035 昇格試験1
次の日、レイたちは冒険者ギルドに行き、マリーに例のパーティを呼び出してもらっていた。
「レイ様、こちらがお探しになっていたDランクパーティ【荒野の蛇】の皆様です。」
マリーが示す先には6人の男たちが立っていた。
中には、先日絡んできたウーヴェとヘルマンの姿も見られる。
「どうも。Fランクパーティ【執行者】のリーダー、レイと申します。」
「お前が、ウーヴェとヘルマンが世話になったっていうガキか。俺はパーティリーダーのニルスだ。うちのパーティメンバーがおいたしちまったみてぇで悪かったなぁ。」
ニルスは、言葉では謝っているものの、表情からしてまったく謝罪の意思が篭っていないのは明白だった。
「いえ、気にしていませんよ。実害もありませんでしたから。」
レイの返しにこめかみをひくつかせるウーヴェとヘルマン。
その様子を横目に、このままではまた騒ぎを起こしかねないと悟ったニルスは、本題へと切り込むことにした。
「……で?俺の勘違いじゃなければ、昇格試験の相手に俺たちを選んだって聞いたんだが?」
「ええ、ご認識の通りです。受けていただけますか?」
Fランクパーティが昇格試験の相手に自分たちを選んできたと聞いたときは、何かの間違いだろうと半信半疑のニルスだったが、レイに真正面から肯定されたことで笑いがこみ上げてくる。
「……くはっ!あっはっはっは!どんだけヘタこいたらガキにここまで舐められるんだよ!なあおいっ!」
「うるせぇっ!あん時は少し油断してただけだ!」
「俺たちのおかげで楽して稼げるんだから、感謝して欲しいくらいだぜ!」
もう勝った気でいるようなヘルマンの口ぶりだったが、リーダーのニルスも、表立ってその慢心を諫めるようなことはしなかった。
むしろ――
「わりぃ、わりぃ。それだけは感謝してるよ。おかげで飲み代には当分困らなくて済む。」
罰金の金貨10枚の使い道にでも想いを馳せているのか、大笑いするニルス。
「……昇格試験を受けていただける、ということでよろしいですか?」
「ん?ああ、もちろんだとも!正々堂々勝負しようじゃねえか!」
正々堂々と言う言葉とは無縁の、胡散臭い笑みを浮かべながら、ニルスは昇格試験を受け入れた。
「それではレイ様。先ほど教えた手順でニルス様に申請をお送りください。」
「分かりました。」
レイは冒険者カードを使って、事前にマリーから教わっていた手順でニルスへ申請を行う。
その申請は、パーティ登録の手順とほぼ同じであったためすぐに完了した。
「パーティ【執行者】の昇格試験要請に対して、パーティ【荒野の蛇】が承諾したことを確認いたしました。それでは、ルールの説明に移らせていただきます。」
マリーさんのルール説明を簡潔にするとこうだ。
両パーティはダンジョンに潜って、換金金額で優劣を競う。
制限時間は、試験を行う日の日暮れまで。
制限時間内であれば、ダンジョンはいくつ梯子しても構わない。
公平を期すため、対象ダンジョンはEランクダンジョンに限定する。
「なお、試験には必要に応じた数の試験官が動員されます。不正が発覚した場合、相手方への罰金金貨10枚に加え、冒険者ギルドへも金貨10枚の支払義務が生じますので、くれぐれも不正はなきようお願いいたします。」
「へっへっへ。不正はしねえよ。不正はな……なあ、受付さん。まだ説明は終わりじゃねえだろ?」
ニルスは厭らしい笑みを浮かべながら、マリーにルールの説明を続けるよう催促する。
「……最後に、ダンジョン内でのパーティ同士の衝突に関しては、死に至らしめるものでない限り、冒険者ギルドはその一切に関与致しません。」
「つまり!相手をボコボコにした上でダンジョンに置き去りにして、その結果、不幸にも相手が魔物に殺られようがそれは不正じゃないっていう認識で良いんだよなぁ?」
そんなことが、不正じゃないわけがない。
誰もがそう考えるような内容を堂々と口にするニルス。
しかし、マリーの返答は――
「……ご認識の通りです。しかし、人の道を外れた行為に関しましては、ギルドからの制裁対象となりますのでご注意ください。」
「わかってるって。……で、試験はいつにする?俺たちは明日にでも初めてもらって構わないぜ?」
「明日ですか……僕たちは今からでも構いませんよ?」
余裕ぶった態度を見せるニルスだったが、レイは全く動じた様子を見せない。
「はっ!良い度胸じゃねえか!ギルドの準備は問題ねえのかよ?」
「ギルド側の準備は既に完了しております。」
マリーは今回のことをレイから持ちかけられた後すぐに手配を進めていたため、試験管の配置などは既に完了していた。
「そりゃ良い!そんじゃあ始めようじゃねえか!」
「それでは、ただいまよりパーティ【執行者】の昇格試験を開始いたします。制限時間は本日の夕暮れ。制限時間外に取得した素材は一時的に試験管がお預かりします……両パーティとも御武運を。」
こうして、レイたちの昇格試験が始まった。
「よーし!いくぞオメエら!」
開始と同時に、パーティメンバーを引き連れてギルドを出るニルス。
彼らがギルドを出たのを確認して、マリーが口を開いた。
「……行ったようです。」
「あの様子だと、どこかのタイミングで仕掛けてきそうですけどね。」
レイはニルスの態度や言動から、十中八九自分たちを攻撃してくるだろうと予測する。
「彼らは、日頃から他のパーティから略奪行為を行っているという報告が上がっています。襲撃は確実かと。」
マリーは可能性がどうこうではなく、確実に襲撃はあると言い切ってみせた。
「そんな奴らが今も冒険者をしてるのは、ダンジョン都市ならでは……といったところですか。」
「ダンジョン都市の基本理念は弱肉強食。弱きが淘汰されるのは世の摂理という考え方ですので……」
他の国や地域では通じる常識が、ここ、ダンジョン都市では通じない。
強き者だけが富と名声を得ることができ、弱き者は搾取される。
だからこそ、人死にがでない略奪行為は黙認されることがほとんどなのであった。
「その理念に文句をつける気はありませんが、これ以上可能性の芽を摘ませないためにも、彼らには再起不能になっていただいた方が良さそうですね。」
そのような略奪行為を黙認していれば、大成するかもしれなかった芽が摘まれかねない。
レイは、【荒野の蛇】を完膚なきまでに叩きのめすことを決意した。
「レイ様、本当に良かったのでしょうか……通常、FランクとDランクというのは天と地ほどの実力差があります……レイ様たちがお強くてもこの差はなんとも……」
「大丈夫ですよ。専属受付になってくれたマリーさんも僕らの仲間の一人です。絶対に後悔はさせません。」
自分たちを心配してくれるマリーの気持ちを、レイは嬉しく思った。
彼女に、自分たちを選んだことを後悔させてはならないと、気を引き締める。
「ふふっ……これ以上は無粋ですね。朗報をお待ちしております。」
「期待しててください!……ちなみに、ひとつ相談なんですけど、これってルール的にありですかね……」
――――――――――――――――
冒険者ギルドを出たレイが、思い出したように収納袋をあさり始めた。
「そうだっ!ニケにこれ渡しとくね。」
そう言ってレイは、収納袋から小鬼のダンジョンのボスを倒して手に入れたナイフをニケに渡した。
「えっ!こんなに良いものオイラが持ってて良いの!?」
「もちろん!……っていうか、みんなそれより良い武器持ってるから……」
レイ以外の面々はハラルトから借りていた高ランクの武器を、そのまま所持している。
「あっ、そうなんだ。」
「まあ、借り物なんだけどね……ニケにもいつか、もっと良い武器を用意するからね!」
「ううん。オイラはこのナイフで充分だよ!ありがとう、レイ!」
初めて付与魔法付きの武器を手にしたニケは、花が咲くような笑顔でレイに感謝を述べた。
「そんなに喜んでもらえてよかったよ。よーし!それじゃあ早速ダンジョンに行こうか!」
――――――――――――――――
「昨日ぶりだね。」
一行は昨日攻略したEランク最難関の小鬼ダンジョンに来ていた。
そこに、後ろから声をかける者たちが現れる。
「おやぁ?奇遇だなぁ。お前らも小鬼ダンジョンに行くのか?」
――そこには、【荒野の蛇】の面々がいた。
「すごい偶然ですね……まるで僕たちの後を尾けてたみたいだ。」
レイは当然、索敵スキルでその存在に気づいていた。
彼らは、冒険者ギルドの外で待ち伏せしており、レイたちの後を追ってここまできていたのだ。
「人聞き悪いこと言ってんじゃねえよ。Eランクダンジョンで一番稼げるのが小鬼ダンジョンってだけだ。」
「それもそうですね。ではお先にどうぞ。」
レイはあっさりと納得したように見せて、先に行くように促してみるが――
「格下に譲られて勝っただなんて知られたら、恥ずかしくて街を歩けねえよ。先に入って良いぜ。こんなもん、ハンデのうちにも入んねえよ。」
――当然のように断るニルス。
「……そうですか。ではお言葉に甘えて。」
そう言うと、レイは振り返ることなく小鬼ダンジョンの中へと入っていった。
ダンジョンに入ってしばらく歩いたところで、アルがレイに話しかける。
「レイ様、警戒せずともよろしいのですか?」
「今のところはね……ああいう小悪党はすぐに仕掛けては来ないさ。」
ウーヴェやヘルマンはともかく、リーダーのニルスは少し慎重な性格のように見えた。
となると、警戒されていると分かっているのに飛び込んでくるような真似はしない、とレイはあたりをつけていた。
「大方、僕たちが疲れたところを狙う算段なんだろう。」
「レイの言う通りだと思うよ。あいつらの被害に遭ったパーティは、口を揃えてボス部屋の前で襲われたって言ってるからね。」
ニケの言葉によって、レイの予測は確信に変わった。
「いつ仕掛けてきても良いように僕が殿を務めるよ。ボス部屋までの魔物はベルとリルに任せるよ。アルとリリー、ニケは素材の回収を頼むね。」
「「「「「了解!」」」」」
レイたちがダンジョンに入ったのを確認したニルスは、ニヤリと口角を上げながら呟く。
「……バカが。まんまと先に行きやがった。」
「どうする?すぐにやっちまうか?」
すぐに襲撃をかけようとするウーヴェだったが、その提案はニルスによって却下される。
「いや、付かず離れずの距離を保ってついていくぞ。」
「あいつらにプレッシャーをかけるってことか。」
ニルスの作戦の意図を読み取るヘルマン。
彼らにとって、今回のようなことは初めてやる類のものではなく、もはや稼業とも言えた。
「ああ、それに戦いを見ればそれなりに実力も把握できるだろ。いいかオメエら。Fランクとはいえ油断はすんじゃねえぞ。」
冒険者ギルドでの態度とは裏腹に、ニルスに油断はなかった。
弱肉強食が常であるダンジョン都市においては、下克上もまた日常茶飯事。
油断によってその地位を失ってきた冒険者たちを見てきたニルスは、どんな相手でも油断はしまいと心に誓っていた。
「わかってるよ。」
「ニルスは顔に似合わず心配症だよな。」
「てめえがあのガキにやられてなきゃあ、俺ももっと気楽にやれたんだけどな。」
「ちっ。一生そのネタでひきづるつもりかよ。」
強面のニルスをからかうウーヴェだったが、返す刀であっさりと斬られてしまう。
「この件が片づけばチャラにしてやるよ……よし、俺らも入るぞ。」
レイたちが完全にダンジョンに入ったのを見計って、ニルスたちもダンジョンへと歩を進めた。
【荒野の蛇】の動きを、レイは索敵スキルで察知していた。
(やっぱりついてきたか……すぐに仕掛けてこないってことは、僕たちが疲れるのを待つつもりだろう。)
レイは連中の動きをみんなに共有する。
「みんな、相手のパーティが後ろからついてきてるけど距離は充分にある。何か仕掛けてきたら僕が対応するから、みんなは自分の役割に集中してほしい。」
「しかし、見られていると思うと、分かっていても気が張ってしまいますね。」
自分たちに害意を持つ人間が、後ろからついてきている。
アルの言う通り、そんな状況で落ち着いて行動するというのは中々難しい話であった。
「相手もそれが狙いなんだろう。適度な緊張感は大事だけど、気負いすぎないようにね。」
こうして、レイたちは後ろからついてくる敵に気を配りつつも、ダンジョンの攻略を進めていくのであった。
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