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029 冒険者登録

「冒険者ギルドへようこそ。こちら冒険者登録の受付ですがお間違いないでしょうか?」


「はい。僕とこの子たちの冒険者登録をお願いします。」


「では、こちらの用紙にお名前と年齢をご記入ください。」


 女性はそう言って、3人分の用紙とペンを差し出してきた。


「……役割やスキルを書く欄もあるようですが、ここは書かなくても良いんですか?」


「どこかのパーティへの所属を希望される場合、ご記入いただければギルドからご希望に沿ったパーティをご紹介することが可能となります。」


「なるほど。じゃあ名前と年齢だけ書いてっと……ベルとリルは文字書けるんだっけ?」


「大丈夫。父様に教わったから」

「名前と数字くらいは書ける」


 ふたごはそう言って、渡された用紙に自分たちの名前と年齢をスラスラと書き込んでいく。


 この世界では、識字率がそこまで高いわけではない。

 実際、ギルドが代筆なども行っているくらい、文字を書けない冒険者は山ほどいる。

 そんな中、ふたごのような年齢の子どもが字を書ける、ということは驚くほどではないものの貴重であると言えた。


 レイは念のため、ふたごから用紙を受け取り中身を確認していく。


「うん、大丈夫だね!それじゃあこれでお願いします。」


「……問題ないようですので、こちらの内容で冒険者カードを発行いたします。同時にパーティ申請も可能ですが、如何いたしますか?」


「んー……また並ぶのも二度手間だしなー。パーティ申請もお願いします!」


「ではこちらの用紙に必要事項をご記入ください。」


「えーと。なになに…………パーティ名だってっ!?」


 受け取った用紙を見てみると、いくつかの記入事項の欄の中に、パーティ名を書く欄を発見したレイは驚きの声を上げた。


「ああ。そういえば考えていませんでしたね。」


「リリーの元いたパーティは【イカれた鷲】だったっけ?」


「【怒れる鷲】です……」


「そうだった、そうだった。これは困ったな……よし!みんな1つずつこれぞ!というパーティ名を提案してくれ!」


「そんな急に思いつくわけ――」


 急なレイの提案に呆れた表情を浮かべるアルだったが、意外にも他のメンバーはノリノリだった。


「はらぺこファイター」

「大食いファイター」


「お腹すいてるんですね……」


「ふわふわ団なんてどうでしょう!」


「それはちょっと可愛すぎるような……」


「レイと愉快な仲間たち!」


「レイ様だけ自己主張強すぎますよ……」


「なんだよ、文句ばっかりじゃないか!アルもなんか案出してよ!」


「「「そーだ、そーだー」」」


 この場で唯一の常識人といえるアルが、なぜか責められていた。

 とはいえ、自分だけ案を出さないわけにはいかないという想いもあったため、なんとか考えをまとめて絞り出す。


「うぐっ…………そ、それじゃあ、【執行者】なんてどうでしょう……」


「執行者?」


「罪に対する裁きを執行するという、我々の最終目標にも合致しているかと思ったのですが……」


「「「「…………」」」」


 レイたちの沈黙に耐えかねたアルは、自身の案を取り下げようとするが――


「か、かたすぎますよね?ははっ、別のを考えましょ――」


「いいじゃん、執行者!」


「かっこいい」

「良い響き」


「可愛さが足りない気もしますけど、悪くはないですね!」


 まさかの賛成多数で、パーティ名は【執行者】に決定。

 レイはパーティ名を記入した用紙を提出した。


「お姉さん!これでお願いします!」


「パーティ名は【執行者】で、パーティリーダーはレイ様ですね。それでは冒険者カードの発行とパーティ登録を行いますので少々お待ちください。」


 そう言って女性が手元で作業を始めてしばし。


「お待たせいたしました。こちらが冒険者カードでございます。」


「おー!これで僕たちも冒険者だ!」


「ワクワクしてきた」

「早く冒険したい」


 レイとふたごは初めての冒険者カードに興奮し、年齢相応のはしゃぎっぷりを見せた。


「レイ様の冒険者カードにはパーティリーダーの権限も付与しております。パーティメンバーの加入方法はご存知でしょうか?」


「リリー分かる?」


「大丈夫です!」


「だそうです。」


「承知いたしました。それでは手続きは以上でございます。またのご利用お待ちしております。」


 レイたちは受付から少し離れた場所に行き、リリーからパーティメンバーの加入方法を聞くことにした。


「じゃあ、早速パーティへの加入方法教えてもらって良いかな?」


 リリーは張り切った様子で説明を始めた。


「はい!まずはレイ様と私の冒険者カードを重ねます。そうすると当事者同士にしか見えないパネルが表示されるんです。」


「へぇ。すごい機能だね。」


「大昔に大賢者と呼ばれる方が発明したそうですよ。今、私の目の前に【申請】と【却下】という文字が書かれたパネルが表示されたので、【申請】の文字を指でポチッと押します。」


「うわっ!」


 レイが驚きの声を上げる。

 というのも、レイの目の前にいきなり半透明のパネルが表示されたのだ。


「今、レイ様の目の前にパネルが表示されたかと思います。なんて書いてありますか?」


「【承認】と【却下】って書かれてるよ。」


「でしたら【承認】を押してみてください。」


 レイは恐る恐る承認のボタンに指を伸ばす。


「承認っと……あっ!リリー・フラウエンがパーティに加入しましただって!」


「これで私のパーティ加入が完了しました!」


「おー、すごい便利だね。じゃあみんなもやっちゃおう!」


 こうして無事、全員のパーティ加入が完了した。

 そこではたと何かを思いついたレイは、ニケの名を呼んだ。


「そうだ。ニケー!!」


 レイの呼びかけに気づいたニケがこちらに歩み寄ってきた。


「……や、やあ!冒険者登録は終わったのかい?」


「ああ!パーティ申請も済ませちゃったからニケもパーティに加入してもらおうと思ってね。」


「そ、そうなんだ……それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな……」


 そう言って、ニケもパーティ加入の手続きを完了させた。


「これでニケもパーティの一員だね!明日はよろしく!」


「うん……そ、そうだ!時間も遅いから宿に案内するよ!」


 どうにも歯切れの悪いニケの案内で、一行は宿へと向かうのであった。




 ――――――――――――――――




「ここが【コウモリの宿木亭】だよ!」


 レイたちはニケの案内で宿泊する宿に来ていた。


「……名前の割りには綺麗な外観だね。」


「この宿が最悪なのは名前だけで、部屋と料理は一級品さ!」


「おいこらニケ!誰の宿が最悪だって!?」


 ニケが宿の悪態をついた途端、宿の中から女性の怒鳴り声が聞こえた。


「げっ!アンネさん!」


 宿から出てきたのは、50代くらいの小太りの女性だった。

 やりとりから察するに宿のオーナーだろう。


「ん?だれだい、あんたたち?」


「僕はレイと言います。ニケの紹介でこの宿に来ました。」


 レイの答えを聞いて、アンネはニケに笑顔を向けながらニケの背中を叩いた。


「おー!なんだいニケ!良い仕事するじゃないか!」


「痛い!痛いよアンネさん!」


 加減というものを知らない、もはや打撃とも呼べる攻撃に悲痛な声をあげるニケ。


 ニケの叫びが通じたのか、手を止めたアンネはレイに声をかけた。


「あんた、レイと言ったかい。泊まるのは5人で良いのかい?」


「はい。そのつもりですが……」


「ですが?」


「泊まるかどうかは、この宿の料理を食べて判断させていただきます。」


 もはや日も暮れ始めており、今から別の宿を探すのも一苦労だというのに、レイはいつか見せたような挑戦的な笑みをアンネに向けた。


「はっ、良い度胸だ……入んなっ!あんたらの度肝抜いてやるよ!」


 そう言い捨てると、アンネはずかずかと宿の中へ戻って行く。


「これは……期待できそうだ!」


 自信満々なその後ろ姿を見て、レイはワクワクした表情で後に続いた。




「さあ食いなっ!!」


 ドンッとテーブルに大皿が置かれる。

 そこにはナニカの骨付き肉が乱雑に積み上げられていた。


「これはなんの肉なんですか?」


 特に注文もせずに持ってこられたので、レイたちにはこれがなんの肉なのかは分かっていなかった。


「コウモリの肉だよっ!」


「「「「「え゛っ」」」」」


 コウモリの肉など食べたことのない面々は、揃って顔をしかめた。

 そして、レイたち以外に食事をしている客がいないことにも納得がいった。


「まあ、最初はそうなるよね。」


 ニケはそう言いながら皿に乗ったコウモリ肉を手に取り、口へ運んだ。

 もぐもぐと咀嚼するニケをレイたちは信じられないものを見る目で眺めていた。


「うまいっ!やっぱりコウモリ肉を料理させたら、アンネさんの右に出るものはいないね!」


「調子のいいこと言ってんじゃないよ!」


「いてっ!」


 一連の流れを見守っていたレイだったが、意を決してコウモリ肉へと手を伸ばし始めた。


「レ、レイ様……正気ですか?」


 突然の奇行に、アルはレイの正気を疑った。


 レイは一度目をつむり、パッと見開いた目でアルをしっかりと見定め、諭すように言葉を紡ぎだす。


「アル……人が歩いたところに、道はできるんだよ。」


「何をおっしゃっているのか理解に苦しみます。」


「つまり何事も挑戦ということだよ!おりゃー!」


 困惑するままのアルをよそに、レイは勢いのままにコウモリ肉を口に運んでみせた。


「「「「…………」」」」


 レイ以外の面々は、レイが咀嚼する様を固唾を飲んで見守った。

 ごくり、とレイが肉を飲み込む音が聞こえてくる。


「…………え?うまっ……」


「「「「えっ!?」」」」


 食べた本人よりも、食べていない者たちの方が驚いていた。


「想像してたような臭みも全くなくて、簡単に噛み切れるくらい柔らかい。そして噛んだ瞬間に少しだけ溢れる肉汁にはほのかに甘みがあって、飲み込んだ時ののどごしはなんとも言えない。控えめに言って……最高です。」


「そうだろう!そうだろう!」


 アンネはレイの反応に満足したようで、腕組みして笑顔でうんうんとうなづいていた。


「「「「…………」」」」


 それを見ていた4人はゴクリと生唾を飲むと、一斉にコウモリ肉を口に運んだ。


「「「「っっ!!」」」」


 4人に衝撃が走る――


「こ、これはっ!なんて柔らかさだ!」


「歯がなくても噛み切れちゃいます!」


「肉汁、あまい」

「しょっぱいのとあまいのが交互に襲ってくる」


 全員が全員、コウモリ肉に対して好意的な評価を下していた。


「これは、ダンジョンに生息しているフルーツシュレーガーっていう魔物の肉なんだよ。」


「その名の通りフルーツを主食にしているコウモリの肉だからね!肉汁が甘いのはそのおかげさ!」


 ニケとアンネの説明によって、コウモリ肉の美味しさの秘密が明かされる。


「へえ。ダンジョンって食料庫としても優秀なんだね。」


「この都市の経済はダンジョンの物資で成り立ってるんだよ。他にも武具や魔法具なんかもダンジョンで手に入るんだ。」


「武具や魔法具も?それってどういうこと?」


「ダンジョンには宝箱があって、その中に武具や魔法具が入っているんだよ。」


「いったい誰がそんなものを……」


「誰が、とかじゃなくてダンジョンが生み出してるんだけど、これについては解明されていないことの方が多いんだよ。」


 宝箱に人にとって価値のあるものが入っているのは、ダンジョンが冒険者たちを誘い込むため、など眉唾な説が多数ある。

 しかしそれは、どれも根拠に乏しい、空想の域を脱しないものであった。


「そうなんだ。特にデメリットもなさそうだし、気にする必要はないのかな?」


「ところが、そうでもないんだ。」


「どういうこと?」


「ここでオイラの職業が関わってくるんだけど、宝箱には罠が仕掛けられてる場合もあるから、迂闊に開けると最悪死ぬ可能性もあるんだよ。」


「なるほど……それで罠士の出番ってわけだね。」


 宝箱を開けた途端、槍が飛び出してきたり、爆発したりと色々な罠が存在する。

 それらの罠を解除するのも罠士の仕事の一つなのだ。


「そう……なんだけど、さっき冒険者ギルドで会った男たちも言ってたように、オイラは難易度の高い罠の解除はまだできないんだ。今はEランクダンジョンの罠解除が精一杯さ。」


「罠士の腕をあげるのはそんなに難しいの?」


「……成長方法自体は確立されてるんだ。っていってもダンジョン内にある難易度の高い罠の解除にひたすら挑戦するっていうだけなんだけどね。」


「え?それなら……」


「それが難しいんだよ。罠士の適性があるような人たちは、戦う力に恵まれていないことがほとんどなんだ……」


「なるほどね……」


 難易度の高い罠というのは、より高ランクのダンジョンに存在し、高ランクのダンジョンには強い魔物が出没する。

 戦う力に恵まれない罠士が一人で挑めばどうなるか……結果は火を見るより明らかであった。


「だからこそ罠士は、固定パーティに加入してパーティの成長とともに腕を上げていくしかないんだよ。」


「……そういえば冒険者ギルドでも聞いたけど、ニケはなんで固定パーティに入らないの?」


「……オイラも最初はパーティ所属の罠士だったんだよ。」


 ニケは一度言葉を区切り、過去を思い出すように視線を虚空に向けた。


「田舎から幼なじみの奴らと一緒にダンジョン都市にきてパーティを組んだんだ。Eランクダンジョンから始めて、最初は苦戦しながらだけど、みんなで協力しあって色んな困難を乗り越えていった。」


 上に向けていた顔は自然と下に向き、表情には悲しみを浮かべながらニケは話を続ける。


「……でも、Eランクダンジョンを余裕を持って踏破できるようになる頃には、オイラとみんなの間にレベル差ができちゃってたんだ。」


「っ!!」


 ニケの話に心当たりがあったリリーは、当時を思い出して悲痛な表情を浮かべる。


「話の腰を折るようで悪いけど、罠士って、戦闘においては魔物を罠にかけてパーティのサポートをするんだよね?それで経験値は得られると思うんだけど……」


 レイが、話を聞いていて感じた疑問をニケに尋ねる。


「本来はそうなんだけどね……幼なじみたちは戦闘センスがあったみたいで、オイラの罠がむしろ邪魔だって言われちゃって……」


「うーん。それは単純な連携不足なだけだと思うけど。」


「ははっ……全くその通りだね。でもオイラはみんなの邪魔になるのが怖くて、言い出せなかった。そして、パーティがDランクダンジョンに挑む頃にパーティから追放されたんだ。代わりにCランクレベルの罠士がパーティに加入したらしいよ。」


「幼なじみなのに、薄情な連中なんだね。」


 レイはわずかな怒りを滲ませる。


「そんなパーティは、なにもオイラたちだけってわけじゃないよ……みんな、この都市の熱気にあてられて人が変わっちゃうんだ。」


 ダンジョン都市では、良くも悪くも実力が全て。

 ついて来れないものは切り捨てられる。


 そんな空気がこの都市全体を覆っており、それはこの場所に身を置くものならば覚悟しておかなければならない。


 それが、ダンジョン都市にいる大多数の冒険者の共通認識であった。


「な、なんか変な空気になっちゃったね!!オイラ、Eランクダンジョンの罠なら熟知してるからさ!ファーストダイブなら役に立てると思うよ!」


 暗くなってしまった空気を払うように、ニケは努めて明るい声で話題の転換を図った。


「ふぁーすとだいぶ?」


「え?ああ……1回目のダンジョン入りのことをファーストダイブって言うんだよ。」


「おー!ファーストダイブってなんかかっこいいね!」


「ファーストダイブ」

「良い響き」


「よーし!明日はファーストダイブだ!気合入れて行こー!!」


「「「「おー!」」」」


 レイのいつもの音頭に全員が右手を掲げて応える。


 すると、話の最中ずっと横にいたアンネさんから声がかかった。


「……あんたたち盛り上がってるところ悪いんだけどさ。結局泊まるのかい?泊まんないのかい?」


「それはもちろん!」


「「「「「宿泊で!」」」」」


 ダンジョン都市におけるレイたちの拠点が決定したのであった。

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