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020 王都到着

 ガキンッ


 ――何度目になるかわからない、猪の魔物がリリーの守護結界に突撃した音だ。


「なかなか諦めませんね。」


 リリーが猪の魔物、ワイルドボアを眺めながら呟いた。


「この辺の魔物は、ガリア大森林の魔物と比べると強さも知能もだいぶ劣りますからね。」


 リリーの呟きに反応したのはアルだった。


「みんな肉が焼けたよっ!」


 レイの声で、リリーとアルはワイルドボアから目を離す。

 リリーとアルが振り向いた先では、レイが嬉しそうに焼けた肉を持っていた。


「肉」

「美味しそう」


 ふたごはよだれを垂らしながら焼けた肉を眺めている。


「ワイルドボアの肉はお店でも使われているくらいなので、味も期待できますね。」


 アルが肉の情報を追加してくれたことで、ふたごの期待はさらに高まる。


 一行がいる場所は、辺境伯領と王都を直線で結んだ場所に位置する森の中。

 辺境伯領を出発した日の夜、レイたちは森の中で一夜を明かすためにテントを2つ張り、火を起こして食事をしている最中だった。


「ベルとリルが解体してくれたおかげで、持ってきた食料を使わずに済んでよかったよ。」


「いつも手伝ってたから」

「解体は得意」


 シャキーーン


 レイから渡された解体用のナイフを手にふたごは謎のポーズを決めていた。


「そういえば――」


 弛緩した空気が流れる中、リリーが口を開く。




「ふたりはなんで奴隷になったんですか?」




「「…………」」


 先ほどまで楽しそうにしていたふたごの突然の沈黙により、明らかなマナー違反を自身が犯していることに気づいたリリーは即座に謝った。


「ご、ごめんなさい!わたっ、わたし、なんて失礼なことをっ!!」


「リリー」

「大丈夫」


 ふたごは、慌てふためくリリーを落ち着かせるように声をかけた。


「これから命を預けていくことになる仲間のことだから、リリーが気になるのも仕方ないさ。」


 レイがリリーに助け舟を出す。


「ただ、ベルやリルにも都合があるだろうからね。」


「違う。伝え方が分からなかっただけ」

「みんなには聞いて欲しい」


「良いの?無理はしなくても良いんだよ?」


「「大丈夫」」


 そう言うとふたごは、ぽつぽつと奴隷になるまでの経緯を話してくれた。


「ベルとリルは、小さい村で父様と3人で暮らしてた」

「畑を耕したり魔物を狩ったりして暮らしてた」


「父様も村のみんなも優しくて毎日楽しかった」

「村長はいつもおやつくれた」


 ふたごは話しながら自然と笑みを浮かべていた。

 ふたごにとって村で過ごしていた時間は本当に楽しいものだったのだろう。


 しかし、続く言葉は暗い表情で発せられた。


「ある日、父様に村長の家に行くように言われた」

「その時の父様、すごく辛そうな顔だった」


「村長から言われた。偉い人にお金を払えなくなったから、ベルとリルを奴隷にするって」

「村長、その日は全然笑ってなかった」


 当時の父や村長の顔を思い出しているのだろう。

 ふたごも辛そうな顔をしていた。


「帰ったら、父様が泣きながらすまない、すまないって何度も言ってた」

「あの日の父様、すごくちっちゃくなってた」


「だから、ベルとリルは話し合って決めた」

「みんなのために奴隷になろうって決めた」


「父様と会えなくなるのは悲しかったけど」

「村のみんなと会えなくなるのは寂しかったけど」


「父様が楽しく暮らせるならって」

「村のみんなが楽しく暮らせるならって」



 バッ



 ベルとリルの話を聞くや否や、リリーはふたごを勢いよく抱きしめた。


「ぅぐっ……。うっうぅぅ。」


 リリーはふたごを抱きしめながら号泣していた。


「わだっ、わだじが!ぜっだいふだりをじあわぜにじでみぜまずっ!!」


「リリー」

「ありがとう」


 リリーの思いの丈を受け止めて、ふたごは優しく微笑み、リリーを抱き返した。


「ひぐっ。これではどちらが年長者かわかりませんね。ずずっ……。」


 アルもこの温かい光景に涙を浮かべていた。


 しかし、レイだけはふたごの話を冷静に分析していた。


(ふたごの借金総額はたしか金貨30枚だったはず。決して安くはないけど、村の困窮を救えるほどの金額とは思えないな。)


 レイはふたごが奴隷になったのは、何か他に理由があるのではと考えていた。


(とはいえ、今考えても仕方ないことか……)


 ふたごが割り切っている以上話を蒸し返すのは違うと思い、レイは空気を入れ替えるように明るい声を発した。


「よーしっ!ベルとリルについて深く知ることができたところで、肉を食べようっ!」


「肉!」

「食べる!」



ぽいっ



「いでっ!」


 レイの言葉に反応したふたごは、抱きしめていたリリーを放り投げた。

 顔から地面に放り出されたリリーからは情けない声が上がる。



ガツガツ



 そんなリリーをよそに、ふたごは一心不乱に肉にかぶりついていた。


「ほらほら!アルもリリーも冷めないうちに食べて食べて!」


 レイは半ば強引にアルとリリーに肉を押し付ける。


「明日は王都に入るまで走り続けるからね!しっかり食べて、しっかり寝て、気力と体力を回復するように!」


「「おーー!」」


「「おぉぉ……」」


 肉を食べながら元気な返事を返すふたごと、まだふたごの過去話に感情移入しているアルとリリーで、きれいに反応が別れる。


 ともあれ、一行の夜はこうして更けていくのだった。




 ――――――――――――――――




 バルカディア王国の王城。

 その一室で騎士の身なりをした男がボルケ宰相と話していた。


「辺境伯軍の客将とその部隊を、何かと理由をつけて王都にとどめれば良いのですな?」


「うむ。名目上は合同訓練となっておるが、詳細についてはフリッツ騎士団長、お主に任せる。」


 騎士の身なりをした男はフリッツ・フォン・アルニム。

 アルニム侯爵家の長男であり、王国騎士団団長を国王より任されている。


「宰相殿はその客将を、栄光ある我が王国騎士団の見習いに据えようとしていらっしゃるとか。」


「うっ……。どこでそれを。」


 先日王に怒鳴られたことを思い出したボルケは苦い顔を見せる。


「風の噂ですよ。……その様子では本当のようですね。貴族でもない者を王国騎士団に加えるとは何を考えてらっしゃるのですか?」


 フリッツが同じことをボルケに聞いてくる。


「ふんっ。私とて本意ではない。しかし、あの辺境伯が客将として迎えた者だぞ?普通な者のわけがない。」


 ボルケは王への言い訳とは違い、フリッツには本音を話す。


「であれば、不審な行動ができぬよう管理せねばならん。……が、中途半端な力では制御できぬ可能性もある。」


「そこで我々王国騎士団に白羽の矢がたったというわけですな。」


「うむ。お主には彼奴の力を見定めてほしい。有用であれば王国のために役立て、無用であれば……」


 ボルケは、肝心な部分は明言しなかった。


「そういうことでしたらお引き受けいたします。やり方は任せていただけるのですね?」


「ああ、なるべく穏便にな?」


 ボルケは全くその気のない口調で告げる。


「ふふっ。分かっておりますよ。それはそうと、到着はいつになるのですか?」


「辺境伯領を今日発つ予定だったはずだ。到着は早くとも2日後――」



「失礼いたします!!」



 ボルケの言葉を遮るように扉が開かれ、男の使用人が入ってきた。


「……なんだ騒々しい。」


 ボルケは自身の言葉を遮られたことに苛立ちをにじませる。


「辺境伯軍の客将が到着いたしました。」


「…………なんだと?」


 辺境伯領から王都までは、馬に乗ったとしても速くて2日はかかる。

 昨日のうちに出発していたとしても、今日着くなどありえないことだった。


「何か身分を証明するものは持っていたか?」


「はい。辺境伯の署名が入った書状をお預かりしております。」


 使用人はボルケに預かっていた書状を渡した。


「ふむ……。」


 ボルケは書状を受け取り、しっかりと目を通す。


「……これは辺境伯の書状で間違いない。どういった方法で来たかは不明だが、どうやら本物のようだな。」


 ボルケは書状の持ち主が偽物ではないことを断定した。


「現在城門前でお待ちいただいておりますが、いかがいたしますか?」


「よい、私が直接行こう。フリッツ騎士団長、予定が変わった。お主もついてきてくれるか?」


「仕方ありませんね。」


 やれやれと肩を竦めるフリッツを連れ、宰相は部屋を出た。




 ――――――――――――――――




「王都の活気にも驚かされたけど、この王城は圧巻だねー。」


 レイたち一行はお昼頃には王都に到着していた。

 しかし、レイは初めて見る王都に感動し、観光しながらの歩みとなったため王城の城門前に到着する頃には日が沈みかけていた。


「すごい」

「大きい」


 ふたごも王城の大きさに圧倒されている様子だった。


「それにしても、1日で王都に着いてしまうなんて……。」


「そうですよね。それに……あまり無理をした感覚もありませんでした。」


 アルとリリーは、たった1日で辺境伯領と王都を走って移動できたことに驚いていた。

 最初は絶望を感じていたリリーだったが、意外にも大した苦労なく走り切れたことが不思議でならなかった。


「それはそうだよ。いつも訓練でどれだけ走ってると思ってるのさ。」


 レイは呆れた口調でアルとリリーの会話に割り込んだ。


 レイが言う訓練とは、ガリア大森林での魔物討伐のことだ。

 レイの言う通り、魔物を探している間や魔物との戦闘時は、ずっと身体強化をかけて走りっぱなしだった。

 魔物との戦いに必死だったためあまり気にしていなかったが、1日に数十キロ分は走っていただろう。


 魔物を狩らずに移動だけに専念すれば、身体強化の使えない馬より速く移動できるのは当然の結果とも言えた。


「これでようやく、僕が訓練でみんなをいじめてたわけじゃないっていうのを分かってくれたんじゃないかな?」


 レイは冗談めかして言ってみたのだが……



ババッ



「「申し訳ございませんでした!!」」


「えっ?」


 そこには勢いよく頭を下げたアルとリリーがいた。


「私はレイ様がただただサディストなだけの人かと勘違いしておりましたっ!!」


「私も!人を追い込むのが楽しくて仕方ない、人の皮をかぶった鬼だと思ってましたっ!!」


 ふたりは早口でとんでもない悪口をまくしたてる。


「……なんか思ってた反応と違うんだけど。……ていうかそんなこと思ってたの。」


 ふたりの言葉に傷ついたレイは、口元をひくひくさせていた。


「これからは心機一転!訓練もより一層力を入れる所存です!」

「所存です!」


 アルとリリーは目をキラキラさせながら今後の抱負を述べてくる。


「…………。」


 ふたりの言葉や態度に振り回され、レイは何か言う気力が湧かなくなっていた。



 ――すると、そんなレイたちに城門の中から声がかけられた。

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