034 ニケ歓迎パーティー
「では改めて!ニケのパーティ加入を祝して、かんぱーい!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
ニケが仲間に加わったことを祝し、レイたちは二度目の乾杯を行っていた。
「オイラ、精一杯頑張って必ずみんなに恩返しするよ!」
「ニケさんだけが頑張る必要はありませんよ。」
「そうですよ!もう仲間になったんですからみんなで一緒に頑張りましょう!」
「ニケはもっとたくさん食べた方がいい」
「たくさん食べないと強くなれない」
張り切るニケを気遣う面々。
しかしレイは、ニケと他のメンバーとの間に実力差がありすぎることについて思考を巡らせていた。
「確かに、ニケのパワーアップは優先的にやっていかなきゃだよねー。」
「っ!オ、オイラ頑張るって決めたんだ!どんなことでもやり抜いてみせるよ!」
レイの言葉に、先のしごきが脳裏によぎるニケだったが、頑張ると決めた直後の信念は固かった。
ニケの覚悟を受けたレイは、ニヤリと笑う。
「ほぅ。それは良いことを聞いた。」
「ニケさん……いえ、ニケ。言って良いことと悪いことがありますよ?」
あまりにも無用心なことを口にするニケに、アルは敬称抜きで注意を促す。
「ニケはまず、レイ様の性格を把握するところから始める必要があります。」
リリーでさえも、ニケを呼び捨てにして注意喚起を行ってきた。
「ニケ、レイについていけば大丈夫」
「レイなら、1週間あればニケを魔改造できる」
「オイラ、人間のままでいたいんだけど……」
ふたごの、特にリルの言葉に震えが止まらなくなるニケに、レイがフォローを入れる。
「みんなニケが怖がってるじゃないか!大丈夫だからねニケ!ちょっと記憶に障害は残るかもしれないけど、強くなれるなら大した問題じゃないだろう?」
レイの全くフォローになっていないフォローが、ニケを更に追い詰めていく。
「あっ……オイラ、決心が鈍りそう。」
ニケは、自身の覚悟の脆さに絶望を覚えようとしたその時、レイが空気を変えるように話題の転換を図った。
「まあ冗談は置いといて。ニケのパワーアップをするにしてもパーティランクがFだと都合が悪いので……」
レイは、テーブルを手でドンッと叩きながら宣言する。
「昇格試験を受けようと思います!」
レイの宣言を受け、最初に反応したのはアルだった。
「冒険者ギルドで、マリーさんに質問していた件ですね。」
「そうそう。昇格する方法はいくつかあったけど、その中の一つに面白いものがあったんだよね。」
レイがマリーにパーティランクを上げる方法を確認したところ、いくつかの方法があった。
ひとつは、ギルドが月に一度開催している昇格試験を受けること。
ひとつは、ギルド長3名以上から推薦を受けること。
そしてもうひとつは――
「それってもしかして……自分たちよりランクが上の冒険者パーティに勝てれば、昇格できるっていうアレですか?」
リリーの答えは、まさにレイが提案しようとしていた昇格方法であった。
「その通り!昇格後1年を経過しているパーティに限られることとか、挑戦できる上限は2ランク上までのパーティに限られることとか色々制限はあるんだけどね。」
パーティのランクというものは昇格するだけではなく、場合によっては降格もありうる。
「昇格後1年を経過している」という条件は、該当のランクで安定した実力を発揮できているという、ひとつの指標として設けられたものであった。
「挑戦を受ける側のメリットがなさすぎるため、挑戦者側は負けた場合のみ、金貨10枚の支払義務が発生するのでしたね。」
挑戦を受ける側が、負けて名誉を傷つけられるリスクを負うだけの制度であれば、わざわざ格下の挑戦を受けるものなどいない。
そこで設けられたルールが、挑戦者側の罰金ルールだ。
挑戦者側が勝負に負けた際、「分不相応にも格上の冒険者に挑戦し、貴重な時間を奪ったことに対する罰金」という名目で、挑戦を受ける側が得られる金額は金貨10枚。
この罰金ルールのおかげで、挑戦を受ける冒険者パーティも少なくはなかった。
「負けないからそこは問題なし!」
しかし、負けた場合の注意点など、レイにとっては無視しても構わない情報だったようだ。
「……すごい自信だね。肝心の冒険者パーティの目星はついているのかい?」
レイの自信に、既に勝てそうな冒険者パーティを見繕っているのだろうかと疑問を持つニケ。
「ふっふっふ。相手はもう決まっているよ!」
「あれ?でもレイたちは、ダンジョン都市に来て間もないはずだよね?知ってる冒険者パーティなんていないんじゃ……」
レイの言葉に矛盾を感じたニケだったが、続いてレイの口から発せられたのは、ニケも知る者たちであった。
「僕たちが挑戦するのは!……ニケを利用して、僕たちを殺そうとしてきた奴らのパーティです!」
「えっ!ウーヴェとヘルマンのパーティかい!?」
「あいつら、そんな名前だったっけ……」
突然ニケの口から出た名前に、レイはそんな名前だったかな?と呆けた態度を取った。
ニケはそんなレイの様子に構わず、必死の形相でレイを止めにかかる。
「レイ!悪いことは言わないから、それはやめておいた方がいいよ!あいつらはDランクの冒険者パーティで、実力は本物なんだ!」
「ニケ、敵意だけならともかく、僕たちは殺意を向けられたんだ。これは早めに対処しておかないと、後々厄介なことになりかねない……それに、実力っていう面で見ても問題ないと思うよ。」
ニケの説得に、茶化すことなく真面目に応えるレイだったが、ニケにとって、レイの返答は不十分に感じられた。
「そんな……何を根拠にそんなことが言えるのさ……」
ニケの疑問はもっともだ。
故にレイは自身の秘密のひとつを、ニケに明かすことにした。
「……ニケはもう仲間だから話しておくね。実は――」
レイは、鑑定スキルのことをニケに伝えた。
……
……
……
「ただものじゃないと思ってたけど……レイはもしかして、本当は神様か何かなの?」
レイから鑑定の能力について聞いたニケは、先ほどとは一転、落ち着いた様子でレイを神様呼ばわりし始める。
「いやいや違うから。みんなと同じ人間だから。」
「でも、そういうことならさっきの余裕な態度にも納得がいったよ。絡まれた時にあいつらのステータスを見たんだね?」
ニケの予想は的中しており、レイは絡まれた際に、男たちのステータスを確認していた。
「うん。今のところ、1対1で勝負して確実に負けちゃうのはニケだけかな。」
他のメンバーも「確実に勝てる」と言い切れるほどの実力差はなかったが、少なくともニケに関しては、現状ではどう転んでも彼らに勝つことは不可能と言えた。
「うっ……。オイラのステータスはもう見たのかい?」
そんな能力があるのならば、既に自身のステータスも確認しているのだろうと当たりをつけたニケだったが、それはレイによって否定された。
「ううん。ニケに鑑定は使ってないよ。ニケの実力は、ダンジョンでの戦いっぷりである程度把握してるくらいだね。」
「えっ、どうして……」
「う、うーん……しょ、正直にいうと、ぱっと見弱そうだったから敵ならどうとでもなるし、仲間にすることもないだろうなと思ってたから……」
レイは敵意を見せてきた相手や、積極的に仲間探しをしている時は即座に鑑定を行うが、必要性を感じない時には鑑定の乱用はしていなかった。
「うわっ!まあまあ辛辣な理由だった!……まあ、事実その通りなんだけどさ……そうだ!折角仲間になったんだし、オイラのステータスも見ておくれよ!」
「仲間の戦力把握はリーダーの義務だからね。実はニケが仲間になってくれた時、既に鑑定していたのだよ!」
ニケが仲間になると言ってくれたあと、レイはニケのステータス鑑定を済ませていた。
――――――――――――――――
【名 前】 ニケ・リーメルト
【種 族】 小人族
【レベル】 17
【体 力】 456 / 456
【魔 力】 319 / 319
【攻撃力】 334
【防御力】 362
【速 さ】 410
【知 力】 1,018
【スキル】
罠解除:Lv.2 毒罠:Lv.2
――――――――――――――――
罠解除:Lv.2
魔力消費なし
スキルレベルに応じた罠の解除が可能。
――――――――――――――――
毒罠:Lv.2
対象を5級の毒状態にする罠を設置する。
設置可能範囲は使用者を中心として、スキルレベル × 5m半径以内に任意の設置が可能。
効果持続時間は、使用者と対象のステータス差によって変動する。
――――――――――――――――
【罠解除】A
【罠魔法】A
――――――――――――――――
「オ、オイラの適性もわかるんだよね?」
先ほど、レイの鑑定の能力は、適性も見ることができると聞いたため、ニケは自身の適性が気になっていた。
「うん!ニケは生粋の罠士みたいだね。罠解除と罠魔法の適性がどっちもAランクだよ。」
「そっかぁ……オイラも剣の適性が欲しかったなぁ。」
高ランクの適性が2つあったにも関わらず、無い物ねだりをするニケ。
どうやら、前衛として活躍するものたちへの憧憬があったらしい。
「ニケ、それは贅沢というものですよ?レイ様の話では、Aランクの適性を持つものは滅多にいないということでしたから。」
「えっ!そうなの!?……よーし、オイラ罠士を極めるよ!」
アルの言葉に、あっさりとやる気を取り戻したかのように見えたニケだったが――
「そんなこと言ってるアルは、雷魔法、隠密、算術、交渉の適性がオールAなんだけどね……」
続くレイの言葉によって、そのやる気はあっさりと刈り取られた。
更にニケは、アルのことを裏切り者でも見るかのような目で見つめる。
「オイラ、アルとは仲良くなれそうにないよ。」
「そんなっ!レイ様、今のは意地悪ですよ!」
ニケからの信頼を不当に奪われ憤慨するアルに、レイは涼しい顔をしながら、標的をリリーに変えた。
「いやー、今のはアルが悪いと思うよ?結界魔法適性Aランクかつ回復魔法適性Sランクのリリーはどう思う?」
「リリー、君もか……」
リリーの適性を聞き、更に絶望の表情を浮かべるニケ。
「えっ!いやいや、私なんてそんな大それた存在じゃありませんからっ!」
「ベルたちは、剣術適性がSランクなだけ」
「リリーがうらやましい」
まさかのふたごまでSランクの適性があることが判明した。
先ほどのアルの言葉からすれば、適性がSランクというのは、まさに天才の領域であろうことは容易に想像できる。
「……オイラはやっぱり凡人なんだ。」
メンバーとの差に、みるみる自信を喪失していくニケ。
「ああ……ニケが自分の殻に閉じこもってしまいました。レイ様、なんとかしてあげてください。」
その姿を見かねて、アルがレイに状況を打開するように進言する。
「適性なんていいじゃないかニケ。みんなにも言ってなかったけど、僕なんてなんの適性もなかったんだよ?」
「えっ!?そうなんですか?」
レイの言葉に驚くアル。
他のメンバーも同様に驚いた顔をしていた。
事実、レイは自身の適性を確認しようとしたことがあるが、結果からいうと何も表示されなかった。
悲しい事実ではあったものの、【早熟】という規格外なスキルを所持している弊害なのだと考えれば納得できた。
「うん。だから適性があるだけすごいことなのさ。」
「……いや、でもレイ様は適性がどうこうという次元ではないような……」
「それもそうですね。あやうく騙されるところでした。」
リリーの指摘によって、首を軽く振りながら我に返るアル。
「レイはなんでもできる」
「レイは全知全能」
「レイってやっぱり神様なんじゃ……」
ふたごが持つレイに対する印象を聞き、更に「レイ神様説」を自身の中で確かなものにしていくニケ。
「なんか話がすごい方向に逸れちゃってるな……とにかく!明日、マリーさんにランク昇格の話をしに行くから、みんなそのつもりでね!」
逸れに逸れた話を、レイは強引にまとめにかかる。
この後も一行は、ワイワイガヤガヤとニケの歓迎パーティーを楽しんだのであった。
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