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 榊原が参加したパーティは、以前は四人目がいた。

 以前にいた子は前衛を勤めており、後衛ばかりのパーティの中で、たった一人でモンスターの行く手を阻んでいた。


 女子ながらに体格も良く、武道経験者というのもあり腕前もかなりのものだった。


 だが女子だ。

 たった一人で、モンスターの攻撃を受け止め続けられるほど強くはない。というより、そんなの男でも無理である。


 それを、本人から不満が上がらないのをいい事に、一人に任せてしまった。


 だから爆発したのだ。


「私、もう探索者辞める! もうこんな危険な目に遭いたくない!」


 一人で耐えていた彼女は、仲間達にそう告げて去ってしまった。

 同じ女子校というのもあり、なんとか戻ってくれないかと説得するが、頑として首を縦に振らなかった。


 このような状況になり、ようやく三人は自分達がして来た事を振り返り気付いた。

 完全に一人に責任を押し付けて、自分達は安全圏から魔法や武器で攻撃しているだけなのだと。


 このパーティは四人もメンバーがいながら、まともに戦っていたのは一人だけだったのである。


 それは愛想も尽かされるし、見捨てられるなと納得する三人。

 なので、どうすれば良いのか話し合った。

 この三人では、正面からモンスターとやり合うのは無理だ。バリバリの後衛とサポート役のスカウトでは、あっという間にモンスターにやられてしまう。


 じゃあ、どうするのか?

 新たな仲間を募ろうとなった。


 だが、前と同じでは意味が無い。

 また同じように、愛想を尽かされるのは目に見えている。


「私達も成長するのよ! もっと力を付けるのよ!」


 星奈は二人に宣言して、課題を与えた。

 野地には回復魔法の習得を、一重には素早い動きを活かした攻撃手段を、そして自分には付与魔法という難易度高めの魔法を課題にしたのである。


 その成果もあり、半年後には四人で潜っていた階層にまで三人で到達出来た。


 これなら、新たな仲間を迎え入れても大丈夫なはず。


 そう思い、新たな仲間を勧誘する。

 どんな子が来るだろうか?

 初心者だとしても、私達でサポートしてあげよう。

 そう決意して望んだ勧誘だが、良い意味で裏切られる。


「しっ!」


 身体強化を施した歳下の女子が走る。

 長い黒髪をポニーテールにしており、表情も変わらず冷たい印象を受ける彼女だが、その戦闘スタイルは苛烈な物だった。


 振り下ろされた戦斧がワイルドボアを一撃で葬り、オークと正面から打ち合い、圧倒して倒してしまう。

 残りのモンスターもあっという間に倒してしまい、その戦闘能力の高さを窺わせる。


「レナって凄く強いのね」


「これくらいは訓練の度にやっていますから、大した事ありません」


「大した事ないって、そんなに過酷な訓練なの?」


「いつもギリギリを攻めて来ます。体力と魔力を限界まで使って、モンスターを相手にしてます」


「それは過酷ね、測定の数値もめちゃくちゃ高そうだわ」


「……測定って、探索者の素質を見極めるっていうやつですよね?」


「そうよ、因みに私は93点でかなり高かったわ」


「私は82点」


「88点だったよ」


 点数を言った順番は星奈、野地、一重の順番だ。

 三人とも高得点を叩き出しており、素質は十分にあると思われる数値だった。


「レナは?」


 三人とも言ったのだから、当然、榊原も答えるのだろうと思っていたが、一向に言わないので聞いてみる。


「私は測ってないです。師匠が、あの数値に意味は無いと言うので、先入観を捨てる為に測りませんでした」


「どういうこと?」


 榊原は天音に聞いた言葉をそのまま告げる。


 素質の測定では、一定の体力と魔力量だけが測れるだけで、その成長速度を考慮していない。また、状況の判断能力や戦闘技術が分かるわけではないので、数値が高いイコール探索者としての才能には結び付かないという。


「そもそも、師匠は数値が測れなかったみたいなので、何の当てにもならないと言っていました」


「そ、そうなんだ……」


 星奈は悩む。

 探索者を始めたきっかけが、この数値の高さを見てからだったからだ。


 これって、私のアイデンティティー壊れないか?


 ここまで、この数値を信じて来たというのもあり、それが揺らぐ情報は深刻な物だったりする。


「でも、星奈さん達を見ると、その数値も案外馬鹿に出来ないのではないかと思っています」


 ここに来るまでに、星奈達もモンスターと戦う姿を見せており、榊原の中では思ったよりやる人達、という上から目線の位置付けをしていた。


「でしょ! やっぱり数値も馬鹿には出来ないのよ!」


 しかし、榊原に評価されて再び自信を持つ事が出来た。



 その後も、四人での探索は続いていく。


 星奈の付与魔法の効果を試したり、野地の回復魔法の効果を確認したり、一重の索敵能力の高さを実感したり、四人での連携を試してみたりと行い、着々と先を進んで行く。


 榊原は思っていた以上の戦いやすさに驚いていた。


 的確な指示を出してくる星奈。

 正確な魔法を放つ野地。

 手の回らないモンスターの気を引く一重。


 誰もが役割りを全うしており、榊原自身も目の前のモンスターに集中すれば良く、満足のいくパフォーマンスを行えていた。


「どう? 連携に慣れて来た?」


「ええ、サポートしてもらえて、かなり戦いやすいです」


「本当⁉︎ やったね、私達ちゃんと成長してるよ!」


 喜ぶ星奈は仲間とハイタッチを交わす。

 これまで頑張ったのも、前衛に負担を掛けないようにという目的があったからである。それが、榊原の言葉で報われたような気がしたのだ。


 榊原は、なんだか愉快な人達だなぁと思いながら、その喜ぶ姿を見ていた。


 雑談をしつつ、ダンジョンを進む。

 周囲の警戒を怠っている訳ではないが、完全に上位互換の索敵能力を持っている一重の存在に、榊原は安心していた。


 だから、きっとこのミスは仕方なかったのだろう。


「この先にモンスターがいる。数は五体から六、いえ七体ね」


 一重の索敵により、モンスターとの接敵に備える。

 現れたのは四体のオークと、二体のキラービーの混成六体のモンスターである。

 報告よりもモンスターの数が少ないが、これも誤差の範囲だろうと一重以外は気にしていなかった。


「レナ、モンスターを引き付けて。メルは援護。芽吹は私と魔法の準備。合図したらぶっ放すから離れて。今から付与魔法を掛ける」


 星奈の付与魔法と同時に、其々が動き出す。

 身体強化と付与魔法によるフィジカルアップの効果を受けて、榊原は一気に疾走する。

 戦斧は一体のキラービーを切り裂き命を絶つと、その勢いで正面からオークに斬り掛かる。

 しかしその一撃は、ギンッと甲高い音を立てて、オークの斧に阻まれてしまう。


 そこに、一重が投げたナイフが通過して、オークが一瞬怯む。


「はあー!」


 即座に戦斧を引いた榊原は、後退しながらオークの足を切り飛ばす。

 片足を失ったオークが悲鳴を上げて、ドウッと倒れる。そこに仲間のモンスター、オークやキラービーが迫る。


 榊原は戦斧を巧みに扱いながら、オークの単調な攻撃を避け、逸らし、カウンターを合わせてダメージを負わせていく。

 キラービー空中から迫って来るが、一重が投げナイフや投石により榊原に向かわないようにしていた。


 やりやすい。

 榊原は、師匠である天音による指導の時よりも、この確かな手応えに心を震わせていた。


「離れて!」


 星奈の合図を聞いて、一気に後退する榊原と一重。

 そのタイミングで、二人の魔法使いから魔法が放たれる。


「アクアランス」


「サンダーボルト!」


 野地の杖先から五本の水の槍が飛び、息のあるモンスター達を貫いて行く。そこに星奈の雷撃魔法が襲い、水の槍を伝って体内から焼いてしまう。


 これがパーティの力。

 全滅したモンスターの姿を見て、榊原は感心する。

 一人だと時間も掛かるし、下手すれば負けていたかも知れない相手。それを、こんなにもあっさりと勝利してしまった。


「福斗さんが言うのも納得」


 これは経験しなければ分からなかった。


 お疲れ様と声を掛け合う三人を見て、このパーティは仲が良く、互いに理解し合っているのだろうと察する。


 このパーティに参加すれば、私も深い階層まで探索出来る。そう確信は出来た。


 だからこそ声を張り上げる。


「後ろ! 避けて!」


 危険が迫っていると、油断した星奈達に向けて叫んだ。

 三人は一度榊原を見ると、「え?」と分かっていない様子で振り返る。

 そこに迫って来た枝の腕によって、三人まとめて薙ぎ払われた。


「みんな⁉︎」


 近くの木に叩き付けられた三人を見て、心配して声を上げる。かなりの勢いで叩き付けられていたが、三人とも意識はあり、よろよろと顔だけを動かして攻撃して来た敵を見る。

 それに吊られるように、榊原も顔を動かしモンスターの姿を見た。


 それは木のモンスター。

 名前はトレントと言う、この階には存在しないはずのモンスターだった。


「どうしてここに⁉︎」


 疑問を口にする榊原だが、そんな事はモンスターには関係ない。

 トレントは蔦を伸ばすと先を尖らせ、止めを刺そうと倒れている三人に向けて一直線に飛ばした。


 その動きを見ていた榊原はすでに動いていた。

「させない!」そう意志を叫び、即座に身体強化を施して戦斧で蔦を叩き斬り、三人を守るようにトレントと対峙する。


「動ける? ポーションはある?」


 後ろを見ずに聞くと、「ごめん……回復するから、少しだけ時間稼ぎお願い」と星奈が答えてくれた。

 それに頷いて答えると、榊原は目の前の敵に集中する。


 ここで攻撃を防がなければ、三人に命はない。

 絶対に背後には行かせない。


 覚悟を決めて、戦斧をブォンと振る。

 戦斧の間合いの確認、身体強化があとどれだけ持つかの確認。


 さあいつでも来い。

 構えると同時に、無数の枝が榊原を襲う。


 ガガガッ!! と激しい音が鳴り響き、大量の木片が飛ぶ。


「ふぅー」


 息を吐き出し、続くトレントの攻撃に合わせて戦斧を高速で振るう。

 全力の身体強化。

 最速で武器を操り、全ての脅威を排除していく。

 この状態を、いつまでも維持できるものではない。


 枝による攻撃が止み、次は大きくしなった太い蔦が振るわれる。

 ブォン! と空気を裂きながら迫る蔦。


「はあー!!」


 それに合わせて戦斧を振り、僅かな抵抗を感じながらも半ばから両断して見せる。


 背後で息を呑む音が聞こえる。

 どうやら治療は終わったようで、三人が動き出す気配を感じ取る。


「ごめん、迷惑かけた! レナは好きに動いて、メルはレナをサポートして! 芽吹は私と火属性魔法の準備! 残りの魔力量には注意して!」


 付与魔法を準備を行い、近付きながら指示を出す星奈。

 それに頷くのを確認して、全員に付与魔法を掛けた。


「右から行きます」


 榊原は一重に告げると、一気に駆け出した。

 それに合わせるように、トレントも動き出す。全ての攻撃を防がれた事により、トレントの意識は榊原に集中していたのだ。


 それを理解しながらも、榊原は足を止めない。

 付与魔法の効果時間は三分もなく、身体強化可能な時間も殆ど残されていなかった。


 だからこそトレントを削るだけ削り、魔法による攻撃の効果を上げる必要があった。


 無数の枝が襲って来るが、避けるのは難しくない。

 ジグザグに避けて、邪魔な枝を排除して、トレント本体に接近する。地中から蔦が伸びて来るが、それを大きく跳躍して避ける。


「はあー!!」


 幹竹割りに振り下ろされた戦斧は、トレントの本体に深く突き刺さり大きく削り取る。

 地面に着地すると同時に、横薙ぎに戦斧を払いトレントの半ばまで深く突き刺さり、途中で止まってしまった。


 それを見て、急いで戦斧を引き抜こうとするが、それがいけなかった。

 細い蔦がトレントから伸びて来て、榊原を拘束しようと動いたのだ。


「くっ⁉︎」


 戦斧から手を離して逃れようとするが、判断が遅かった。蔦が手足に纏わり付いてしまい、身動きが取れなくなってしまったのだ。

 そこに、まるで影のように動いていた一重が走る。


「動かないでね」


 そう告げると、トレントの蔦を切り裂いて榊原を解放する。更に、自由になった榊原の体をキャッチすると、急いでその場から離れた。


 同時に森が炎に照らされる。

 星奈と野地は魔法の準備を終えたのである。


「フレイムボム」


 二人同時に放たれた魔法は、赤い炎の塊だった。


 トレントに着弾すると激しい爆発を巻き起こし、本体を焼いていく。

 

「ハルちゃん!」


 それを見て、榊原はトレントに向かって手を伸ばす。

 いや、伸ばしているのは、師匠に貰った大切な武器に向かってである。

 戦斧のハルちゃん。

 大切にする為に、名前を付けていたのだ。

 初めて師匠から買って貰った宝物。

 それが、炎に巻かれてしまった。


「やったわね! レナもありがとう、貴女がいなかったらやられていたわ」


「ハルちゃん……」


 星奈からの感謝の言葉も、炎の中にある戦斧が心配で耳に入って来なかった。

 その様子を困ったように見ている三人は、榊原同様、ここまでの探索で魔力が尽きかけていた。

 今回の探索はここまでだなと思い、ダンジョンからの帰還を考える。


 もう少し行けなくもないが、榊原も武器を失ってしまったので、戦力的にも心許なくなってしまった。

 だから、リーダーである星奈は帰還を提案する。


「今回の探索はここまでにしましょう」


「待って……まだ終わってないみたい」


「え?」


「そんな……」


「ちょっと不味いかも……」


 榊原の視線の先には、炎に巻かれたトレントの姿があった。

 だが、トレントは未だ生きており、炎の中だというのに枝も蔦もその本体も健在だったのだ。


 トレントに新たに生えた枝が全力で振るわれると、強烈な風と共に炎は消え去ってしまっていた。


「撤退!」


 トレントの無事な姿を見て、即座に判断した星奈は流石と言えるだろう。指示に反応して、直ぐに動き出した榊原達も称賛すべきだろう。


 だが、全てが遅かった。


「くっ⁉︎」


 周囲はすでに、他のトレントに囲まれていたのだ。


 いつの間にか包囲されており、そのトレントの大きさも様々だった。

 ただ、先程まで戦っていた個体よりも一回り以上小さく、強さもそれほど感じなかった。


 だからと言って、この絶望的状況に変わりはないのだが。


「一重さん、ナイフを一本貸して下さい」


 横から差し出されるナイフを受け取り、腰を落として構える。

 榊原にナイフを使った経験はない。

 それでも、戦斧が無い以上、予備のある武器を借りるしかなかった。


「どれくらい戦えそう?」


「身体強化は持って一分といった所です。皆さんの魔力は?」


「もうほとんど残ってない」


「私も」「同じく」


 榊原を除いた三人は、魔法を一度でも使えば魔力切れにより動けなくなるだろう。榊原も少しの間戦えるだけで、勝ち目は僅かにも無い。

 だったらと覚悟を決めて、身体強化を施す。


「強行突破します。着いて来て下さい」


「無茶じゃない」


「無茶とかはどうでもいいんです。やらなきゃ、私達は死ぬんです」


 三人の反応を待たずに、榊原は駆け出した。

 うだうだ喋っている間にも、トレント達は距離を縮めて来ているのだ。


 榊原が動き出したのを見て、三人も覚悟を決めて後を追うように走り出す。


 トレント達の動きは遅かった。

 最初に戦った大きな個体と比べて、枝を振り回しているだけで避けるのは容易い。が、それは榊原の場合だ。スカウトの一重も難なく避けられるが、星奈と野地には無理な芸当だった。


「はあ!」


 使い慣れてないナイフで斬り上げ、トレントの腕を逸らす。斬り落とすイメージだったのだが、伴わない結果に戦斧との違いを実感する。


 これはまずいかも。

 横薙ぎに振るわれた枝に添わせるようにナイフを当て、上に逸らすように誘導する。


「くっ⁉︎」


 しかし、その衝撃は相当なもので、手が痺れナイフの刃が欠けてしまった。

 それだけではない。

 他のトレントが、星奈達に攻撃を加えようとしていたのだ。


 それに気付いた野地が、倒れるのを覚悟で速射可能な風の魔法でトレントを退かせる。


「芽吹⁉︎」


「行って!」


 星奈が倒れる野地に手を伸ばそうとして、それを拒否される。自分を見捨ててくれと、笑顔を向けていた。

 全ては仲間を生かす為。

 

 自己犠牲により仲間が助かるのなら、それはそれで美談だっただろう。


 だがそれを良しとする奴なんて、仲間ではない。

 それにここは無茶をする所だと、皆が認識していた。


「やらせない!」


 星奈が全力の魔法を放ち、野地を狙うトレントを後退させる。

 そのすきに、一重が身体強化をして野地を回収して、倒れようとしていた星奈を抱き抱える。


「無茶し過ぎだって」


「今回だけだよ」


 二人を抱えた一重は、榊原を追おうとして木の枝に殴り飛ばされた。


「みんな⁉︎ どけー!!」


 飛ばされた三人はダメージと魔力不足により、横たわって動けなくなってしまった。

 そんな三人の元に向かいたいが、トレント達が邪魔で進めない。それどころか、攻撃を避け切れずに受けてしまい、ナイフまで失ってしまう。


「くっ!」


 だからなりふり構わず駆け出した。

 トレントが狙っているのは倒れている星奈と野地、一重の三人だ。弱っている所から狙うのは、人もモンスターも違いはない。


 だから救わなくてはいけない。

 残りの魔力を使って、三人を抱えて脱出するのだ。

 どこまでも足掻く。

 そう師から教えられ、魔力が切れようとも動けと叩き込まれているのだ。


 枝を避け、食らっても大した事ないと自分に言い聞かせて必死に走る。


「はあ! はあ! はあ!」


 息を切らせながらたどり着くと、ぼろぼろの体で三人を背負い、移動しようとして力尽きてしまった。


 魔力が切れたのだ。

 それでも三人を背負って動こうとするのは、榊原が誰も死なせたくないと思っているからだ。


 多くのトレントが四人を狙って迫って来る。


 もしも、榊原一人だったら逃げるのは難しくなかった。

 もしも、状況が違えば、星奈はトレントと戦わなかった。

 そもそも榊原に彼が告げていなければ、ここまで来る事はなかっただろう。


「だからって、こんな無茶しなくても良いんじゃないかな?」


 瞬きをする間に、全てのトレントが崩れ落ち、ただの木片と化した。





 やってしまったと後悔する。


 彼女達が実力以上の相手に向かって行くのを見て、どうしてそういう行動に出たのか考える。

 これまでのリーダーの判断は的確で、引き際も弁えていた。魔力量にも気を配っており、仲間達の体力にも注意している人物だった。


 そんな人がどうして、こんな行動を?


 すると、一つの可能性が思い浮かんだ。


〝離れた所からは見守っているから安心して〟


 この余計な一言で、彼女達の判断を誤らせてしまったのではないかと。


 いざとなれば助けてくれる存在。

 その価値は、ダンジョンでは驚くほどに高い。

 命が保証されているという安心感は、ダンジョンではまず得られる物ではない。本来ならそうなのだが、圧倒的強者が共にいるというのは、それに近い安心感を与えてしまっていた。


 天音という存在はそれだけの価値があり、それは彼女達にとってもチャンスだったのだ。


 今の自分達が、どこまで出来るのかと確認するための。


 これは、時雨に師事していたときに天音もやってしまった失敗だった。


「これは僕のせいだな」


 過去の失敗を忘れていた。というより、同じ失敗をこの四人がするとは思わなかった。


 倒れた四人を見て、反省のため息をつく。

 これが癖になったら、まずダンジョンでは生き残れない。


「帰ったら叱って、二度と同じ事しないように言わないとな」


 どうやって説教しようかと考えながら回復魔法を使い、四人の治療を行う。


「ところで、どうして最後に倒れた三人に駆け寄ったの? まだ耐えられたでしょ?」


 気を失ったフリをしている榊原に問い掛ける。

 以前と同じ狸寝入りをしており、呼吸が浅く眼球の動きからバレバレである。


 ギクッと動いた榊原は目を開けて、天音を見る。

 魔力不足で動けないのに変わりはなく、横になった状態で答える。


「その、福斗さんならどうするだろうって考えたら、こうしちゃいました……」


「……んー……、僕の真似はしなくて良いからね。生き残る事を考えて動いてね」


 もし、天音が同じ状況になったらどうするか考えてみる。すると、同じように動くだろうなぁという結論になり、何とも言えない気持ちになった。


 その後は、大きな木を加工して箱にすると、四人を乗せて地上に戻った。

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