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022 合同訓練1

 次の日の朝、レイたちは城門前に向かって歩いていた。


「朝ごはんも美味しかったねぇ。」


「美味しかった」

「晩ごはんも楽しみ」


 レイの言葉にいち早くふたごが反応する。


「お部屋も清潔でベッドもふかふかでした!」


 リリーは、食事よりも部屋での生活が印象的だった。

 野営の時はテントの中とはいえ、地面に寝ているようなものだったので、1日ぶりに利用したベッドはリリーを存分に癒してくれた。


「みなさん、そろそろ気持ちを切り替えましょうね。」


 これから始まる合同訓練に緊張していたアルは、全員の気の緩み具合に不安を感じていた。


 一行が城門前につくと、門兵が声をかけてきた。


「レイ様でお間違いありませんね?」


 騎士団長のフリッツから話が通っていたのだろう。

 前日とは違う門兵だったが、しっかりとレイの名前を言い当ててきた。


「はい。レイです。」


「ようこそお越しいただきました。それでは王国騎士団の訓練場にお連れいたします。」



 ギギギッ



 そう言って門兵が合図を出すと、門が開きだした。

 どうやら王国騎士団の訓練場とやらは王城の敷地内にあるらしい。


 レイたちは門兵の導きに従い、門の中へと歩みを進めた。




 綺麗に舗装された道を、門兵に続いて歩くこと数分。

 大きな建物の前で、門兵が足を止めた。


「レイ様をお連れいたしました!」


 門兵が声をかけたのは、建物の前にいた若い男性の騎士だった。


「うむ、ご苦労。下がって良いぞ。」


「はっ!失礼いたします!」


 騎士はどこか偉そうな口調で門兵を下がらせた。

 門兵が去ったのを確認し、騎士はレイに向かって声をかけてきた。


「お前がレイか?」


「ええ、レイと申します。」


 初対面で、自ら名乗りもせずに、ニヤけ顔で、呼び捨て。

 厄介ごとのにおいしかしない。

 レイは内心でそう毒づくも、表情にはおくびにも出さなかった。


「本当に子どもなのだな。子守を任されるとは王国騎士団も舐められたものだ。」


 明らかな挑発だ。



むっ



 レイ以外の面々は精神的にまだまだ幼いため、感情が表情に出てしまう。


「なんだ、その目は?平民如きが、私に何か文句でもあるのか?」


 レイはその一言で、騎士の態度に得心がいった。

 完全なる選民思想。

 つまり、昨日会った騎士団長も目の前の男も、そしてあるいは王国騎士団という組織全体が貴族で構成されているのだろう。


「とんでもございません。皆、慣れない王都に少し緊張しているのです。」


 レイは、これ以上は何も得がないと判断し、話をそらすことにした。


「たしかに、田舎者どもには王都の……それも選ばれし者しか入れないこの王城の敷地内を歩くのは肩身が狭かろう。」


「おっしゃる通り、この王城こそ王国栄華の象徴!田舎者の我々には少し眩しすぎるようです。」


 レイはまるで舞台役者のように、大袈裟とも言える身振り手振りを加えて騎士の話に乗る。


「……ちっ。訓練場はこっちだ。ついてこい。」


 嫌味に全く釣られないレイに騎士は舌打ちを鳴らし、背を向けて建物の中へと歩き出した。


「レイ様、申し訳ございませんでした。」


 アルは、自分たちの態度のせいでレイに面倒をかけてしまったことを謝罪した。

 リリーやふたごも申し訳なさそうにしょんぼりしている。


「良いって良いって。……それよりもこの合同訓練。思ったより厄介そうだね。」


 騎士団の中でも先ほどの騎士が少数派というわけではないだろう。

 合同訓練の先行きが心配になるレイだった。




 騎士の後について建物に入っていくと、そこには大きな空間が広がっていた。

 ここが騎士団の訓練場なのだろう。

 訓練場の真ん中には騎士団と思われる者たちが整列しており、その前には先日顔を合わせた騎士団長のフリッツが立っていた。


「よく来たな。」


 レイたちの姿を認識したフリッツが声をかけてくる。


「紹介しておこう。今日から我々と合同訓練を行う。辺境伯軍の客将殿とその部隊のものたちだ。」


「レイです。よろしくお願いします。」


 レイの頭を下げたのに合わせて、他の面々も合わせて頭を下げた。



ぱちぱちぱち



 フリッツが拍手をし始める。


「この通り、ある程度の礼儀は弁えているが、それでも彼らは平民だ。多少の不作法には目を瞑るように。」



ドッ



 フリッツの言葉に騎士たちが笑い始める。


 先ほどレイに迷惑をかけたばかりなのだ。

 アルたちはぐっと手を握り締め、怒りを押さえ込んだ。


 頑張って我慢しているアルたちの様子を見て、レイは子どもの成長を見守るようににこっと笑った。

 そして、安い挑発に乗る気はないというふうに、レイは騎士団長に質問を投げる。


「我々の紹介も終えたところで、合同訓練の内容をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」


 レイが挑発に乗ってこないことも予想できていたのだろう。

 フリッツは特に気にする様子もなく話し出した。


「いいだろう。例年の合同訓練であれば模擬戦闘をやるところだが、如何せん今回はそれができそうにない。」


 フリッツはここでもバカにしたような口調で、人数の少なさを引き合いに出してくる。

 騎士たちからはクスクスと笑い声が聞こえてきていた。


「そこで、此度の合同訓練は、客将殿の部隊と騎士団から選出したメンバーで1対1の試合を行う!」


「試合……ですか。」


「何か都合でも悪かったか?」


「いえ、特に問題はありませんが……訓練の目的はなんでしょうか?」


「訓練の目的だと?そんなもの決まっているだろう。客将殿の部隊の力量を見るのだ。いざ戦争が始まった時のために、貴殿らの力量を知っておくことは重要だろう?」


 フリッツの言うことは最もだ。

 この大陸では戦争が絶えないとアルも以前言っていた。

 次の戦争に備えてレイたちの力量を把握しておくことは確かに重要なことに思える。


 しかし――



ニヤニヤ



 騎士たちのニヤけ顔を見るに、力量を確かめることが本来の目的でないことは明白だった。

 これだけの人数の前で、こちらをいたぶってやろうとでも考えているのだろう。


 とはいえ、ここで反対などできるはずもない。


「承知いたしました。ひとつだけお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」


「お願い?ハンデはつけないぞ。それでは力量を確かめることができないからな。」


 フリッツはこちらのお願いを勝手に予想して嫌味を返してくる。


「いえ、そうではございません。こちらのふたごなのですが、彼らは2人でいる時にこそ真価を発揮いたします。なので彼らだけ2対2の対戦にさせていただけませんか?」


 フリッツはチラッとふたごを一瞥する。


「……まあいいだろう。」


 特に問題はないと判断したのか、肯定の意を返した。


「ありがとうございます。」


「ではルールの確認を行う。武器や魔法は全て使用可能。身体の欠損や死に至らしめる攻撃は禁止とし、どちらか一方が降参、あるいは戦闘続行不可能と判断された場合を決着とする。」


(冒険者ギルドの決闘制度とほぼ同じだな。)


 リリーの一件で決闘制度のルールを知っていたレイは、すんなりと内容を飲み込むことができた。


「ルールの説明は以上だ。それでは戦う順番を決めてもらおうか。」


 レイはみんなを集めて言った。


「勝手に決めちゃってごめんね?」


「いえ、引き受けて良かったかと。断ったら何を言われるか分かりませんでしたからね。」


 アルは今もニヤニヤしている騎士たちの方を振り返って呟いた。


「それで順番なんだけど……」


 レイは一同をぐるっと見渡して、リリーで視線を止めた。


「まずはリリーに出てもらおうと思う。」


「わ、わたしですかっ!?」


 まさか自分がトップバッターだとは思っていなかったリリーは驚きの声を上げた。


「ああ。相手は完全に僕たちを舐めきってる。……だからこそ最初はリリーに出てもらった方がいい。」


 戦闘という意味では、部隊の中で一番弱いのはリリーだ。

 それはリリー自身もよくわかっていた。


 他のメンバーが最初に出てしまえば余計に警戒されてしまい、あとで戦うメンバーが辛くなる。

 レイが言いたいことを理解できたリリーは、覚悟を決めた顔で告げた。


「……わかりました!私いきます!」


「リリー、いつも通りやれば大丈夫ですよ。」


「リリー」

「ふぁいと」


 アルとふたごの応援を受け、リリーは戦いの場へと歩を進めた。


「リリー!忘れてるよ!」


「…………」


 レイが手渡してきたのは、リリーの新武器であるガントレットだった。


「……これで戦わなきゃダメですか?」


 先ほどの覚悟はどこへやら、リリーはすがるような目をレイに向けていた。


「当たり前じゃないか!これがないと始まらないよ!」


「…………そうですね。見た目以外は優秀ですし。」


「見た目も十分素晴らしいじゃないか!」


 力説してくるレイに、これでは埒があかないと考えたリリーは諦めることを選択した。


「わかりましたよ!つければいいんでしょ!つければ!」



 ジャキッ

 ジャキッ



 両腕にガントレットを装着したリリー。


「それでは、行ってきます……」


「あっ!そうだリリー!」


「まだあるんですか……?」


 少しげんなりした様子のリリーにレイが告げる。


「今回、守護結界の使用は最低限にしてみて。」


「えっ?……それって――」


 意図を聞き返そうとするリリーだったが、その声はレイの声援によって阻まれた。


「じゃあ頑張って!!」


 レイの言葉が気にかかるも、リリーは渋々背を向けて歩き出すのだった。



 こちらの陣営からリリーが歩いてくるのを見て、騎士団の中からひとりの男性騎士が歩いてくる。

 男性騎士はリリーの前に立つなり、嫌味を吐き出してきた。


「まったく……私が女の相手をせねばならんとは。しかも、ふふっ……くはははっ!なんだその装備は!」


 後ろにいる騎士団からも、大きな笑い声が上がっていた。


(〜〜っ!!だから嫌だったんですよっ!)


 こうなることが見えていたリリーは、真っ赤な顔で俯いていた。


「おー。やっぱりみんなガントレットに釘付けだね。」


「…………」


 レイだけは、騎士団の盛り上がりはガントレットがかっこいいからだと勘違いしていた。

 事態を正確に把握していたアルは、黙ることしかできない。


「ふふふっ。私は王国騎士団所属のリーノ・フォン・ブッカーだ。お手柔らかにな。」


「……リリーです。」


 名乗りを終えた二人の様子を見てフリッツが声を上げた。


「審判は私が行う。両者とも騎士道精神に則った戦いを心がけるように。」


 戦いの審判はフリッツが行うようだ。

 レイはフリッツが審判をすることに少し不安を感じたが、何かあればすぐに自分が飛び出せばいいと考えた。


「では両者構えよ。――――はじめっ!!」



ダッ



 リリーのことを舐めきっていたリーノは、開始の合図とともにリリーに向かって突っ込んできた。


 ――それはちょうど、以前エリックがリリーに向かって無遠慮に走り寄る姿と重なった。


「せあぁっ!」



 スカッ



 リリーを切り裂くという、確信を持って振るわれた剣は、リーノの期待を裏切り空振ることとなった。


「なっ!?」


 必中のはずだった剣が空振り慌てるリーノ。

 その隣ではエリックの時と同様に、今にも拳を突き出そうとしているリリーがいた。


「やあっ!」


 完全に不意を突かれた状態のリーノにリリーの正拳突きが襲いかかる。


「くっ!!」



 ガキンッ



 決まるかに思えた一撃だったが、間一髪のところでリーノの剣による防御が間に合った。


 しかし――



ズズズズ



 衝撃を完全に殺すことはできず、リーノは地面に足が突いた状態で、数メートルほど後ろに後退させられてしまう。


「…………」


 場に沈黙が流れた。

 騎士団の面々は、口を開けた状態でぽかんとしている。


「見せかけだけの武器だと思わせ、油断させる作戦だったとはな。まんまとハマってしまったよ。」


「…………」


 ふっふっふと笑いながら見当違いの推論を話始めるリーノ。

 全くそんなつもりのなかったリリーは、咄嗟に反論することができずにいた。


「しかし!これ以上そのような小手先の策が通用すると思うな!」



ダッ



 リーノは再度リリーに接近すると、先ほどの大振りとは違い、小さく鋭い振りでリリーに襲い掛かった。



キンッ

キンッ

キンッ



「くぅぅっ……!」


 元々近接戦闘が苦手なリリーにとって、自分よりも戦闘技術が高い者との戦闘に防戦一方となっていく。

 その様子を見ていたレイは、ポツリと呟くのであった。


「これは持久戦になりそうだね。」 

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