028 ダンジョン都市
ダンジョン都市。
それはギルドによって運営と管理が行われる自由都市である。
故に、国の影響力が及ぶことはなく、力さえあればどこまででも高みを目指すことができる。
ギルドには大小様々あり、主要なギルドといえば冒険者ギルドと商業ギルド。
中規模なギルドには、鍛冶ギルドや治癒ギルドなどがある。
ダンジョン都市に存在するギルドは、大陸内全てのギルドを統括する総本山であり、そのトップも通常とは違い【グランドマスター】という呼称で呼ばれる。
それだけの力が集中する場所には、当然強者も多く集まってくる。
とはいっても、ダンジョン都市ではダンジョン内の魔物を相手にしているだけでは生きていけない。
ダンジョン外でも人間同士の権謀術数が渦巻いており、それを回避し、時には利用するだけの知力も必要なのだ。
毎日何百人と死人が出るその都市に、今、足を踏み入れた若者たちがいた――
「王都とは違った活気があるねー。」
「色んな種族が入り乱れていますね。」
「熱気がすごいです。」
「冒険の匂いがする」
「お肉の匂いもする」
レイたち一行は、バルカディア王国を出てダンジョン都市ガルディアへとやってきていた。
ガルディアは、バルカディア王国から馬車で2週間以上移動した場所にある。
しかしレイたちは、身体強化の訓練も兼ねてこの距離を7日で移動していた。
「すごく高い塔があるけど……あれもダンジョンなのかな?」
「はい。あれは5つの未踏破ダンジョンのひとつであり、攻略難易度最上位クラス。今まで数多の冒険者の命を刈り取ってきた、SSランクの【神威】ダンジョンです。」
「攻略難度最上位クラス……」
「今の私たちが挑めば、5層にすら辿り着けないでしょう。」
「……あの塔って何階まであるんだろうね?」
塔は雲を突き抜け、天高く伸びており、下から全容を知ることはできない。
「あくまで噂でしかありませんが……全部で100階層なのではないかと言われているようです。」
この噂は冒険者たちが語るただの妄想に近い想像でしかない。
100階層と言っているのもキリが良いからという理由だけで、根拠と呼べるものは全くなかった。
「ちなみに、先ほどこのような紙が配られておりました。」
「えーと、なになに……Sランクパーティ【原初の祈り】が1年ぶりに階層突破。ついに71階層への道が開かれた……」
レイはアルから手渡された紙を声に出して読んだ。
「1年ぶりって……1階層進むのに1年もかかるんですか!?」
「いえ、そうでもないみたいですよ。10の倍数の階層は、難易度が格段に上がる傾向があるようです。」
例外もあるが、基本的に10の倍数の階層は警戒度を一段あげるよう、冒険者ギルドも呼びかけを行っているようだ。
「ふーん……とりあえず冒険者登録しに行こうか!僕とベル、リルはまだ冒険者ですらないからね。」
「冒険者、なる」
「冒険者……良い響き」
アルとリリーはレイの部隊に入る前から冒険者登録を行っていたが、レイとふたごはまだ冒険者登録をしていなかった。
「ということでアル!案内お願い!」
「……申し訳ございません。私もダンジョン都市に来るのは初めてでして。」
アルが申し訳なさそうに告げる。
ダンジョン都市について知識としては知っているが、土地勘に関してはレイと同じく全くないのであった。
「あ、そうなんだ。リリーは来たことあるんだよね?」
「ごめんなさい。かなり前のことなので記憶が曖昧で……」
「そっか。それじゃあ誰かに聞くしかないね!えーと……」
レイは周りを見渡して声のかけやすそうな人物を探す。
そこに突如声がかかった。
「お兄さん!何かお困りかい!」
顔を向けると、そこにはふたごと同じくらいの背丈の少年が立っていた。
「ん?君は?」
「オイラかい?オイラはニケ!冒険者さっ!」
ニケと名乗る少年は人懐っこい笑顔をレイに向けてくる。
「ふーん。それで……そのニケくんがどうしたの?」
「いやいや!用があるのはお兄さんたちだろう?何か探してるみたいだったけど。」
「え?あ、ああ……実は冒険者ギルドを探してるんだけど、僕ら土地勘がなくてさ。」
「なぁんだ。そういうことならオイラが案内してあげるよ!」
ニケは胸をドンと叩いて、どこか自慢げな表情を浮かべた。
「いいの?」
「もちろんさ!困ったときはお互い様ってね!」
「じゃあ……お願いしようかな?」
冒険者ギルドへの案内は必要だったので、少し怪しさは漂っていたものの、レイはニケの申し出を受け入れた。
「ほいきたっ!冒険者ギルドはこっちだよー!」
レイたちは、元気に歩いていくニケの後ろに続いて歩き出した。
ニケに続くこと数分。
レイたちは冒険者ギルドの前に着いていた。
「ここが大陸中の冒険者ギルドを統括する冒険者ギルド本部だよ!」
ニケが指し示す先には、山と見紛うほどの建物があった。
「辺境伯領の冒険者ギルドも大きかったけど……」
「これはもはや、要塞ですね……」
レイの言葉にアルが続ける。
外壁が石で作られたその様子はまさに要塞然としており、見る者を圧倒する出立であった。
「初めての人はびっくりするよね。オイラも初めて見たときは腰を抜かしたもんさ。」
レイたちが驚いている様を見て、ニケは腕を組み、うんうんと訳知り顔でうなずいた。
「さあ!中も案内するよ!」
冒険者ギルドの扉を開け、中に入るよう促すニケ。
レイたちはニケに促されるままにギルドの中へと足を踏み入れた。
するとそこには、1000人は収容できそうな大きな空間が広がっていた。
天井は30m程度の吹き抜けになっており、豪華なシャンデリアが等間隔で配置されている。
中は冒険者と思われる者たちでごった返しており非常に騒がしいが、辺境伯領の冒険者ギルドとは違い酒場は併設されていないため、酔った冒険者が騒いでいるわけではなさそうだった。
耳を傾けてみると、パーティメンバーの募集や、逆に自分を売り込んでいる者の声も聞こえてくる。
「これが冒険者ギルド本部か……なんというか……圧倒的だね。」
「はははっ!こんなのに飲まれてたら、ここで冒険者なんてやっていけないよ!それで?冒険者ギルドにはどんな用事で来たんだい?」
「ああ。冒険者登録をしたくてね。」
「ははーん。もしやお兄さん、冒険者ギルド本部での登録に憧れてるクチだね?」
ニケが全く見当違いの邪推を披露する。
表情もにやついており、片眉をあげながらレイを見てくる。
「え?違うけど……」
「別に恥ずかしがることじゃないさっ!実はオイラもそうだったからね!」
「いや、ホントに違うんだけど……」
レイは強引に話を進めるニケを止めようと手を伸ばすが――
「さあ!受付はこっちだよ!」
ニケは、レイの否定に聞く耳をもたず、受付の方へと歩いていった。
「…………」
なんだか不名誉な誤解をされてしまい、レイは手を伸ばした体勢のまましばし固まってしまうのであった。
冒険者ギルド本部は、受付の数も他のギルドの比ではない。
それでも毎日、受付の前には冒険者による長蛇の列が出来上がる。
冒険者登録専用の受付があるのだが、冒険者ギルド本部では毎日1000人を超える冒険者登録が行われる。
1日を通して、この列が途切れることはほとんどない。
レイたちもその列の最後尾に並ぶことになった。
「冒険者登録するだけでも一苦労ですね。」
「宿もまだ見つけてないのに、これじゃあ日が暮れちゃうよ。」
アルは待ち時間のことを考えて少しうんざりした顔を見せた。
レイはまだ宿を探せていないことが気にかかっていた。
「お兄さんたちまだ宿とっていなかったのかい?」
「うん。とりあえず冒険者登録を先にしておこうと思ってね。」
「それならオイラが宿を取っておこうか?」
「え?いいよ。そこまで迷惑はかけられないし……」
冒険者ギルドまで案内してもらっただけでもありがたいというのに、宿までとってもらうというのは流石に気が引けた。
「いいって、いいって。ここで会ったのも何かの縁だろうし、最後までお世話させてよ!」
「いやあ、でもなあ……」
「じゃあ、オイラを一度ダンジョン攻略に連れて行ってくれないかい?」
「ニケを?」
ニケの突然の提案にレイは疑問を返す。
「ああ!オイラ罠士なんだけど、パーティに所属してないからさ。罠士のいないパーティに臨時で入って食い扶持を稼いでいるんだ。」
ニケはパーティに所属しないフリーの冒険者であり、単独で魔物を倒せるほど強くないため、ダンジョンに入るにはどこかのパーティに臨時で加入させてもらう必要があった。
「そうなんだ……ちなみに罠士って何をする人なの?」
「罠士っていうのは、ダンジョンに仕掛けられてる罠を見破って解除したり、逆に魔物に罠を張ってパーティをサポートする職業さ!」
「へぇー。ダンジョンって罠が仕掛けられてるんだ。」
「そりゃそうさっ!Eランクのダンジョンでも、初見だと死に至るレベルの罠もあるからね。ここ、ダンジョン都市において罠士は必要不可欠な職業なのだ!」
「じゃあニケはなんで固定のパーティに入らないの?」
「ぅぐ……それは……」
ニケがレイの質問に答えあぐねていると――
「おー!ニケじゃねえか!」
会話に割って入ってきたのは、ガタイのいい獣人の男性2人組であった。
「なんだ、なんだ?またどっかのパーティに寄生しようとしてんのか?」
「き、寄生だなんて、オイラそんなつもりはっ――」
男の言葉にうろたえるニケ。
先ほどまでの活発さは、すっかりなりを潜めてしまっていた。
「よく言うぜ!お前にできるのなんて、Eランクダンジョンの罠解除ぐらいじゃねえか!」
「まったくだ。対魔物への罠なんて、成功してるところ見たことねえしな。」
「っ!……」
男たちの侮辱とも取れる評価に、ニケは返す言葉が出なかった。
「正論言われてぐうの音もでねえか?お前たちも騙される前で良かったなぁ。」
「冒険者登録の列に並んでるってことは新人だろ?お前ら運がいいぜ。俺たちが手取り足取り教えてやるよ。」
男たちが対象をレイたちに変更したかと思うと、下卑た視線とともにリリーに向かって手を伸ばし始めた。
「それには及びませんよ。」
レイは伸ばされた手をガシッと掴みながら、男の提案を却下する。
「あ?なんだてめえ。その手離せや。」
そう言いながら、腕を掴まれていない方の男がレイの肩を掴もうとする。
「僕はレイ。一応このパーティのリーダーをやっている者です。」
レイは自分に向かって伸ばされた手も、ガシッと掴んでみせる。
「申し出は大変ありがたいのですが、まずは自分たちの力だけで挑戦してみたいんです。」
「おい!おまっ、マジで離せっ!!」
「こいつ!どんな握力してやがんだよっ!」
レイは、顔に笑みを浮かべながら男たちへ丁寧な説明を行うが、掴んだ手は一向に離す気配がない。
男たちは、まるで巨岩に腕を取り込まれたかのような感覚に陥っていた。
「ですので……お引き取りいただいてもよろしいでしょうか?」
「分かった!分かったから手を離せ!」
男の言葉を契機に、レイは掴んでいた手をパッと離した。
急に手を離されたためよろける男たち。
「分かっていただけたようで何よりです。」
尚も笑顔を崩さないレイ。
「……お前、顔覚えたからな。」
「ダンジョンでは精々背後に気をつけな!」
男たちはそう捨て台詞を吐いて去って行った。
レイは去っていく男たちの背中を見て呟く。
「どこの街でもああいう輩はいるんだねぇ。」
「奴ら、おそらくダンジョンの中で何かしらの接触をしてくるでしょうね。」
「まあ、あの程度ならどうとでもなるから大丈夫じゃないかな。」
「お、お兄さんたち、強かったんだね……」
目の前で起こった出来事を呆然と見つめていたニケが、ポツリと感想をこぼす。
「たまたまあの人たちが弱かっただけだよ。」
「いやいや……たしかにあいつらは名の知れた冒険者というわけじゃないけど、腐ってもDランク冒険者……普通の新人冒険者なら逆立ちしても敵わないよ……」
「まあまあ、それで……何の話だったけ?」
あっけらかんとしたレイの態度に、絡んできた男たちの強さを説明するニケだったが、全く響いた様子はなかった。
「ニケさんが我々の宿を取る代わりに、一度ダンジョンに同行したいというお話です。」
「そうだったね!僕は別にいいと思うけど……みんなはどうかな?」
「私は問題ないかと思います。」
「私も、ニケさんが良いと思います。」
「「異議なし」」
「全員一致だね。ということでニケ。ダンジョンに行くのは明日になると思うけどそれで良いかな?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!お兄さんたちそんなに強いんならオイラは必要ないだろう!?」
とんとん拍子に、自身がパーティに加入する流れとなり慌てるニケ。
「え?さっき、初見なら死ぬレベルの罠もあるって言ってたのはニケじゃないか。」
「それはそうだけど……そんなの滅多にないし……」
「リスクを潰せるなら、それに越したことはないよ。」
「うぅ……」
なぜかニケが説得されているような構図となっていた。
そこに受付の女性から声がかかった。
「次の方ー」
「あ、順番だ。ニケ、詳細はまた後で詰めよう。」
そう言ってレイたちは、ニケを置いて受付に歩いて行った。
「どうしよう……オイラじゃ絶対足手まといだ。」
ニケは先ほどのちょっとした騒動で、レイの実力はもちろん、全く動揺していなかった他のメンバーの実力も、ある程度予想がついてしまった。
レイたちがニケの予想通りの実力であれば、自分は必ず足手まといになる。
「……よしっ。」
そのことが分かっていたニケは、レイたちが戻ってきたら同行を断ろうと決意した。
――しかしその時、ニケに声をかけるものが現れた。
第二章始まりました!
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