032 ゴブリンキング
次の階層に続く階段を降りながら、レイはアルとリリーに話しかける。
「僕たちはもう満足したから、次の階層はアルとリリーに任せるよ。」
ふたごとともに1階層のゴブリンを倒し回ったレイは、次の階層のゴブリンをアルとリリーに任せると提案する。
「それなのですが、ここもニケさんにお任せしてはいかがでしょうか?」
「えっ!?」
アルのこの提案に驚いたのはニケだった。
「察するに、我々のレベルに適したダンジョンはDランクかと思われます。遠からずそのレベルのダンジョンに潜ることになるでしょうから、今必要なのはニケさんのステータス強化ではないかと。」
「それって……今後もオイラをパーティに入れてくれるってこと?」
アルの提案は、今後もニケがパーティに残り続けることを前提としているものであった。
「パーティに罠士は絶対必要だからね!なによりニケの仕掛ける罠は的確で、戦術の幅も広げられる……僕もニケさえ良ければこのままパーティに加わって欲しいと思ってるよ。」
レイの言葉に、ニケ以外の全員が頷いて同意の意思表示をする。
「レイ……みんな……」
レイの言葉に感極まるニケだったが――
「返事はここを出てからでいいよ。まずはステータス強化……いっとこうか?」
「…………え?」
こうしてレイによる、ニケのスパルタステータス強化が始まったのだった。
――――――――――――――――
「……もう無理……本当に無理。」
繰り返し泣き言を吐き出すニケ。
その目からはもはや生気が感じられない。
「そう言って何回も乗り越えてきたじゃないか!ほら、これ飲んで。」
「ぅごぼぼっ!」
レイによって無理矢理魔力回復薬を飲まされるニケ。
「ほらほら!早く罠仕掛けないと大変なことになっちゃうよ?」
「……うぅっ。毒罠!毒罠!毒罠!毒罠ぁっっ!」
無駄に不安を煽るレイの言葉に、苦悶の表情で罠を仕掛け続けるニケ。
それは端から見ると拷問ととられてもおかしくはなかった。
「あれは流石に可哀想ですね……」
「でもレイ様との組み手をしなくていい分、まだマシな方ではないかと……」
「それもそうですね……」
これ以上の地獄を体験しているアルとリリーは、他人事のようにレイによるニケのしごきを眺めるのだった。
「あっ。ボス部屋だ。」
毒罠をゴブリンに仕掛けながら走り続けていた一行は、いつの間にかボス部屋の前にたどり着いていた。
「どうやらここで終わりのようですね。」
「……ひぐっ、ひぐっ。やっと……やっと終わった。」
アルの一言に、ニケは堰を切ったように泣き出した。
「なぁんだ、もう終わりか。まだまだこれからだったのに……」
「ひぃぃっっ!!」
レイのスパルタ発言に、ニケはとうとう叫び声をあげながらパタっと気絶してしまった。
「これはトラウマ確定ですね……レイ様、ニケさんもお疲れのようですので、少し休憩を挟まれてはいかがでしょう?」
「それもそうだね!じゃあ少し休憩しよう!」
――10分後
「はっ!……なんだ夢か。」
ニケは悪夢から目覚めることができ、ほっとした表情を見せる。
「現実だよ。」
「ぎゃあぁぁぁっっ!!」
突然現れたレイに驚くニケ。
「そんな、人を魔物みたいに……」
「ご、ごめんよ!オイラなんだか悪い夢を見てたみたいで……」
「……なんと、リリーパターンでしたか……」
「えっ……私もあんな感じだったんですか……」
思わぬところで明らかになったリリーの過去。
この事実に、ショックを受けるリリーなのだった。
「大丈夫だよニケ。体調は大丈夫?歩けそう?」
「う、うん……大丈夫みたい。」
「それならよかった!起き抜けに申し訳ないんだけど、ボス部屋の罠解除、お願いしてもいいかな?」
「ああ!任せといてよ!」
そう言って罠の解除に向かうニケ。
「……私はレイ様が何か恐ろしいものに見えます。」
「……奇遇ですね。私もです。」
ニケを追い詰めたレイ自身が、優しい言葉でニケの行動を誘導する様子をアルとリリーは戦々恐々とした表情で見つめていた。
「開いたよ!」
ニケの言葉を裏付けるように、ボス部屋の扉が黄金色に輝き始める。
「みんな、ここのボスはDランクでも上位らしいから油断はできない。だから、僕を除いた全員で戦ってもらいたいんだ。」
Dランクであれば自分抜きでも充分戦えると判断したレイは、パーティの成長を優先することにした。
「レイはどうするの?」
「僕はニケを守ることに専念するよ。だからニケもチャンスがあったらガンガン罠を仕掛けて欲しいんだ。」
「わかった!やってみるよ!」
「前衛はベルとリル。後衛はリリー。遊撃はアル。いつもの陣形でいこう。」
軽い作戦会議を終え、一行はボス部屋に入った。
「あれがゴブリンキングか……」
ボス部屋の中央には、ゴブリンとは思えないほどの大きな体躯に、大きな剣と盾を携えた魔物が佇んでいた。
――――――――――――――――
【種 族】 ゴブリンキング
【レベル】 30
【等 級】 D
【体 力】 3,400 / 3,400
【魔 力】 812 / 812
【攻撃力】 2,488
【防御力】 2,024
【速 さ】 1,949
【知 力】 728
【スキル】
盾術:Lv.3
――――――――――――――――
「みんな!敵は物理特化で、飛び道具はないと思うけど警戒はしておいて!」
レイは、鑑定によって得た情報を全員に共有した。
「「「「了解!」」」」
「ニケは僕のそばから離れないでね。罠を仕掛けるタイミングはニケに任せるよ。」
「……う、うん。」
ゴブリンキングの威容に尻込みしているのか、ニケからは歯切れの悪い返事が返ってきた。
その間にも戦況は動き出す。
最初に攻撃を繰り出したのはふたごだった。
ふたごの武器である双剣の利点は、圧倒的な手数の多さ。
ふたごはその利点を生かしてゴブリンキングに猛攻を仕掛ける。
対するゴブリンキングは、余裕こそ伺えないものの、ふたごの攻撃をなんとか凌いでいる。
ステータス上、攻撃力でも速さでも上回っているふたごが攻めきれない理由は、ゴブリンキングの持つスキルにあった。
――――――――――――――――
盾術
盾の扱いが上手くなる。
盾を装備した場合、スキルレベル × 5%の防御力を上昇させる。
――――――――――――――――
(敵の盾術スキルのせいでベルとリルが攻めきれてないな……)
ふたごとゴブリンキングの戦いを遠巻きに見ていたレイは、鑑定を使って戦況を冷静に分析していた。
(何か状況を打破する一手があれば良いんだけど……)
そう思った矢先に、アルの声が響いた。
「雷槍っ!」
ふたごの攻撃に繋ぐように放たれたアルの雷槍が、ゴブリンキングを貫く。
「ギアアァッッ!!」
「「はあっ!」」
訪れる一瞬の硬直を見逃さず、ふたごが高速の斬撃を繰り出す。
ゴブリンキングは硬直が解けるや否や、ふたごへの牽制として、剣を水平に振るおうと一歩踏み込んだその時――
「毒罠!」
ゴブリンキングが踏み込んだ足の真下にニケの毒罠が設置される。
驚いたレイが振り返ると、震えながらも、力強さをたたえた瞳で敵を見つめるニケの姿があった。
突然現れた罠に、踏み込む足を止めることなど叶わず、ゴブリンキングはまんまとその罠を踏み抜き毒状態に陥った。
「グオオォォッッ!!」
ゴブリンキングは、自身の怒りをぶつけようとニケに向かって走り出す。
「ひっ!」
ゴブリンキングの怒気に怯えを見せるニケ。
しかし、それを他のメンバーが黙って見ているわけもない。
「雷槍!」
「お前の相手は」
「わたしたち」
アルによって放たれた雷槍は躱したものの、その隙にベルとリルに追いつかれてしまい、また防戦一方の状態へと戻るゴブリンキング。
しかし、今度は防御しているだけでも、毒によって体力は減らされていく。
更に、アルによる魔法の支援も数と精度が上がってゆき、次第に注意が散漫となるゴブリンキング。
「ギアッ!?」
とうとうふたごに防御を突破されてしまった。
そうなるともはやゴブリンキングに抗う術はなく、ふたごとアルによる総攻撃を受けることとなる。
「これは決まったかな。」
レイの呟きから数秒後、ゴブリンキングはとうとう力尽き、前のめりに倒れていった。
その側に宝箱が出現する。
「お疲れみんな!良い連携だったよ!」
レイはゴブリンキングが倒れたのを確認し、みんなに声をかける。
「特にニケ!あの戦闘の中で、あれほど的確に罠を仕掛けるなんて凄いよ!」
「まったくです。ニケさんのおかげで、敵から冷静さ失われたように思えました。」
「ニケ、良い仕事した」
「すごくやりやすかった」
レイによるニケの評価に、アルもふたごも追従した。
「そ、そんな!ボスを倒せたのはみんなの力があってこそだよ!」
みんなからの高評価に戸惑い、謙遜するニケだったが、そこに幽霊のように青ざめた顔をしたリリーがやってきた。
「それって、私の力も含まれてますかぁ……?」
回復と守りを担当するリリーは、この戦いに全く参加できていなかったのだった。
「まあまあ。リリーの出番がないのはパーティとしては良いことだからさ。そうだ!次からはリリーにニケを守ってもらおうかな!」
「っ!!任せてください!必ずやニケさんを守り抜いてみせます!」
「あ、ありがとう。」
レイの言葉にやる気を漲らせるリリー。
ニケはそんなリリーに表面上は感謝を述べるが――
(なんだか不安だな……)
「何か言いましたか?」
「いや!別に!」
まだリリーの実力を知らないニケは、今まで見てきたリリーのキャラクターを考えると少し不安にならざるを得なかったのだった。
「さーて、それじゃあお楽しみの時間といきますか!」
そう言って宝箱を開けようとするレイを、ニケが制止する。
「ちょっと待って!その宝箱は罠が仕掛けられてるから解除しちゃうね。」
「おー!罠が仕掛けられてるってことは中身に期待しても良いのかな?」
「一応、Eランクの中では最難関のダンジョンだからね。スライムの時よりは良いものが入ってるはずだよ…………よし、解除できた。」
「では早速!」
宝箱に手を伸ばすレイ。
中から出てきたのは――
「これは……ナイフかな?」
――小ぶりのナイフだった。
「そんな……」
「棍棒と大して変わらない……」
宝箱の中身に再度絶望するふたごだったが、レイの鑑定により情報が追加される。
「あ、でもちょっと待って。これ付与魔法がかかってる。装備すると速さが10%上昇するみたいだよ。」
「え?なんでそんなことが分かるんだい?」
レイに対するニケの反応はもっともだった。
上位の鑑定スキルでもなければ、一目見ただけで付与魔法がかかっていることや付与の内容を言い当てることなどできるはずがない。
「んー……ニケが正式に僕らの仲間になったら教えてあげるよ。」
「…………」
答えをはぐらかすレイに、ニケは押し黙ったまま何か考え事でもしているようだった。
「ねえニケ。ゴブリンキングでもお金になる素材はないの?」
「あ、ああ……ゴブリンキングは牙と爪が換金対象で、全部で銀貨10枚くらいにはなると思うよ。」
ニケは自身の思考を一旦放棄し、レイの問いに応えることにした。
「さすがキング!太っ腹だねー。それじゃあみんなで手分けして解体するよ!」
「「「「おー!!」」」」
一行は換金対象となる素材を死体から剥ぎ取り、ダンジョンを後にした。
――――――――――――――――
「いやー、ダンジョンって楽しいねー!」
「激しく同意」
「明日もダンジョン行く」
ダンジョンの外に出た一行は、ギルドに向かいながら談笑していた。
「普通の初心者パーティなら、ファーストダイブの翌日は休みをとるんだけどね……」
「あの様子だと休む方が苦痛になり兼ねませんね。」
「正直、私も消化不良です……」
1日を通して全く活躍できなかったリリーも、休むことなど頭になかった。
「……ねえ、ずっと聞きたかったんだけど、みんな年齢はオイラと同じくらいだよね?……なのにどうしてそんなに強いんだい?」
ニケはずっと気になっていたのか、満を辞してといった様子で尋ねてきた。
「それは……話せば少し長くなりますね。」
「ニケさんが仲間になってくれれば、レイ様から説明があると思いますよ?」
「…………」
思わず足を止め、言葉に詰まるニケ。
「……あ、あのねっ!」
意を決して紡ぎ出された言葉はしかし、レイの声によって遮られた。
「おーい、なにしてるの!ギルドに換金に行くよー!」
「はーい!ほら、いきましょうニケさん!」
リリーに手を引かれるニケは、拒むことなくレイたちの後を追うのであった。
「面白い!」 「ワクワクする!」 「続きが気になる!」
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