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あの後、地上に戻ると四人に向かってこんこんと説教した。
ただ、怒るのに慣れていないので、どうしてそういう事をしたのかというのを問い続けるだけになってしまったので、効果があるのかは分からない。
「今度、怒り方も覚えないとな」
「どうしたの、怖いこと言って」
先日の反省をしていると、魔力を流してくる百々目が疑問の声を上げる。
今は魔力操作の訓練中である。
百々目から流れ込んで来る魔力にも対処出来るようになっており、考え事をしながらでも自然と熟せるようになっていた。
「この前、教え子が危険な行動をしてたんで怒ったんですけど、それが伝わっているのかどうか分からなくて……」
「教え子ってレナちゃんだっけ? お説教のあと、クリスマスデート誘われてたから、伝わってはいないんじゃない」
「……見てたんですか?」
「ネタ集め中に偶然」
そんなはずはない。
四人の説教は、ギルドの一室を借りて行っており、部屋には他に誰もいなかったはずだ。
少なくとも天音の知覚ではそうであり、それ以上の実力者には通用しないものでもある。
そして、目の前にいるのは、天音よりも上位の百々目である。
「で、クリスマスは遊びに行くの?」
「行くって言っちゃいましたからね……」
最初は断っていたのだ。
だが「どうしてですか?」「他の女と予定ですか?」とグイグイ来る上、いつの間にか壁際まで追い詰められていたので、思わず行きますと言ってしまったのだ。
「格好は私が考えてあげるから、安心して」
「何でそうなるんですか?」
突飛な発言に拒絶したい思いだが、そんな余裕も無くなって来た。
「余裕みたいだけど、ペース上げるよ」
「そういうのはやる前に、教え、くっ⁉︎」
魔力の循環速度が一気に上がり、天音の魔力操作能力では追い付けなくなって行った。
最後はいつも通り、トイレに直行して終わりを迎える。
これまで通りの流れだが、天音の魔力操作能力は格段に上がっていた。
◯
学校の授業が進み、昼食の時間になる。
ぷっちょと高倉くんは、いつも通り学食に行き、天音はいつも通り教室で一人飯である。
二人からは一緒に食べようと毎回誘われてはいるのだが、どうにも学食の混み具合が苦手で遠慮している。
鞄から今朝コンビニで買ったパンと、準備していた小さ目のタンブラーを取り出す。
タンブラーの中身はホットコーヒー(ミルク多め)である。
ここ最近、朝が遅くて、昼食の準備が出来ていない。
理由は、まあ、魔力操作の訓練が原因だ。
早く百々目に帰ってもらいたくて、夜遅くまで集中して自主練に励んでいるのである。
おかげで睡眠時間も削られており、授業中にうつらうつらする事が増えてしまった。
気を引き締めないとなぁと思いつつ、パンの袋を開けようとすると、クラスの女子から話し掛けられた。
「天音くん」
呼ばれて顔を上げると、何故か照れたような仕草をする古城がいた。
「古城さん、どうかした?」
「今日もパン食べてるの?」
「そうだけど」
「これ」
短い言葉で差し出されたのは、黄色い布に包まれた四角い物だった。
なんだろうと受け取ると、それが弁当だと気付いた。
「この前のお礼。その、私に出来る事ってこれくらいだから……」
「えっと……ありがとう、いただきます」
お礼を言うと、古城は安心した表情をしていた。
「食べ終わったら、容器貰うから」
それだけを言って、古城は自分の席に戻って行く。
席の周囲には同級生や榊原もおり、古城に良かったねとわいわいはしゃいでいた。
正直、少し嬉しかったりする。
あの時、お礼はいらないという言葉に嘘は無かった。それでも、こうして形で貰えると心が満たされてしまう。
そう、それが冷凍の惣菜だったとしてもだ。
「……美味しい」
何だか見覚えのある惣菜ばかりだが、味に間違いはなく美味しい物ばかりだった。
これも古城さんをはじめ、多くの企業の研鑽の賜物だろうと美味しくいただいた。
「ご馳走様でした」
パンを鞄に戻して、ホットコーヒーでホッとひと息つく。
空になった弁当箱を返そうと立ち上がり、古城がいるグループに向かう。
そのグループは、いつもクラスの中央で雑談しながら昼食を取っている女子グループだ。
稀に男子が混ざっている事もあるが、一度経験すると大抵顔を見せなくなる不思議な空間でもある。そんなグループに近付いて、「古城さん」と声を掛ける。
「ご馳走様、美味しかった」
「本当! 良かった、ママと一緒に作った力作だったから、喜んでもらえて嬉しいよ」
力作? レンジで……、と、これ以上はいけないなと自重する。
弁当箱を渡して、じゃあと言って去ろうとすると、何を思ったのか周囲の女子達が天音を引き止める。
「ねえ、天音くんって普段何してるの? 部活やってないよね」
「身長高いよね、何センチ?」
「高倉くんと仲良いんだよね、今ってフリーなの?」
「真希を助けてくれたんだよね? あそこまでどうやって行ったの?」
「探索者やってるって本当? 荒々井を殴り飛ばしたって聞いたけど……」
などなどと質問されて、適当に返していく。
普段はバイトだとか、身長は測ってないから分からないとか、高倉くんは……さあどうだろうとか、偶然人に聞いたとか、バイトが探索者だからとか、適当に答えて行った。
そんな風にしていると、失礼な質問が飛んで来る。
「天音くんって彼女いるの?」
「いるように見える?」
「だよねー」
クスクスと笑い出す女子達。
そんな中で、古城の雰囲気が明るくなったような気がした。
「じゃあさ、誰かに告白されたら付き合っちゃう?」
「付き合わない。今はまだ、そういう時間が取れないんだ」
天音のよく分からない返答に、今度は困惑する女子達。
残念ながら、今の天音に異性と付き合う余裕はない。
来年には日本が滅びる規模の、ユニークモンスターによる襲撃があり、それに勝つには天音の力が必要だと告げられているのだ。
それを真に受けている訳ではないが、もしも、もしもサクラの予言が真実なら、日々の修練もサボる訳にはいかなかった。
「じゃあさ、レナが付き合ってって言ったら?」
何故か榊原が引き合いに出される。
その発言をした女子を榊原が睨んでおり、変なことを言うなと視線で告げていた。
「変わらないよ、僕には余裕がないからね」
話は終わりかなと思い、古城に「お弁当ありがとう」と再度お礼を言って席に戻ろうと振り返る。
「…………」
そこには、額に血管を浮かせたぷっちょと、困った様子の高倉くんが天音の席にいた。




