が秘密なんだ。
もしかして、それで脅しているつもりなんだろうか。
そう天音は考えて、佐藤に告げる。
「佐藤君、君が何を考えているのか知らないけど、僕の事を話したかったら好きにして良いよ。そこまでして隠すつもりもないし」
どうせ先生には知られているし、サクラにも元から知られている。その周りにいる護衛だって、天音が誰なのか周知されていた。
もう榊原にも話すつもりでいるので、無理に隠す気は無くなっていた。
誰かに教えを請われても、「ごめん無理」の一言で強固な意志で拒絶するつもりだ。
だから、脅すようなことを言っても無駄だと言いたかったのだが、佐藤の反応は違っていた。
「いやいや、そんな気は無いって! 秘密にしてよう! ほら、正体がバレると面倒くさいことになるだろ? 考えてもみろよ。いろいろつけ回されるようになるし、自由に外出も出来なくなる。絶対に秘密にしていた方が良いって! 俺も誰にも喋らないから、天音と俺の二人の秘密にしておこうぜ」
焦ったように早口で告げて来る。
二人の秘密とか、勘弁してほしいくらいに気持ち悪いし、はっきりと拒絶したいレベルだ。
ただ、一理ある所もある。
付け回されるというのは、流石に嫌だし、外出が制限されるのも嫌だ。
まあ、それも、誰にも話さないと佐藤が言っているので、心配は無さそうではあるが。
佐藤の言葉は続く。
「天音って、榊原さんにも正体隠してんだろ? なら、明かさない方がいいんじゃないか?」
「どうして?」
「だって、同級生っていうのを秘密にしてんだろ? 榊原さんも年上の師匠と思って接してんだからさ、それが同じ高校の同級生って知ったら、騙されたと思って探索者辞めるんじゃないか?」
「……」
まったく考えて無かった点をつかれて、黙ってしまう。
確かに、榊原からすれば騙されたと受け取られても仕方ない。
正体を明かして、それで愛想尽かされたら、それはそれで諦めるしかないのだが、探索者を辞める可能性まであると考えると、とてももったいない気がしてしまった。
天音の目から見ても、榊原には才能がある。
物事を的確に判断しており、武技、魔法、共にもの凄い速度で成長していた。
まだまだ、荒いところはあるが、そのポテンシャルは一級品と言って良かった。
その才能を潰すのか?
自分の我儘で?
「……このまま、隠しておいた方がいいのかな?」
「俺は、絶対その方がいいと思う。それに、かっこいいじゃん」
「何が?」
「正体を明かさない正義のヒーローって」
「……」
そんなの求めてない。
とりあえず、もう少し考えた方がいいのだろう。
少なくとも、天音の中に迷いが生まれてしまった以上、そのまま話す気にはならなかった。
◯
ギルドに到着して着替えると、いつも通り受付に向かう。
その手には探索の計画を記載したシートがあり、70階以降探索時間二時間とだけ記入していた。
「今日は70階から探索を開始します」
「承りました。この階に到達可能な探索者は限られていますので、ご注意下さい」
「はい」
もしも、時間までに戻って来れなくても、救援には行けないぞという意味だ。
このギルドに、70階以上探索しているのは、天音と白刃の船団のみ。とてもではないが、助けに行けるような探索者は用意出来ない。
それを承知の上で、探索をしている。
失敗すれば命はない。
それが、上位の探索者という存在だった。
申請も終わったのでダンジョンに行こうとすると、受付のお姉さんに呼び止められてしまった。
「ねえねえ、福斗君。あなたに会いたいって人がいるんだけど、いつか時間空いてない? ……あからさまに嫌な顔しないでよ、私達も頼まれた側なんだから」
天音の経験上、それは面倒ごとが舞い込んでくる前兆だ。
だから、顰めっ面になるのも仕方ないだろう。
「その、会いたい人っていうのは、どなたですか?」
「雷鳴の船団の鳴上雷太さんなんだけど、一度会っておきたいって言っているのよ」
「雷鳴の船団?」
どこかで聞いたような気がする。
だけど思い出せなくて、更に眉を顰めてしまう。
「新しく設立された船団らしくて、ある任務で来ているんだって。福斗君も知ってるって聞いたんだけど……」
それを聞いて、あっと思い出す。
サクラと天音を護衛する為に、船団を一つ連れて来ていると言っていた。
思えば、一度も顔合わせをしていないので、会っておくべきなのだろう。
「分かりました。十七時以降ならいつでも大丈夫です」
「承知いたしました。先方に確認取れ次第、連絡致します」
フレンドリーモードから一気に仕事モードに入るお姉さん。
この切り替えが凄いなぁと、己の事を棚上げにして思う天音であった。
◯
雪の世界を駆け抜けて行く。
道中に無数のモンスターが現れるが、それらを振り切ってひたすらに疾走する。
風を纏い、身体強化を施し、次の階層に向かう為にひたすらに爆進する。
モンスターは天音を察知出来ても、その速さから付いて行けない。
時速で換算すれば、三百キロは出ており、戦闘になればそれ以上の速度も出せる。
ただし、今もガンガンと魔力が消費されており、この速度で駆け抜けるのは持って三時間が限界だろう。
71階に来てから、一時間近くが経過しようとしていた。
「……あった」
最速の上、最短距離で一時間。
それが、71階からの探索に必要な時間だった。
「残り魔力は十分にあるけど、戦闘も熟すとなると時間を掛けた方が安全かな」
本来、ダンジョンはタイムアタックをするような場所ではない。
十分な準備をして、時間を掛けて地道に探索して行く場所だ。
だから、この探索方法は適切ではない。
百々目から80階までの地図を貰っているとはいえ、そこまでの道は慎重に行くべきなのだ。
それに、全てのモンスターを振り切れた訳でもないのだ。
「結構集まって来てるな」
振り返ると、多くのモンスターが天音を追って来ていた。
魔力を高める。
魔力による装甲を纏って、一撃で葬ることは可能だろう。
だが、それをやれば、天音は弱くなる。
圧倒的な力に頼るだけの、弱者になってしまう。
力に溺れた愚か者になってしまう。
そうならない為に鉈を握り、モンスターに挑むのだ。
天音はアクセルを使い、モンスターとの戦いに身を投じた。




