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037 最年少Dランクパーティ

 ダンジョンボスのゴブリンキングを倒し、レイたちはダンジョンの外へ出てきていた。


「夕暮れまではまだ時間があるから、あといくつかダンジョンを回ろうか。」


「それは良いのですが……あの方々はここに放置されていくのですか?」


「んーーっっ!!」


 アルの指し示す先には、ダンジョンの入り口付近という目立つ場所で、手足を縛られ、ひとまとめにされた【荒野の蛇】の面々が何かを訴えるように叫んでいた。

 しかし、口に巻いてある布のせいで何を言っているのかは全くわからない。


 加えて、リーダーのニルスの頭には「私たち【荒野の蛇】はFランクパーティに惨敗しました。どうか笑ってあげてください。」と書かれた紙が貼ってあった。


「マリーさんに聞いておいたんだけど、襲撃を受けた場合の正当防衛は、殺さない限りは何してもルールに抵触はしないみたいだよ。場合によっては殺しもアリらしいんだけどね。」


 事前にマリーに確認しておいたレイは、殺さない代わりに、街中に連中の無様を晒すことにしたのだった。


「確かに、彼らにとっては死ぬより屈辱かもしれませんね……」


 アルは、彼らのこれからの生活を想像し身を震わせるのであった。


「……オイラ、レイが味方で良かったよ。」


「ふふっ……レイ様との全力組手を経験しても同じことが言えるのか、見ものですね。」


「大丈夫。今のニケなら一撃で楽になれる」

「耐えられるようになってからが地獄のはじまり」


「オイラ、強くなるのが怖いよ……」


 リリーとふたごの言葉に、強くなるのを恐れるニケなのであった。




 ――――――――――――――――




「お疲れ様でした。試験官からお話は伺っております。」


 夕暮れ前。

 一行は冒険者ギルドに戻り、マリーの元へ来ていた。


「それは話が早い。では、このまま相手が現れないとどうなりますか?」


 【荒野の蛇】は、全員が身動きの取れない状態となっている。

 このままでは、換金勝負どころではない。


「ギルドの営業時間内に現れなければ、自動的にレイ様たちの勝利が確定いたします。」


 ギルドは夜遅くまで営業しているが、それまでに彼らが姿を現す事はないだろう。


「そうですか。その場合、明日からDランクパーティとして行動できるんですよね?」


「はい。冒険者カードの更新がありますので、一度ギルドに寄っていただく必要はございますが、それ以降は、Dランク、Cランクダンジョンへの挑戦が可能となります。」


「いやー、こんなに簡単にランクアップできるなんて思いませんでしたよ。」


 ランクアップのあまりの簡単さに拍子抜けした、というようなレイの様子に、マリーが追加の情報を提供してくれた。


「まだ確定ではありませんが……そうですね。このままいけば、最年少のDランクパーティ誕生となります。」


「最年少Dランクパーティ」

「良い響き」


 「最年少Dランクパーティ」という響きに陶酔する様子のふたご。

 マリーはさらっと告げたが、これは実に、10年ぶりの快挙と言えるものであった。


「更に、Dランクパーティ昇格時のパーティメンバーは、個人の冒険者ランクもEランクに格上げされます。」


 実はEランクの冒険者だったリリーを除けば、全員がFランクであったため、ここでようやくパーティメンバーの個人の冒険者ランクが揃ったことになる。


「ふーん。個人の冒険者ランクが上がることのメリットって、何かあるんですか?」


 パーティのランクが上がれば挑戦できるダンジョンのランクも上がる。

 ランクの恩恵に関してそれしか知らないレイは、個人の冒険者ランクを上げる意味を見出せずにいた。


「ダンジョン都市内ではランク制限をしているお店もあるので、ランクを上げておくに越したことはありません。AランクやSランクにもなれば、お店側が宣伝のために、各種サービスを無料で利用させてくれるようにもなりますよ。」


「へー!色々特典があるんですね。」


 マリーの説明に感心するレイ。

 無料という言葉は、胸を踊らせるものがあった。


「はい。皆様ならきっとSランク冒険者にもなれますよ。」


「ありがとうございます。マリーさんを伝説の受付嬢にできるよう頑張りますね。」


「ふふっ、その時が待ち遠しいです。それでは本日の査定を始めましょうか。」


 軽い冗談を言い合った後、マリーは素材を提出するように促した。


「お願いします。」


 そう言ってレイは、素材袋を取り出した。


「……レイ様、少しお耳を拝借してもよろしいですか?」


 すると、レイの様子を見たマリーがヒソヒソ声で話しかけてきた。


「はい?」


「レイ様は、高ランクの収納袋をお持ちですよね?」


「……」


 今回は試験官の目があったため、通常の素材袋に素材を詰めていたレイだったが、なぜこのタイミングでマリーにバレたのか分からず困惑する。


「警戒しないでください。これを知っているのは私だけですし、口外するつもりもございません。」


「……どうして気付いたんですか?」


「実は、昨日の時点で素材袋の大きさと素材の多さが合わないことを訝しんではおりました……しかし、本日は通常の素材袋を使用されているご様子。今回は試験官の目があったため、使用をお控えになったのでは……と思いまして。」


 冒険者ギルド本部の受付を舐めていた。

 毎日何百人もの査定をしている彼らが、このレベルの違和感を見逃すはずがなかったのだ。


 しかし、この段階でマリーにしかバレていないのは僥倖とも言えた。


「……素晴らしい洞察力ですね。全くもってその通りです。」


「やはり……そういうことでしたら、次回から査定は別室で行われますか?」


「そんなことできるんですか?」


 マリーの提案に驚くレイ。

 それは1級の収納袋を持つレイにとって、願ってもない提案であった。


「これも専属受付の特権です。とはいえ、素材の査定は周りへのアピールにもなりますので、あまり利用される冒険者様はいらっしゃいませんが……」


 冒険者にとって、自分たちがどんなダンジョンに行って、どれだけの素材を集めてきたかを示すためにも、査定の場というのは格好のアピールの場と言えた。


「それもそうですね。でも、もし利用できるならありがたいです。無駄な争いには巻き込まれたくないので。」


「承知致しました。では次回から別室にご案内させていただきます。」


「ありがとうございます。」


 マリーの機転によって、不安のタネが一つ取り除かれた。

 レイは、マリーが専属受付になってくれて良かったと改めて感じるのであった。


「とんでもございません。それでは本日の査定金額は……銀貨35枚ですね。」


「そうですか……Eランクダンジョンじゃここら辺が限界かなー。」


「いや、銀貨35枚って……充分すごいよ。」


 がっかりしたようなレイの呟きに、通常の価値観を説くニケ。


「あー、早くDランクダンジョン行きたいなー!」


 明日から解禁されるDランクダンジョンを心待ちにするレイ。

 レイの頭では、昇格試験の勝利は既に確定したものとなっていたのだった。




 ――――――――――――――――




 次の日の朝、レイたちは冒険者ギルドへ来ていた。


「それでは皆様、冒険者カードをお返しします。」


 【荒野の蛇】はあれからギルドには来ていないため、昇格試験における【執行者】の勝利が確定していた。


 そのため、レイたちはDランクパーティとして冒険者カードの更新を終え、マリーからカードを返却されているところであった。


「ありがとうございます!よーし、早速今日はDランクダンジョンに挑戦するよー!」


「「「おーー!!」」」


 レイの掛け声に、ニケとふたごが元気よく反応する。


「あの、マリーさん。」


「どういたしましたか?アル様。」


「【荒野の蛇】の皆さんは、まだ小鬼ダンジョンの前に放置されているのでしょうか?」


 アルは、グルグル巻きにして放置していた【荒野の蛇】のその後を心配していた。

 悪者とは言え、さすがにあのまま死なれては寝覚めが悪いと感じていたのだ。


「それでしたら今朝、ギルドの方で解放させていただきました。いつまでもあの場所に滞在されると他の冒険者様の迷惑となりますので。」


「それはよかった。お手数おかけ致します。」


 自分たちの尻拭いを、ギルドがしてくれたことに感謝するアル。


「とんでもございません。ギルドとしても彼らの行為は目に余るものがございましたので、正直胸がスッといたしました。」


「ギルドも大変なんですね。」


「冒険者様ほどではございませんよ。それで、本日はどのダンジョンに向かわれるのですか?」


「実はそれをマリーさんに相談しようと思ってたんです!」


 アルとマリーの会話に、レイが割り込んできた。


「そうですね……Dランクで代表的なダンジョンといえば、蝙蝠ダンジョン、狼軍ダンジョン、苗床ダンジョンが挙げられます。」


「それぞれどんなダンジョンなんですか?」


「蝙蝠ダンジョンは、Dランクで一番難易度が低いダンジョンとして有名ですが、飛来する蝙蝠への対処が必要となります。」


 蝙蝠ダンジョンの説明を聞いて、レイは一つあることを思い出していた。


「もしかしてアンネさんの蝙蝠料理って……」


「そのとおり!蝙蝠ダンジョンの魔物を調理してるんだよ!」


 アンネのお店で調理している蝙蝠料理は、蝙蝠ダンジョンに出没する魔物の素材を冒険者ギルド経由で買い取っていたのだ。


「それなら、素材を持って帰れば喜んでくれるかもしれないね。」


「オイラ、アンネさんにはすごくお世話になってるから、たくさんやっつけて持って帰るよ!」


「……蝙蝠料理を出すお店があるのですか?」


 ふたりの会話に、マリーは耳を疑った。


「僕たちが泊まっている宿の店主の得意料理なんですよ。」


「ユ、ユニークな宿なんですね。」


 いつもは冷静沈着なマリーであったが、この時ばかりは動揺を隠すことができていなかった。


「そうだ、今度マリーさんも来てくださいよ!蝙蝠料理美味しいですよ!」


「……ま、前向きに善処する方向で検討させていただきます。それでは続いてのダンジョンですが――」


((((あ、逃げた。))))


 その場にいた全員が、マリーのあからさまな逃亡を心の中で指摘するのであった。


「狼軍ダンジョンは、難易度的にはDランクのちょうど中間くらいと言われていて、狼の群れを相手取る必要がございます。」


「狼か……あんまり良い思い出がないな。」


 この世界に来て、レイが最初に相対した存在こそが狼の魔物だ。

 その魔物に殺されかけたレイは、当時を思い出し苦い顔を浮かべる。


「最後に、苗床ダンジョンはDランクの最難関ダンジョンとされており、力の強いオークを相手にするため、一撃が命取りとなるダンジョンです。」


「力が強いだけですか?それだけなら、分かっていればいくらでも対処できそうですけど……」


「苗床ダンジョンが最難関である理由は、もうひとつございます。」


「もうひとつ?」


「はい。オークという魔物は、自種族以外にも、異種族の女性を苗床として繁殖を行う特徴があるのです。」


 ダンジョンの魔物は、ダンジョンが産み出しているのだが、当然、魔物同士による繁殖も行われている。


 その中でもオークという種族は特殊で、自種族だけでなく、他種族の女性を襲って子を産ませるという習性が広く知られていた。


「なるほど……女性がいるパーティは心理的なストレスを抱えたまま、戦いに臨む必要があるわけですね。」


「おっしゃる通りです。」


 男性は即座に殺されるが、女性は負けた後にも地獄が待っている。


 女性冒険者にとって、苗床ダンジョンには死を超えた恐怖があると言えた。


「うちは女性が2人いるから考えものだね。」


「……」


「どうしたのニケ?」


 黙ったまま滝のような汗を流し始めたニケを気遣い、声をかけるレイ。


「えっ?ううん!別になんでもないよ!」


「そう?なんだか汗かいてたから。調子悪いなら言ってね?」


「本当に大丈夫だから!そんなことより、今日はどのダンジョンに行くんだい?」


 心配するレイに対して、ニケは強引に話題の転換を図る。


「今日はひとまず蝙蝠ダンジョンに行ってみようかな。アンネさんにも喜んでもらいたいし。」


「それが良いよ!よーし、それじゃあ蝙蝠ダンジョンへしゅっぱーつ!」


 ニケは尚も、額から汗を流していた。


(レイ様、気づいてないみたいですね。)

(アルもベルも、気づいてない)


 レイから女性として認識されているリリーとリルは、何かを知っているかのように囁き合うのだった。

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