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031 ダンジョンボス

「中はあんまり変わらないんだね。」


 ボス部屋の中は大きな空間が広がっているものの、先ほどまでスライムを倒していた場所とさほど変わりはなかった。


「あれが、粘性ダンジョンのダンジョンボスだよ。」


「……おっきいスライムだね。」


 ニケが指差す方向には通常の10倍は優に超える大きさのスライムが鎮座していた。


「グローススライムだよ!さあ、早く倒して!」


「うーん……」


 焦るニケに対して、微妙な態度を見せるレイ。

 その理由はグローススライムのステータスにあった。



 ――――――――――――――――


【種 族】 グローススライム

【レベル】 15

【等 級】 E


【体 力】 890 / 890

【魔 力】 479 / 479

【攻撃力】 383

【防御力】 408

【速 さ】 273

【知 力】 371

【スキル】

吸収:Lv.2


 ――――――――――――――――



(なんだかなぁ……)


「レイ!なにやってるのさ!?」


 レイの態度に驚きを見せるニケに、レイからとんでもない提案が成された。


「そうだっ!ボスもニケに任せるよ。」


「え!?無理だよ!グローススライムは普通のスライムとは強さが段違いなんだ!オイラじゃすぐに殺されちゃうよっ!」


「それは大丈夫。」


 レイはそう言うと、ニケの体を横抱きにして持ち上げた。


「うわぁっ!」


「ボスの攻撃は僕が全部避けるから、ニケは罠を仕掛けて。」


「ちょっ!持ち方をっ!せめて持ち方を変えて!」


 お腹に手を回された状態のニケの要求は、続くレイの言葉によってかき消される。


「ほらニケ!ボスがこっちにくるよ!」


 レイの言葉を受けて顔をグローススライムに向けると、体全体を震わせ、跳躍しながらこちらへ向かってくるグローススライムが映った。


「あーもうっ!わかったよ!……毒罠!」


 やけくそ気味に叫んだニケだったが、グローススライムの跳躍に合わせてタイミングよく罠を設置し、見事罠に嵌めてみせた。


「ごめんみんな!そういうことだから手出し無用でよろしく!」


 そう言ってレイは、ニケを抱えたまま走り出す。


 グローススライムは、触手のようなものを伸ばしてレイたちを捉えようとするも、レイはそれらを余裕を持って躱し続ける。


 レイは攻撃を避けながら、グローススライムの体力の減り具合を確認した。



 ――――――――――――――――


【種 族】 グローススライム

【レベル】 15

【等 級】 E

【状 態】 毒


【体 力】 806 / 890

【魔 力】 479 / 479

【攻撃力】 383

【防御力】 408

【速 さ】 273

【知 力】 371

【スキル】

吸収:Lv.2


 ――――――――――――――――



(よし。順調に体力を削れてるな。)


 ニケの毒罠によってグローススライムは毒状態になり、体力は着実に削れていた。


「ニケ!このまま倒せそうだよ!」


「いや!もうそろそろ毒の効果が切れる頃だと思う!」


「え?」


 ニケの思わぬ指摘に、再度鑑定を行うレイ。



 ――――――――――――――――


【種 族】 グローススライム

【レベル】 15

【等 級】 E


【体 力】 771 / 890

【魔 力】 479 / 479

【攻撃力】 383

【防御力】 408

【速 さ】 273

【知 力】 371

【スキル】

吸収:Lv.2


 ――――――――――――――――



 ニケの言う通り、グローススライムは毒の状態から抜け出していた。


「毒罠は相手の強さによって効果持続時間が変わるんだ!」


 通常のスライム相手ならば体力を奪い切るまで効果は持続していたが、ダンジョンボスともなるとそうはいかないようだ。


「なるほど!じゃあもう一回毒罠いける?」


「やってみる!」


 レイはそう言って、前向き走行から後ろ向き走行に変え、ニケにグローススライムが見えるようにする。


「……毒罠っ!」


 横抱きにされた状態で、少しの間タイミングを見計っていたニケが毒罠を仕掛ける。


「よしっ!かかったよ!」


 ニケはまたもや、グローススライムを毒状態にすることに成功していた。


(すごいな。偶然かと思ったけど、ちゃんと敵の動きを予想して的確な位置に罠を仕掛けてる。)


 レイはニケの洞察力に舌を巻いていた。




 ――こうしてボスを罠にかけ続けること8回。


 グローススライムはとうとう力尽きた。


「や、やった。」 


 ニケは全ての罠を1つのミスもなく成功させ続けた。

 8回連続成功となると、もはやニケの罠士としての実力は疑いようがなかった。


「すごいよニケ!敵を罠に嵌める天才だね!」


「なんか微妙な言い回しだけどありがとう!まさかダンジョンボスをオイラが倒す日が来るなんて思わなかったよ!」


 ニケのテンションが高いことには理由があった。

 通常、罠士がダンジョンボスにとどめの一撃を見舞うことなど滅多にあることではない。

 いつもスポットライトが当たるのは前衛の戦士たちか、高威力の魔法を扱う魔法士たち。


 だからこそレイの助けを借りたとは言え、自身が与えたダメージだけでダンジョンボスを倒したことに、今まで感じたことのない喜びを感じていた。


「そうかな?やり方次第ではニケひとりでも十分やれそうだったけど。」


「無理だよ!無理無理!オイラじゃすぐに追いつかれて触手につかまってボコボコにされるのがオチさ!」


「たしかに、もう少しステータスの底上げは必要かもね……まあその辺は追々対策するとして、まずはこの宝箱を開けてみようよ!」


 ダンジョンボスが力尽きた場所には、少し大きな魔力核と宝箱が出現していた。


「ダンジョンボス討伐の報酬だね。この宝箱に罠はないから開けちゃっても大丈夫だよ。」


「宝箱」

「開けたい」


「それじゃあベルとリル!開けちゃって!」


「「えいっ」」


 ふたごの手によって開けられた宝箱の中から出てきたのは――


「……棍棒?」


 なんの変哲もない棍棒だった。


「まあ、一番難易度の低いダンジョンボスの宝箱だからね。報酬もそれなりってことさ。」


「ロマンも何もない」

「これ以上失望させないで」


「え……オイラに言われても……」


 ふたごの理不尽な言葉に後退るニケ。

 そこに助け舟を出したのはアルだった。


「まあまあ二人とも。ダンジョンはまだまだたくさんあるんですから、いつかきっと素晴らしい宝物にも出会えますよ。」


「……アルがそう言うなら、今回は見逃す」

「でも……次はない……」


 アルの言葉に矛を収めたふたごだったが、ニケに対する謎の敵意はいまだに持ち続けているようだった。


「あれ?オイラ殺されちゃうの?」


「大丈夫ですよ。その時はお守りします。」


「あ……攻撃はされちゃうんだ……」


 リリーのフォローになっていないフォローに、ニケは命の危険を感じるのであった。


「それじゃあもうここに用はないし、いったん外に出ようか。」


 レイがダンジョンからの離脱を提案する。


「それなら、あの転移陣を使えばダンジョンの外に出られるよ。」


 ニケが指差す場所には、光りを放つ魔法陣が出現していた。


「あれ?あんなものそこにあったっけ?」


「転移陣はボスを倒すと現れるようになってるんだ。」


 ダンジョンボスを倒すと、ダンジョンの外に出ることのできる転移陣が現れる。

 これは全てのダンジョンに共通する現象であった。


「へぇ。来た道を戻らなくていいのはありがたいね。じゃあその転移陣を使って外に出ようか。」


 こうして一行はダンジョンの外へと転移した。





「わっ!本当に外に出られた!」


「疑ってたの……?」


 転移陣を使いダンジョンの外に出られたことに驚くレイを、ニケは心外だと言わんばかりに半眼で見つめる。


「疑ってたわけじゃないけどさ……実際に体験してみるとすごく不思議な感じだね。」


「ダンジョンではそういう不思議なことがたくさん起こるからね。今のうちに慣れておいたほうがいいよ。……それで?今日はもう宿に帰るのかい?」


「正直物足りなかったから他のダンジョンにも行きたいんだ。ニケさえよければだけど……」


 レイは、申し訳なさそうな視線をニケに向ける。


「はあ。レイならそういうと思ったよ。……それじゃあ【小鬼ダンジョン】はどうかな?」


「【小鬼ダンジョン】?」


「名前の通りゴブリンだらけのダンジョンだよ。Eランク最難関のダンジョンで、ダンジョンボスはゴブリンキング。Dランクの中でも強者の部類だね……今行けるダンジョンで、レイを満足させられるのはそこしかないと思うよ。」


「いいね!今度は期待できそうだ。」


 ニケの説明を聞いてやる気を漲らせるレイ。


「今度こそ」

「期待してる」


 ふたごも次のダンジョンこそはという目でニケを見つめるのであった。




 ――――――――――――――――




「ここが【小鬼ダンジョン】だよ。」


「外観は粘性ダンジョンとあんまり変わらないんだね。」


「Eランクだと中もそれほど変わらないよ。ダンジョンの地形がガラッと変わるのは、Aランクの火山ダンジョンや砂漠ダンジョンからだね。」


 他にも海辺ダンジョンや沼地ダンジョンなど、ダンジョンの地形が通常とは異なるものは多数存在し、その全てがギルドによってAランク以上の難易度に指定されていた。


「地形が変わるとダンジョンのランクも高いんだ?」


「魔物も強くなるし、地形も敵になるから難易度が一気に跳ね上がるんだよ。」


「それは早く行ってみたいなぁ。」


「こらこら。まずは目の前のダンジョンに集中しないと足元掬われるよ!」


「確かにそうだね。それじゃあ入ろうか!」



 ダンジョンの中に入ると、確かに粘性ダンジョンと同じくゴツゴツとした地面が続いていた。


「ゴブリンは基本的に3体くらいで行動してるから気をつけて。あと、スライムと違って知能もあるから迂闊に……」


「よーーし!競争だーー!!」


 いきなり大声をあげてダンジョンの奥へと走っていくレイ!


「レイ、ずるい」

「大人気ない」


 ふたごもレイの後に続いて走って行った。


「……」


 忠告を無視されて唖然としているニケに、アルとリリーが励ましの言葉をかける。


「ニケさん。気を落としてはいけません。」


「受け入れちゃった方が楽になりますよ?」


「……」


 アルはともかく、リリーの言葉はなんの慰めにもなっていなかった。




「ゲギャーッ!」

「ギギッ!」


 レイたちが走り去ってしばらくの間、そこかしこからゴブリンたちの断末魔が上がり続けていた。


 唐突に音が止んだので、ニケたちが奥へと進んでみると――


「嘘でしょ……」


 そこには、ゴブリンたちの死体が通路の至るところに放置されており、しかもそれが通路の奥まで続いていた。


「みんなー!」


 奥からレイとふたごが走ってきた。


「このダンジョンは下に降りる階段があったよ!」


「これぞ冒険」

「冒険はまだまだ続く」


 よっぽど別の階層に行けることが嬉しいのだろう。

 レイとふたごは目をキラキラさせていた。


「あ、ああ……このダンジョンは3階層あるから。」


「3階層もあるんだ?それは楽しみだね!」


「……そうだね。っていうか死体はともかく、魔力核をそのまま放置して行ったらダメじゃないか!これじゃあ他のパーティに取られちゃっても文句はいえないよ!」


「ごめんごめん。テンションあがっちゃってさ。」


「次から気をつけてよね!……でもこれだけの魔力核を入れるとなるとそれなりの素材袋が必要だけど、どうするんだい?」


 粘性ダンジョンではニケがスライムを倒していたため、ニケの素材袋に全ての魔力核を入れていた。

 しかし、今回はレイたちがゴブリンを倒しているためそうもいかない。


「ああ……それなら問題ないよ。みんな、申し訳ないけど魔力核集めるの手伝ってくれる?」


 ゴブリンの死体はスライムのように溶けるわけではないので、魔力核は死体を抉って取り出す必要がある。

 ニケから魔力核の場所を聞き、全員でゴブリンの死体から魔力核を回収していく。


「それじゃあアル、全部流し込んじゃって。」


 集めた全ての魔力核を1枚の布に集め、レイは自前の袋を取り出し、アルに魔力核を袋に流し込むよう指示する。


 しかし、レイが取り出した袋は、明らかに集めた魔力核を収納できる大きさではなかった。


「え?それじゃあ溢れ出ちゃうよ。」


「大丈夫大丈夫。アル、お願い。」


 アルは頷くと、レイの持つ袋の中に魔力核を流し込んでいく。

 袋はニケの予想を裏切り、全ての魔力核を飲み込んだ。


「え?え?……なんで?」


「実はこれ、知り合いから借りてる収納袋なんだ。」


 レイが取り出した袋は、以前ハラルトから武器を借りた際に一緒に持たされた1級の収納袋だった。


「収納袋っ!?……すごい。オイラ初めてみたよ。」


 初めて見る収納袋に驚くニケ。


「やっぱりダンジョン都市でも収納袋は貴重なんだね。」


「うん……Sランクパーティの人たちが持ってるのを聞いたことあるくらいだよ。」


 レイが考えている以上に収納袋というのは貴重なものであり、一番下のランクのものでも、一般的な冒険者の手に渡る機会は滅多にない代物であった。


「そんなになんだ……なるべく面倒ごとは避けたいから、内緒にしてくれると助かるよ。」


「も、もちろんだよ!そんなの持ってるなんて知られたら、命がいくらあっても足りないからね!」


 いつかのアルと同じことを言ってくるニケに、レイは笑顔で感謝を述べる。


「ありがとう……そういえば、死体はこのまま放置しちゃってもいいの?」


「うーん。一応、ゴブリンの牙は換金対象なんだけどね。解体の手間を考えるとあんまり割りに合わないから、レイたちの場合は放置でいいんじゃないかな?」


「そっか……でも他のパーティも同じように放置したら、ダンジョン中が死体だらけになっちゃうんじゃないの?」


「その心配はいらないよ。魔物の死体は時間が経つとダンジョンに吸収されちゃうんだ。」


「ダンジョンに?」


「うん。だからこの死体も明日にはなくなってるはずさ。」


 ダンジョンには自浄作用のようなものがあり、人間や魔物の死体、武器や防具、排泄物などの非生物に関しては、一定の時間が経つとダンジョンに取り込まれるような仕組みになっていた。


「ダンジョンって本当に不思議だな。」


「さあ。魔力核も集め終わったし、次の階層に行こうか。」


 レイたちはニケに促され、次の階層へと足を伸ばすのであった。

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