036 昇格試験2
レイたちが順調にダンジョン攻略を進めていく中、後ろからついていくニルスたちは【執行者】の戦力分析を進めていた。
「……あのふたごのガキ、中々やりやがる。」
「たしかにな。だが、ニケと神官みてえな格好した女は戦力外だろうから、総合力で言えばこっちが上だろ。」
ニルスの意見に同調するウーヴェだったが、最終的には希望的観測で戦力分析を行っていた。
「バカが。油断すんじゃねえって何回言えば分かんだよ。実力を知ってるニケはともかく、他の奴らの実力は全員ふたごのガキ以上だと思っとけ。」
「ちっ。分かったよ。」
油断するウーヴェを諫めるニルス。
ウーヴェは不承不承というようにニルスの諫言を受け入れた。
(ふたごのガキは確かに強え……が、勝てない相手でもねえ。あとはリーダーの力量だが……)
そう思いながらレイの方へと目を向けるニルス。
その額には、薄らと汗が滲んでいた。
(信じたくはねえが、格上の雰囲気がしやがる……)
冒険者ギルドにいた時とダンジョンに入った今とでは、レイの放つ雰囲気はまるで変わっていた。
これは、ニルスたちによるダンジョン内での追跡が、レイの警戒心を上げさせたことに起因していた。
「おい、オメエら。作戦を伝えるぞ――」
レイの戦力が未知数な中、ニルスはパーティメンバーを集め、襲撃作戦の詳細を伝えるのであった。
「ふうっ。問題なくボス部屋前に着いたわけだけど……」
何事もなくボス部屋の前までやってきたが、事はレイの予想通りに動き始めた。
「まあ、何にもないわけがないよね。」
「オメエらなかなか強ぇじゃねえか。こちとら、勘違いしたルーキーにお灸を据えてやるくらいの気持ちだったってぇのによぉ。」
レイたちの後ろから声をかけてきたのは、【荒野の蛇】のリーダー、ニルスだった。
「それは災難でしたね。」
煽っているとも取れるレイの言葉に、ニルスは怒る様子もなく交渉を持ちかけてきた。
「だからよ。取引しねえか?」
「取引?」
「ああ。俺たちが負けたフリしてやるからよ、その代わりに金貨20枚でどうだ?」
どこかで試験官に見られているというのに、堂々とした八百長を仕掛けてきたニルス。
加えて、当初の罰金である金貨10枚の、2倍の金額を吹っかけてきた。
「……どう、とは?」
「なに良い子ぶってんだよ。お前ら俺たちに勝てばDランクパーティなんだぜ?しかも俺たちは、Fランクパーティに負けたとあっちゃ街中の笑いものだ。金貨20枚でも安いくらいだぜ。」
金貨20枚の正当性を訴えるニルスだったが、そもそも戦う気満々のレイにとって、この提案にはなんの魅力もなかった。
それに、たとえ金貨20枚払ったとしても、目の前の男が約束を守るとは到底思えなかった。
「はぁ。どこまでも頭が悪いなぁ。」
故に、戦闘を望むレイは――
「金貨20枚の価値が、あなた方にあると思ってるんですかぁ?」
――思いっきり煽ることにした。
「くそガキが後悔すんじゃねえぞ!オメエらぁっっ!作戦通りに動けっ!!」
ニルスの叫びに呼応して、【荒野の蛇】のメンバーが動き出す。
向こうもこちらも6人パーティ。
【荒野の蛇】のメンバーは、事前に誰が誰の相手をするか決めていたのか、すばやく位置取りを完了させる。
(1人につき1人相手にするかたちか。僕の相手は……)
「よぉ。リーダー同士仲良くやろうぜ。」
そして、レイの前には【荒野の蛇】のリーダー、ニルスが立っていた。
(こいつさえ足止めしてれば、後は他の奴らがやってくれるはずだ……その後に全員でこいつを倒せば良い。)
ニルスは、もはやレイに単騎で勝つ事など考えてはおらず、他のメンバーが合流するまでの時間稼ぎに徹する構えだった。
というのも、こうしてレイと完全に敵対したことで、ニルスの危機感知が脳内で警鐘を鳴らし始めたのだ。
ギルドで力量を測り切れていなかったのは誤算だったが、足止めくらいならなんとかなるだろうという目論見だった。
――――――――――――――――
【名 前】 ニルス・アピッツ
【種 族】 ヒューマン
【レベル】 40
【体 力】 4,709 / 4,709
【魔 力】 1,147 / 1,147
【攻撃力】 3,875
【防御力】 2,659
【速 さ】 3,093
【知 力】 1,474
【スキル】
危機感知:Lv.3 怪力:Lv.2 瞬脚:Lv.2
――――――――――――――――
(この中で心配なのはニケだけど……これは集団戦の経験を積むまたとない機会だ。うーん、悩みどころだな……)
足止めで頭がいっぱいのニルスとは裏腹に、レイの頭は、対人戦の機会をどう活かすかに思考を傾けていた。
「おい、てめえ聞いてんのかっ!」
ここで自分がレイを引きつけておかなければ、計画が狂ってしまうと考えたニルスは、レイの意識を自分に向けるべく声をかける。
(ニケとリリーは距離が近いな……あそこまで移動したいけど、無傷で移動できちゃうと緊張感に欠けるよね……)
ニルスの言葉など聞こえていないかのように、レイの頭は別のことを考え続けていた。
「無視してんじゃねえっ!!」
そこに、レイの態度に耐えかねたニルスの拳が襲いかかる。
(これだ!)
「ぶっふおぉぉぉぉぉっ!!」
レイは、わざとニルスに殴られたことによって10m近く吹き飛ばされ(跳躍し)、ちょうどニケとリリーの中間の位置に落下した。
「レイ!?」
「レイ様!?」
驚くニケとリリー。
しかし、一番驚いていたのは殴った張本人のニルスであった。
「……は?」
本気で殴りかかったのは間違いないものの、殴った手応えが全くなかったのだから、ニルスが困惑するのも無理はなかった。
「くっ……相手も中々手強いみたいだ。ニケ、リリー!力を合わせて敵を倒すよ!」
ダメージを受けたフリをしながらニケとリリーに声をかけるレイ。
「レイがそこまで言うなんて……わかった!オイラ頑張るよ!」
「え?……は、はぁ。」
素直にレイの言葉を信じるニケと、どこか疑いを持ちながらも応じるリリー。
「僕が敵の動きを牽制するから、ニケはタイミングを見計って罠を!リリーはニケを守って!2人とも、常に相手の動きを見て、考えながら動くように!」
「「了解!」」
レイの迅速で的確な指示によって動き出すニケとリリー。
そこに、既に敵と交戦していたアルが声をかけてくる。
「レイ様!我々はどうすればっ……」
「アルたちは適当に頑張って。」
「えぇっ!!?」
流石に、今回全員の面倒を見るのは無理だと判断したレイは、アルとふたごの指導は諦めることにした。
もちろん、敵のステータスを鑑定した上での判断だ。
「おいこら、さっきからふざけてんじゃねえぞ!」
ニルスが今度は武器を持ってレイに攻撃を仕掛けてくるが、それをいとも簡単に躱すレイ。
さらに、流れるような動きでニケと敵との間に移動し、敵の攻撃を受けた。
「ニケ!近接戦闘じゃまだ敵わないよ!敵から距離をとらなきゃ!」
レイがニケに注意をしていると、横からニルスが追いかけてきて、再度レイに斬りかかる。
「てめえの相手は俺だって言ってんだろ!」
レイは、攻撃してきていた敵を弾き飛ばし、ニルスの斬撃をパシッと掴みながら、リリーにも注意を飛ばす。
「リリー!いつでもニケを守れる位置を意識しないと!致命的な瞬間はいつ来てもおかしくないんだよ!?」
レイの言葉にビクッとしながらも、ニケと自身の位置を調整するリリー。
そんなリリーの様子に、満足そうな笑顔を浮かべるレイとは対照的に、ニルスの顔は見る見るうちに青ざめていった。
「う、嘘だろ……こ、こいつヤバイなんてもんじゃねえ……みんな!逃げ――」
自身の斬撃を素手で止められたニルスは、レイの危険度を大幅に見誤ったことに今更気づき、撤退を宣言しようとするも――
「今良いところなんだ。邪魔しないでよ。」
「ごほぉっ!」
レイの無慈悲なボディブローによって、泡を吹いて倒れるニルス。
これで邪魔者はいなくなったと、汗の出ていない額を拭いながら戦場を見渡すレイ。
「毒罠!」
「良いよニケ!敵が罠にかかった!でも、罠を仕掛ける瞬間足が止まってるよ!」
良い動きをしたニケを褒めたり、注意したりしながら、敵をニケの方へ誘導するレイ。
「あぁっ!敵がひとりそっちに行ってしまった!」
「守護結界!」
「ナイス防御だリリー!前衛の僕がそっちに行くまで結界は解いちゃダメだよ!」
時には敵の攻撃を受け止め、時には敵を誘導し、時には褒めたり注意したりと大忙しなレイに、リリーが声をかける。
「あの、レイ様……」
「どうしたのリリー!?」
「……もしかして、凄く余裕あります?」
とうとうリリーにバレてしまった。
「えっ!?そんなわけないよ!3人相手にするのは大変なんだから!」
「いやでも、既に1人悶絶して動けないみたいですけど……」
ニルスはレイのボディブローで沈んだままなので、レイが相手にしているのは実質2人になっていた。
「それは……そんなことはどうだって良いじゃないか!それよりニケが危ないよ!」
「今、わざと誘導しましたよね!?」
レイはさらにもう一人敵を誘導することで、リリーの意識も誘導しようと試みるが――
「遅くなりました!」
「敵倒した」
「助けにきた」
「あー……ここまでか。」
各々の敵を倒したアルとふたごが合流したため、楽しかった時間もここまでかと、落胆するレイ。
「なんか露骨に残念がってます!?」
「く、くそがぁぁ!舐めた態度とりやがって!ぶっ飛ばしてやる!」
やっとのことでレイのボディブローから復帰したニルスと、残っていた敵の2人が、一斉にレイ目掛けて武器を振るってきた。
「土槍」
レイが、なんの感慨もなく魔法を実行すると、3本の土の槍が現れ、敵目掛けて高速で射出される。
「「「ぐおあぁぁぁぁっ!」」」
土槍が激突したことによって、叫び声を上げながら壁まで吹き飛ばされた3人は、仲良くその場で気絶した。
「さてニケ、初めての対人戦はどうだった?」
3人の結末に興味はないとばかりに、レイはニケの方を振り返って戦いの感想を求めた。
「……オ、オイラ、相手を罠にかけることしか頭になくて、リリーにいっぱい迷惑かけちゃったよ……」
自身の反省点ばかりの戦いぶりに、浮かない顔のニケ。
「うんうん。課題はしっかり把握できてるみたいだね。大丈夫!対策は考えてるから一緒に乗り越えて行こう!」
「レイ……ありがとう!」
レイの優しい言葉に奮起するニケであったが――
「ニケ……騙されてます。騙されてますよ。」
レイが戦場を操作していたことに気づいてしまったリリーは、ニケの純粋さに少しだけ不安を感じていた。
「さて、リリー。」
「は、はい!」
矛先が自分に向いたことで、全身を緊張させるリリー。
「ニケを守り抜けたのは素晴らしいことだけど、随分余裕があったみたいだね?その手についているガントレットは飾りかい?」
「うっ……」
「余裕があるなら牽制くらいはするべきだ。相手を躊躇させれば時間を稼ぐこともできるからね。」
「……すみません。以後気をつけます。」
至極最もなレイの指摘に、ニケの心配をしている場合じゃないと思い直すリリーなのであった。
「アル、ベル、リルは見事だったよ。今回は言うことなしだ。」
レイから何の支援もなく自分たちの敵を撃ち倒し、すぐさま仲間の支援に向かったアルとふたごに、レイは惜しみない称賛を送った。
「ありがとうございます。それで、この方々はどういたしますか?」
「そうだねー。ここでは、冒険者は舐められたら終わり、みたいな風潮があるみたいだから……彼らには終わってもらおうかな。」
レイは笑顔で、倒れている男たちの元へ向かった。
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